2時 「木馬の夢」

暗闇の中に虹がかかり、さんさんと輝く星たちが回転木馬を照らしている。そんな光景を、君は見たことがあるかい?

 ケイタの目の前に現われた白衣のネズミは確かにそう言った。ケイタはそのネズミを先生と呼ぶことにした。

「夜の遊園地ってどうなってると思う?」
「真暗?」
 その答えを待っていたとばかりにネズミはにやりと笑う。
「そうだ。みんな真暗だと思う。でも実は違うんだ。夜の遊園地はもっと賑やかで、きらびやかなんだ。」
 まことしやかに話をしてもその内容が突拍子もなくて、ほんとのことにきこえない。そんなことをケイタが思ってもおかまいなしに、ネズミは話し続けている。
「楽しむのはそこにいる人たちだけじゃない。昨日来た人が今日楽しかったなって思ってる時とか、明日くる人が楽しみだなって思うときとか。」
「けどさ、楽しみだなって思ったとしても、遊園地には来てないんだろ?明るくならないじゃないか。」
「かしこい奴だな。さすがだよ。」

 よく分からないが褒められた。先生は悪いネズミじゃないのかもな、なんて思っていた時だった。夢のようなことが起きた。
 窓ガラスに映った光の反射が広がり、回転していく。気付いたらそこにはメリーゴーランドが写っている。これが先生の言っていた夜の遊園地だとしたら、確かにここは真暗ではない。

「君も乗ってみるかい?」
「いいの?」
「もちろん。ただし、先客とは譲り合うんだぜ。ここは奪い合う場所じゃない。」

 木馬たちには先客がいた。色とりどりの帽子をかぶって、それぞれ見たこともない不思議な楽器を持っている。楽器の奏でるリズムに合わせて木馬は走る。音楽隊も木馬も、みんな笑っていた。
ケイタは近づいて尋ねた。
「僕も乗っていい?」
 彼らは楽しそうに笑ったまま答えない。ケイタはどうやって木馬に乗っていいかわからず、少しずつ不安になってきた。
 みんなが楽しそうに楽器を演奏しているけれど、自分は何も持っていない。みんなが楽しそうに笑っているけれど、自分は笑うことができない。ここにいてはいけない気がした。

「そんなことはない。」
 いつの間にか先生が近くにいた。言葉にしていないケイタの言葉になぜだか先生は答えたようだ。
「けど僕は楽器なんて持ってない。」
それを聞いた先生は大きく笑う。
「君はあれが楽器に見えるんだね。そうか分かった。」
「楽器じゃないの?」
「君が楽器と思うなら、多分楽器でいいんだよ。で、あの楽器の名前を知っているかい?」
「知らない」。
先生が差したのは見たことのない楽器だった。
「あれは?」
ケイタはかぶりを振る。
「どれも見たことないよ。」
「だったら君自身の楽器も、まだ見たことが無いのかもしれないね。」
そういうと、先生は叫んだ。多分、木馬を呼んでくれたのだ。何の楽器も持っていないケイタだったが、ケイタには先生がついていた。

先生が呼んでくれた木馬にのって、夜の遊園地を旅した。楽器の音楽は鳴りやまない。ケイタはすぐに笑っていた。
「すごいや、ありがとう。」
「いいや、これは、木馬の夢さ。ありがとな。」
先生はやや申し訳なさそうに、感謝の言葉でなぜだかお礼を返した。

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