４、他人の不倫は厄介だ。でも羨ましい。

今日梨花に呼び出された理由を、私は知っていた。
GW、お盆、お正月。その期間の梨花はおかしくなる。

理由は彼氏が奥さんの実家に行くからだ。
『奥さんに愛情はないと言っているくせに、奥さんの実家に行く』という行為が梨花には理解できない。自分だって旦那の実家に行くくせに。

私は梨花の思考回路が理解できないけど。

今日も梨花の言い分は身勝手で社会常識を欠いた、とうてい理解できる内容ではなかった。
「奥さんを助手席に乗せて３時間も一緒にいるなんて。」（そこは私の席なのに）
「奥さんの実家に２泊もするなんて。」（いつもは家庭内別居だけど、奥さんの実家では隣の布団だったに違いない！彼の隣は私の場所なのに）
「おまけに家族で富士急ハイランドまで行ってきたんだよ！」（私と行った事ないのに）

怒りのパワーは否定しないが、怒っている時間や心配している時間は本当に無駄だと思っている。梨花が喚こうが心配しようが嫉妬しようが、彼には彼の人生があり、家族がいる事は変えられない。
今すぐ奥さんと離婚して一緒になろう！と言われたって困る状況なのは梨花だって一緒だ。

でも彼女は怒っている。子供のように。

そもそも奥さんと同じ土俵にいるから悪いのだ。
自分の立場をわきまえなさい、と喉まで出かかったけどやっぱり言うのはやめておいた。
ただでさえ彼女は罪悪感と悔しさの間で行ったり来たりする自分の気持ちを持て余しているのに、それを言うのは残酷だと思った。
そしてわきまえているからこそ、彼に言えずに私に言うのだから。

そして私はそんな梨花がとてつもなく美しいと思った。

身体中で愛情を表現して、４０歳になろうというのに少女のように嫉妬心を露わにして喚き散らしている。そんな風になれる事が、実は本当に羨ましい。
不倫がしたい、と言っているわけではない。こんな風に理性的で冷めた感情しか持てなくなっている自分が情けないのだ。