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九月劇場〜文芸とお笑いのあわい、考えさせられるユーモア、色とりどりの黒〜

初めまして、はとこと申します。ふだんは小説と詩と美術館ばかりに浸っています。でも、ここで紹介していくのはピン芸人・九月さんの作品たちです。

九月さんはライブで収録したコント動画をYoutubeチャンネル「九月劇場」にアップし続けているのですが、供給量が多いのに一本一本のサムネイルも説明文も質素で、珠玉のネタが埋もれがちです。九月作品にきらめきを見出すだろう人はまだあちこちにいるはずなのに...。「自分が好きなネタの視聴数が伸びたらいいな」という気持ちがじわじわと溜まってきたので、noteを書くことにしました。九月さんを知らない人が地味なサムネイルの向こう側まで行きたくなるような、文字の橋を架けられたらいいなと思います。

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(色彩を持たない多作芸人と彼の定期ライブの動画たち)

九月さんのYoutube動画は一見地味なんですけど、見始めると「これが即興コント!?この人天才だ...」とか「賢いのにバカすぎる!どっちかにして!(好き)」って思わせてくれます。Youtubeでハマったら、いつかライブに行ってみてください。Youtubeでは冗長に見えるような台詞も、まるで別世界にいざなう螺旋階段のように心にはたらきかけてくるので...。

そもそもほとんど重複のないネタを毎日アップしているのが端的に言ってヤバいんですが、だからといって作品のクオリティが低いってことがないのが驚きです。すでに240本以上のコント動画、トーク動画も上がっていて、その供給量の多さにちょっと笑えます。毎日欠かさずコメントをつけているファンの方が複数人いらっしゃるの、すごいな〜、つよいな〜(好き)。

それから、noteを書くのにはもう一つ大きな理由があって、それは私自身が九月さんファンの方々のnoteを読むのが好きだからです。推しのファン、推せる...しあわせ。みなさん、好きなものを語るための表現力が豊かなんですよね...。

あとは、文章にまとめると自分が冷静になれるという作用もあります。動画1本5分程度といえども、毎日シュールなコントを摂取していると私は頭がグラグラしてくるので...。九月さん本人も、奈良美智の作品モチーフみたいな容姿にいつも黒い服を着ていて、なんだか普段からフィクションの世界に片足を踏み入れていそうな雰囲気があります。でもその黒くてミニマルなしつらえから飛び出してくる空想の世界がとても鮮やかで楽しいんですよね。

九月さんの作品は、空想世界への飛躍・視点の転換ウルトラC、また高尚とおバカの落差にゲラゲラ笑えるのが魅力だと思っています。日常会話の繰り返しから浮遊して、いつの間にか入り込んでいる非現実、そんなトリップ感が散りばめられた作品たち。素材はほとんど全部、学生生活や家庭、恋人との関係みたいな、よくある題材なのに、です。また現実にも起こりうる理不尽を笑い飛ばしながらもバカにしすぎず、目を背けない姿勢も伺えて好きです。

九月さんが時折noteでしたためている文章もYoutubeのコントも全部、楽しんだあとに気付いたら心の風通しが良くなっている気がします。

文章が長くなってしまいました。ひとまず最初のnote投稿なので、私が好きなネタを3つ上げようと思います。どれが1番!というわけではないんですが、とにかく好きなネタたちの中の3つ。

夜泣き

九月さんの持ち味の伏線回収と、ことばの選択のバランス感が分かりやすい一本だなと思います。なんといってもオチが鮮やか。「やられた...!!」となります。必死に生きているキモさがちょうどよく配合されているところも、好き。

パンチラと実存

なぜ生きるのか、なぜ存在するのか、その意味を考えすぎて空虚な気持ちになったことがある人は、きっと少なくないはず。このコントの主人公の場合、"意味のなさ" に抗うための対処法が "パンチラ" でした。なにそれ、バカすぎて好き...。

九月さん自身の抱えてきた葛藤とか、問題意識とか、変態性とか、それでも前向きに生きる姿勢とかも、出ている作品なのではないでしょうか。斜め上にバカなのに共感できるから、ドン引きしながらも繰り返し見てしまう中毒性があります。

九月さんを知らない方への1本目としてはちょっと効能が強すぎる可能性があるので、2番目においておきますね...。"パンチラ" が実際何のことなのかは、是非動画を見てください。

ちなみにこれは、九月さんの動画の中では視聴数が多い作品です。私みたいに気に入って何度も見に来ている人がいるのか、はたまたパンチラっていうワード検索に引っかかって見にきた人がいるのでしょうか。

(ちょっとネタバレ)『パンチラと実存』は、主人公の "パンチラ撮影" とその内実を知り、出て行ってしまったように見えた恋人 ・さくらちゃんがもっと高性能なカメラを買って戻ってきた、一見ハッピーエンドの作品です。でも意味のない行為だった "パンチラ撮影" が、恋人との特別な関係を確かめ合う儀式になってしまっています。存在意義のハードルを下げる行為だったものが崇高な意味を持ってしまったわけだから、また主人公は意味のない行為を発明しないといけないのかもしれないな。

野球語

野球に関する語彙だけで会話を完結させる父とその息子がお酒を飲むコント。「親父、変わってると思うよ」といいながら親父の意図をちゃんと理解している息子と、それに対して「ファール。」って我を通す父親のいる世界線は、なんだか勇気をくれます。

ふつう、言語って社会的なものであるはずで、"人に通じるようにしゃべる" って当たり前だと考えがちです。私はそれができないと思い悩み、コンプレックスとして引きずってしまうこともあります。言葉が通じないって、恐怖に近いものですらある。人と分かり合えないと、かなしいもん。でも息子との日常会話もサッカーの応援でも野球を経由して話すこの父は、つよい。分かり合えなさなんて意に介していなさそうで、いい感じに世にはばかっています。

またこの息子、理解不能に見える野球語をいったん抽象化して現実に即した翻訳をしてあげてるのが、つよつよコミュニケーション能力だぁ...。この父親に寄り添えるなら誰にでも寄り添えそうで、好感度がとっても高い

そして、この『野球語』が即興コントだと知った私は、これが湧き出てくる精神世界がこわくてちょっと泣きました。


以上3本の他にも、多彩で面白いコントがまだまだたくさんあります。

九月劇場にも「九月を最近知った人向け」リストがあるので、そこから見始めるのがオススメです。私が好きなのは「九月を最近知った人向け3」です。

今日はここまでにします。また、書きますね。読んでくださってありがとうございました。

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