【Vket2024Summer】籠岬村ホラーエリア ギミック解説
はじめに
Vket2024Summerパブリック化おめでとうございます。
今回は籠岬村のギミック実装を主に担当させてもらったということで、
惹子守り編ホラーエリアのギミックについて書いていきたいと思います。
シナリオについては触れませんのであしからず。
導入~第一のお堂
まずホラーに必要なのは暗闇そしてライトです。
暗闇によって制限された視界は本能的な恐怖心を刺激します。
当初光源に懐中電灯を用いる案もありましたがいくつかの懸念点が
ありました。
プレイヤーが失くしてしまう可能性を考慮する必要がある
懐中電灯を入手する導線を作る必要がある
道中でInteractをさせる必要があるためDesktopユーザーの場合に個別対応が必要になる
懐中電灯はホラーの雰囲気とはとてもマッチしていて良いのですが、
上記の点により、ユーザビリティに優れる視点追従タイプのライトが
採用されました。
『プレイヤーはヘッドライトでも付けているんだろうか?』という謎もありますが、まぁ大きい違和感さえ無ければそこまでゲーム的な演出に整合性は求められないだろう、という感じです。
様変わりした景色と変わり果てた出展者ブースを横目に境内を出ると第一のお堂が見えてきます。
プレイヤーは点在するお堂に入り、ギミックを解除していくことで先に進んでいくわけですが、ここで登場するのが注視ギミックになります。
菱形の錠を注視し続けることで棚が開き様々なイベントが発生します。
このギミックはVket2024Summer全体の体験設計を行った、
キャンディちゃん(@candy_f_milk)の発案なのですが、
最初に聞いたときから『これはとても怖いものが作れるぞ』と思いました。
一般的なホラーゲームでは恐怖演出を行うとき、
カットシーンなどでカメラを強制的に演出に向けることが多いです。
しかしVRにおいてはカメラ=プレイヤー自身の視界となるため、
無理やり向けさせることは即VR酔いに繋がります。
注視し続けることで起動するこのギミックは、
実質的にプレイヤーの視界を一定の方向に固定することで、プレイヤーに
与えるホラー演出のコントロールをとても容易にしてくれました。
第一のお堂の演出には二つの目的があり、
一つは注視ギミックのチュートリアル。
もう一つは今後、全てのお堂で振り返る際に何かが起きる可能性を作る事
でした。
人間には学習能力があるため、一度起きたことはまた起きるんじゃないかと警戒します。(特に振り向くと何かがあるギミックは居守祭り編も含めると
二度目です)
実際には何も無くても、プレイヤーはその可能性を想像して勝手に恐怖を
感じてくれます。
この性質についてはこちらのコラムが勉強になりました。
なぜ初代バイオハザードは怖くて、バイオ4は怖くないのか?:「なんでゲームは面白い?」ホラー特別回 (denfaminicogamer.jp)
ギミック解除後、お堂から出て階段下で新吾の台詞を聞いた先に第二のお堂が現れます。
第二のお堂
第二のお堂は直接的な表現により棚の中身自体にも脅威を感じてもらう
ために演出が配置されました。
ここで市子の死体を出すと最後の展開と整合性が取れなくなるため、
幻覚ということにして解決しています。
後に引かないホラー演出として幻覚は便利です。
当初案では、
『胴と頭だけの市子がこちらを睨むと同時に木製の胸像に切り替わる』
となっていましたが流石にアレだったため現在の形になりました。
商店街を抜けたその先、
扉を叩く音が鳴り響く中心に第三のお堂があります。
第三のお堂
びっくりという面では多分一番怖いお堂です。
壁中に貼り付けられた人形たちの視線を感じながら、
明らかに中に何かがいる棚を開けさせられるのは比較的ホラー慣れしている私でもかなり厭です。
人形はプレイヤーの視線と壁の角度が一定以下になったら落ちるのですが、
当初は壁に人形は一体しかなく、かなりインパクトが弱かったです。
制作の後半でチーム内で相談したところ、数を増やしてみようということに
なり壁中に人形が張り付けられました。
結果、落下も含めて凄いインパクトになりました。
数はパワーだと思います。
人形はVketのスタッフでもある車軸制作所さん(@shajiku_works)のモデルを使わせていただきました。
