小窓に月
夕方、窓を開けてキッチンに立っていた。
今夜のリクエストはポテトだ。
子どもたちは何が何でもポテトが食べたいらしく、ポテトさえあれば後は何でもいいらしい。この雑さ、助かると言えば助かる。
真夏の揚げ物といえばなかなかの苦行だが、ここ最近は苦行と呼ぶ程でもなくなって来た。真夏の揚げ物でかく汗が滝ならば、今日の汗はコップに張り付く水滴よ…と言ってもいいくらい、ジワっと程度だった。確実に秋の足音が聞こえて来ている。
じゃがいもの芽を取り除き、細めに切っていく。私はポテトといえばやや太めが好きなのだが、子どもたちは激細カリカリ派だ。今日は子どもたちのリクエストなので、仕方なくあちら様の好みに合わせていく。
キッチンペーパーで水気を切ったあと、熱しておいた油にじゃがいもをザッと入れ込んだ。
ジュワァーッッッッッッ
じゃがいもが元気よく油と戯れている。
私はこの揚げ物の音を、好きな生活音ランキングTOP3にランクインさせるくらいには愛している。最高に好きな音だ。来世は天ぷら屋さんを目指すのもいいかもしれない。とんかつ屋さんでもいいし、コロッケ屋さんでもいい。
揚げ物音に酔いしれながらふと窓に目をやると、そこには白い三日月が浮かんでいた。暮れゆく空にぼんやりと浮かぶその様子がなんとも綺麗で、キッチンの小窓がまるで額縁のようだった。
揚がったポテトに塩を振り、一本味見をした。まあまあそれなりのカリッと感だった。
ようやく夏休みが終わる。
長かったような、あっという間だったような。
ミスチルの歌に「母親がいつか愚痴る様に言った "夏休みのある小学校時代に帰りたい"」という歌詞が出て来るけれど、個人的に今年の夏は、子どもたちと共に結構楽しく過ごせたような気がする。幼稚園がある日は毎日6時半に起きるけれど、夏休みは毎日8時半まで寝ていたし(夫の仕事も朝は早くない)、帰省した時は川に海にと一緒に泳ぎに行き、初めての土地への旅行も出来た。
なんだ、親になった後の夏休みも結構楽しいじゃないか。
いや、そう思えるのも、子どもたちが成長した証なのかもしれない。ある程度のことは自分で出来るようになってくれたからこそ、私も一緒に楽しむ、という余裕が出来て来たのだ。
だからそう、ポテトをむしゃむしゃ食べる姿を眺めながら、こんな風にお酒を飲むことだって出来る。
それなりのポテトと子どもの成長を噛み締めつつ、私はハイボールを味わった。
またキッチンに立ち片付けをする頃には、もう月は居なくなっていた。