13、引き寄せの法則
5つ年上の社長は「変わってないな!」と言った。
社交辞令かもしれないけど素直に嬉しかった。
「ありがとうございます。社長のご活躍は伺っています。お電話ありがとうございました。」
「どう、最近?」
社長はブレンドを注文するとカジュアルに聞いてきた。ブルックスブラザースの金ボタンの紺ブレがお決まりだったが、きちんと仕立てられた3ピースのスーツになっていた。
社長は背が高くて手足が長い。
きちんと計測されたオーダーメードのスーツは、それこそ上品で、あの頃以上に自信を湛える社長の表情にぴったりだった。
ちっとも嫌味がない。それも上品さがなせる技だ。
「ずっと子育てをしてきたので…すっかり主婦ですよ。あの頃の私からは考えられないですけど。でも来年次男も中学にあがるので、少しウズウズしています。」
「そうだろう、お前が一生専業主婦をやれるわけがない。」
涙が出そうだった。
一瞬で見透かされたような気になって恥ずかしくなったのと、誰にも触られないように隠してきたところに触れられてしまったのだ。それも一瞬で。
何か一言でも発すると涙が出そうだったので、笑ってごまかした。
たぶん、社長は気づいていた。
社長のところで働いていた頃の私は相当な泣き虫だった。というか、常にキャパオーバーしていたので社長の一言でいつも水風船を割るように涙が出た。私、成長してないな…
「まだ40だ。また一緒に働かないか。」
社長は容赦なしに私の心に入ってくる。いつも強引だったが、今日の強引さは今までの比じゃなく感じた。
私は口を半分開けたまま、数分固まっていたと思う。社長が色々話をしてくれたけれども全く耳に入ってこなかった。
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