冬のはじまり
甲府 桜座 冬にわかれて
秋の晴れた日。すこしだけ足を伸ばして心をじゃぶっと洗濯しにいこうと思い立った。
祝日なのにまったく人気のないシャッター商店街抜けて、たどり着いた古びたライブハウス。
入場前に検温、消毒。
35.5度だよ!低いね! 会場のおじさんが笑いながら検温をしてくれた。
すこし心配な気持ちで入ったその先の空間は、まったくなにも心配いらなかった。
本当に音楽を愛して、わざわざ集まった人たちの熱であふれていて、最高にキラキラしててみずみずしい空間。
30人ほどのキャパの会場で、おだやかにメンバー3人が出てきて、ライブは始まった。
ピアノとベースとドラム。
たった3人のはずなのに、音が始まった瞬間、一気に音も空間もみずみずしく、何とも言えない世界に変わった。
そんな何とも言えない世界にわたしは、わっと涙が溢れてしまった。
うつくしい音はずっと鳴り続けた。
冬にわかれて というバンドは、あまり知られていないかもしれない。
なんというか、いろんなことを経験して、すこしだけつかれたな、休みたいな、という大人に似合う音と詞だと思った。
外苑前で食べたプリンが美味しくて、そんなことを思いながら書いた曲「君が誰でも」
お父さんが亡くなった帰りの新幹線で、ひとり思いを書いた曲「北へ向かう」
長い人生の一コマでこんなに、深くて、甘くて、やさしくて、うつくしい曲ができること、
そんなことが、ただただ素晴らしいな、才能が羨ましいと思った。
ステージに立つ3人をみて、わたしは才能はないかもしれないけれど、すきなものにまっすぐ正直でいたい、と改めて思って、自分の中ですこしだけ道が見えた気もした。
ライブが終わって、一緒に行ってくれた友人と、レコードを買いに走った。
残り3枚しか残っていなかったレコードを抱えて、メンバーにサインをもらった。
こんな日を忘れないように、いつまでもすきにまっすぐ正直に、愛を持って、書き留めておこうと思った。
帰りの会場をでた空気は、冬のはじまりを感じた。
心はすっかり洗濯されて、とてもみずみずしい気持ちになったそんな1日の話。