Bach Goldberg Variations 3. Canone all'Unisono
同度のカノンは作りにくい。「カエルのうた」とか"Row Row Row Your Boat"式の和音が変わらないようなものはともかくとして、対位法的なカノンを書くのは難しい。
大バッハはゴールトベルク変奏曲で、同度のカノン(第3変奏)とオクターブのカノン(第24変奏)を書いており、いずれも見事なものであるが、それにしてもさすがの大バッハもちょっと調子が狂っている感は否めない。特に同度のカノンにおいてそうである。第3変奏の冒頭部分を示す。
原理的に、同じ旋律を同じ高さで同じスケールで繰り返すのであるから、おのずと同じような和声進行を余儀なくされるというのは当然のことであるが、それでもバッハはIをIIIやVIで置き換えるなどして変化を与えている。
あまり繰り返しが目立たないように絶妙の工夫が施されているのだが、それにしても、正書法からいって「間違い」とは言い切れないものの、いろいろと無理なところが出てきてしまっているように思う。四角あるいは丸で囲んだところは、普通ならこうは書かないだろうと思われるところである。
強拍にくる四六の配置、響きの悪い経過音(長7度や短9度でかすっていくのだがかすりかたがうまくないもの)、厳格書法では許されない倚音、あまり響きがいいとは思えない並行4度、不自然な跳躍、などなど。バッハもそれがわかっているから、自由声部であるバスを16分音符の速い流れにして最大限の自由度を確保しようとしたのだと思われる。また、バスをかなり低い位置にとどめて、上2声部との距離をとっている。天才バッハの苦労が見られる希な例ではなかろうかと思う。(あくまで個人の見解です)
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