見出し画像

夜のコンサート

※ホラーな夢を元にした話です。


 今年の異常なまでの夏の暑さも翳りを見せた頃、車で実家に帰省した。田舎のそれなりに広い家だが、祖父の代に建てたものでどこもかしこもかなり老朽化が進んでいる。2泊3日の予定だったが、エンジントラブルで急遽車を修理に出すことになったため、修理待ちの間しばらく実家に滞在することになった。

 両親は今晩用事で出掛けるため、私が1人で留守番をすることになった。日も沈んでかなり涼しくなってきた頃、離れからピアノの音が聞こえてきた。確かに小部屋にグランドピアノが置いてあるが、弾く人間に心当たりはない。まさかのホラー展開かと一瞬体を強張らせたが、聞こえてくる音色が余りにも堂々としているため、音楽が趣味の私としては恐怖より興味が上回ってしまった。

 離れに着きピアノ部屋の襖を開ける。赤いドレスで着飾った女性が、どこかで聴いたことのあるような、かなりテンポの早いクラシックの曲を一心不乱に演奏していた。ピアノの向かいには着物の少女が4人正座しており、真剣な眼差しでピアノを見つめている。惚れ惚れするような音色だったため、私も少女達の隣にそっと正座し、じっくりとコンサートを鑑賞することにした。第1楽章が終わり、続いて第2楽章に入る。ふと隣の少女達に目をやると、6人の少女はやはりじっとピアノを見つめている。あれ、こんなに多かったか…?と記憶を疑いつつピアノに目を戻すと

"なにか"が首を吊っていた。

 "なにか"というのは、人間にしては余りにも小柄だったからだ。すぐにそれが日本人形だと気付き、声を上げる。しかし演奏も鳴り止まず、少女達も微動だにしない。明らかに人形ではあるものの、咄嗟に立ち上がり人形を降ろそうとする。「手伝ってください!」と声を掛けるも、ピアノは激しく鳴り続ける。着物少女の1人はこちらを一瞥するも、すぐに視線をピアノに戻してしまった。なんとか1人で人形を降ろしたが、首が取れた。いや、最初から繋がっていなかったのかもしれない。とにかく異様な事態に、奏者に向かって「どういうことか説明してください!」と叫んでいた。すると奏者は驚嘆した顔でこちらを見て、演奏を止めた。

 奏者に話を聞くと、祖父の代にここで度々ピアノを演奏させてもらっていたとのことだった。ある時亡くなった祖父から手紙と古ぼけた楽譜が届き、手紙は「誰もいない時を見計らって、家のピアノでこの曲を演奏して欲しい。少し変なことが起きるかもしれないが、必ず最後まで弾ききって欲しい」という旨だったらしい。奇妙な頼みだったが、お世話になった人の遺言を果たしたいということで、両親が出掛けるのを見計らってピアノを弾きにきたということだった。私が襖を開けたのは気付いたが、「お孫さんが遺言を確認しにきたのか」と思ったようだ。だがあの少女達は?と聞こうとするとそこには誰の影も形もなく、奏者に聞いても「貴方しか見ていない。何故わざわざ部屋の端っこで正座しているのかと不思議だった」と困惑していた。

 後には、首吊り用のロープと、首のもげた日本人形だけが残った。最後まで演奏を続けていたら、何が起きていたのだろうか。吊られていたのは誰だったのだろうか。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?