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「鬼滅の刃」 残念な方向性の変化

前回鬼の描かれ方の変化によって炭治郎の慈悲の心が失われた、という記事を書いた

今回はさらに物語の方向性の変化について


鬼の描かれ方の変化、炭治郎の鬼との向き合い方の変化によって「鬼滅の刃」は前半と後半で物語の方向性さえも変化してしまっている

前半は「家族を殺されても復讐の対象である鬼に慈悲の心を忘れないばかりか死に際に寄り添う優しすぎる主人公と、鬼になっても人を食わない妹が殲滅以外の方法で鬼との関係に終止符を打つ」方向性で進んでいく

「殲滅以外の方法」を期待させる描写は前半に2つある
珠世から人間に戻す治療薬の話を聞いた炭治郎が「禰豆子だけじゃなくもっとたくさんの人が助かりますよね」と言うシーンと、胡蝶しのぶから鬼と仲良くする夢を託され「がんばります」と答えるシーンだ

この2つのシーンから炭治郎は鬼の殲滅ではなくどちらかというと救済や共存を望んでいることが分かる

しかし前回書いた鬼の描かれ方の変化に伴い鬼は救済の対象ではなくなり共存はおろか、殲滅やむなしの存在となる

「鬼にも慈悲を見せ寄り添う優しい少年」という設定は置き去りになり、後半は「人類の宿敵鬼舞辻無惨を倒す復讐譚」としての色合いが濃くなる
その結果前半とは180度違う「鬼を殲滅し平和を取り戻す物語」という方向性になってしまった

こうなると前半の描写が途端に嘘臭くなる
結果として鬼を殲滅した炭治郎が救済や共存の姿勢を見せているシーンが白々しく映る
それどころか自分の妹が人間に戻った途端鬼を悪と見なす都合のいい人間にすら見えてしまう

鬼の描かれ方、鬼との向き合い方、そして物語の方向性
これらの変化により「鬼滅の刃」が迎えた結末は「日本一慈しい鬼退治」と銘打った作品としては期待外れなものになってしまったのである