結構有名なので他のホラワで見たことある方もいるかもしれません。
怖い中にもどこか愛嬌があってとても好きです。
お堂から出るとその人形たちにお見送りされます。
ここも視線を検知してプレイヤーが見ていることを確認してから
効果音を鳴らしています。
個人的に結構かわいくて好きな演出なので、
見逃してしまった人は是非また見に行ってほしいですね。
畑から道路に進出した案山子を見つつ坂を下り、
村人に囲まれる市子の先に第四のお堂があります。
第四のお堂
これまで三つのお堂で作られていたパターンを崩しに行ったお堂です。
『慣れ』はホラーの大敵であり、
同時にプレイヤーの隙を付きやすくなるチャンスでもあります。
お堂に入る前と、注視ギミック起動中というこれまでになかったタイミングでイベントを起こすことで繰り返しに慣れてきていたプレイヤーほど新鮮な驚きを与えられます。
プレイヤー自身の顔写真を用いた遺影ギミックは厭な気持ちを与えつつも
ネタにもなる、ある意味ホラー初心者向けの体験になっており、
その後の『おこもりさまの手』ギミックの怖さをより高める役割が出来て
いたと思います。
プレイヤーの視界に追従して発生する演出は俗に視界ジャックと呼ばれ、プレイヤーの視線管理をする必要が無いという性質上VRホラーに
おいては頻繁に使われます。
それ故にVRホラーに慣れている人にとっては、少々陳腐に映ったかも
しれません。
さらに坂を下り、倒れた新吾とそれを見下ろす巫羅乃を過ぎると、
いよいよ村の出口であるトンネルが見えてきます。
トンネル~第五のお堂
プレイヤーは一度通った道を逆順で進んでいるため、
当然トンネルの先がスポーン地点だということを知っています。
スポーン地点まで行けば終わるのではないかという希望を打ち砕くことが
この区間の役割です。
トンネル内では意図的にホラー演出は入れず、自分の足音だけが響く空間にすることでプレイヤーの希望と不安を掻き立てます。
トンネルの出口には、そのままだと割と早い段階でお堂があるのが見えてしまうので接近するとフェードアウトするシェーダーを使った黒い板を貼ってあります。
これによってトンネルの出口に差し掛かるところで、禍々しいお堂、道を完全に塞ぐ霧の壁、そして邪悪さを増したBGMと、プレイヤーの希望を完全に打ち砕く演出が達成できたと思います。
第五のお堂ではとにかくプレイヤーを焦らせることが目的でした。
注視ギミックの進捗に従ってお札が燃えていくのですが、
最後のお札ほどゆっくり燃えるようになっており、
早くギミックを解除したいプレイヤーを焦らすような演出になっています。
市子の静止する声を振り切って注視ギミックを解除すると居守祭り編で見た『岬の隠し洞窟』内のお堂に移動します。
岬の隠し洞窟~エンディング
実は洞窟内にプレイヤーが飛ばされた時点で最後の演出のための諸準備が
行われています。
特に重要なのは分断ギミックの準備です。
最終段階では、プレイヤーは祠の扉の隙間から一連の演出を見ることに
なります。
この隙間から覗くという演出はホラーでは王道中の王道のため、
是非とも使いたいのですが、ここでVRChatのホラーワールドであるという
制約が牙をむきます。
想像してもらえれば分かると思いますが、複数のプレイヤーが同時に隙間を覗こうとすると他のプレイヤーが邪魔で外がまともに見れないのです。
この問題を解決する鍵が分断ギミックでした。
幸い私は4年前にこのギミックを用いたワールドを作っていたため、さほど苦労することなく実装出来ました。
強制的にプレイヤーを一人にする分断ギミックは恐怖を煽るという面でも
とても強力なのですが、その分リスクも抱えています。
それはフレンド同士で来ているプレイヤー達が合流できなくなったり、
合流に非常に時間がかかってしまう可能性があることです。
例えば、怖がりなプレイヤーが一人になった時点で一切進めなくなり、
他のプレイヤーはそれを待つしかない状況が容易に起こり得ます。
今回の場合は、分断される区間がかなり短いこと、
注視ギミックの起動以降はほぼ自動で体験が進むことなどから
採用に踏み切りましたが、
細心の注意を払って採用する必要があるギミックだと思います。
おわりに
以上が籠岬村ホラーエリアのギミック解説になります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。