二人きりのホテル 第一話

 ここは、とある地方都市の繁華街にあるシティホテルの一室。白いサッシの入った窓からは都会とは違う、まばらなネオンが見え、昏い部屋にわずかに差し込む程度の光量だ。
 「玉虫さん…」、私はか細い声で呟く。このまま玉虫さんと朝までいるのだと思うと、喜ぶとともに不安感にも襲われた。

 飛行機を乗り継いで遠くの地方から、玉虫さんに会うために最寄りのターミナル駅に私は降り立った。駅前広場にあるベンチに玉虫さんはいた。実物を見たことはなかったけれど、一目で玉虫さんだと分かった。いつも聴く声と想像通りの風貌、初めて会うという感情は更々なかった。

 「玉虫さん」、私は恐る恐る声をかける。「やあ」、玉虫さんはいつも通りのトーンで返事をした。

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