彼岸は要らないという話
生きていた時の話。
正直に言って、多くの人に好かれていたと思う。
少なくとも嫌われていることは少なかったのではないだろうか。
お見舞いに来てくれる人も多かったし、その際に涙ぐむ人も多かった。
その後は知らないけど、恐らく送る場で涙を流す人もいたんじゃないかな。まぁ、関係ないけどね。
好かれてはいた。
でも、一緒に死んでくれるくらいに、愛してはもらえなかった。
それが結論で、それが全てだ。
『彼岸』とは、簡潔に言えば『あの世』のことだ。
『こちら』と『あちら』の隔たり。
それをよく表した言葉だといえるだろう。
『彼の岸』。
つまり、それを言葉にする人間にとっては、『あちら側』の話であり、自分たちが立っている場所とは決して交わらない場所なのである。
泣くほど私が惜しかったなのならば、共にこちらに来ればよかったのにね。
そう思った時、
私の目の前には白い羽をもつ、和服の少女が立っていた。