夜

日中の日差しにすっかり夏を感じて半袖を着るようになったのに、夜はまるで冷蔵庫の中にいるかのような冷たい空気に包まれていて、放り出された腕が少しずつ冷えていく。この街の暑さと寒さにはまだ慣れていない。時々ここは砂漠かと疑いたくなる。

お風呂上がりは窓を全開にして涼しい風を感じていたのだけれど、寝る前となるとさすがに寒くなってきたな…と窓を閉めようとしたら、真っ暗な空にひとつ、星が見えた。雲の隣で、小さな光を届けてくれている。

実家にいた頃、よく自分の部屋の窓を開けて電気を消し、星を眺めていたことを思い出す。近所の家の灯りくらいしかない田舎の夜は、星がよく見えていた。

長いこと夜の空を眺めていたら、最初には見えなかった星も少しずつ見えるようになってきた。ここ数年、じっと夜空を眺めることなどなかったことに気付く。

冷たい夜の空気を、静かにゆっくりと吸い込む。この静かな夜の冷たい空気が、昔から大好きだ。今半袖を着ているのは明らかに選択ミスなのだが、まだまだ夜を味わっていたかった。

遠くで電車の音が聞こえる。ごくたまに、車の走る音も混ざる。街頭に照らされた木の葉が、ひっそりと風に揺れている。空にはまたひとつ、見えるようになった星。

起きているのは私だけじゃないんだな、とぼんやり思った。
ひんやりとした、5月の夜。