EAP(従業員支援プログラム)とは? 臨床心理士が、カウンセリング開始から課題解決までのプロセスを解説します。
〈本記事の監修者紹介〉
EAPとは
◆Employee Assistance Program/社員支援プログラム
厚生労働省が定める「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の中では、メンタルヘルス対策推進のために「4つのケア」が重要とされています。「4つのケア」とは、労働者自身が自らのストレスを予防・軽減する「セルフケア」、管理監督者の行う「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、事業場外の専門機関の支援を受ける「事業場外資源によるケア」です。EAPは、4つ目の「事業場外資源によるケア」に当てはまります。(※1)
(出典:「労働者の心の健康保持増進のための指針」よりピースマインド作成)
もともとEAPは、アルコール依存、薬物依存が深刻化したアメリカで、これらによって業務に支障をきたす社員が増加したことに対応するために1960年代頃から発展したものです。日本においても1990年代頃から少しずつ浸透してきています。社員の抱えるメンタルヘルス上の課題、職場の抱える人間関係などの課題を個人的課題として処理してきた日本の企業でも、これらの課題が出現したときの対応コストをリスクマネジメントやCSR(企業の社会的責任)の一貫と捉え、EAPを導入する企業が増えてきています。(※2)また、近年ではESG経営として戦略的に企業内の環境をより良いものにするため、戦略的に導入する企業も数多く見られます。
◆EAPの種類
EAPには大きく分けて、内部EAPと外部EAPの2種類があります。
●内部EAP
内部EAPは、企業内にEAP専門スタッフが常駐し、従業員の相談に対応します。専門スタッフは、従業員自身やその上司にあたる管理職、人事担当者からの相談や、衛生管理者や心理相談担当者などからの依頼によって、その従業員の問題の評価・診断・助言とともに、必要があれば短期のカウンセリングを行います。
内部EAPのメリットとしては、まず、企業文化に対する理解度が高いことや職場ヘのフィードバックが容易であることから、職場環境の改善が行いやすくなる点、また従業員にとってはアクセスしやすいため利用率の高まりが期待できる点が挙げられます。
●外部EAP
外部EAPは、厚生労働省が定める『労働者の心の健康の保持増進のための指針』で示される4つのケアの1つである「事業場外資源によるケア」に該当します。メンタルヘルスケアを行う上で、事業場が抱える問題や求めるサービスに応じて、専門的な知識を有する各種の事業場外資源の支援を活用することの有効性が示されています。
外部EAPの大きな特徴は、対象が従業員のみではなくその家族も含まれる場合が多いため、夫婦間・子どもなど家庭に課題を抱えている場合に、家族を含めた従業員の個人環境を総合的に支援する点にあります。また、内部EAPを一から設置する場合と比較して導入までの時間や費用が抑えられる点、社外での相談が可能なため、労働者が事業場内での相談等を望まないような場合に利用しやすい点、企業が心理の専門家からのコンサルティングを受けることができる点などが挙げられます。
EAPで相談した内容や個人情報は、守秘義務のもと、厳重に管理されます。
◆サービス内容
EAPの具体的なサービス内容は、個人向けのカウンセリング、人事や管理監督者向けのコンサルテーション、職場のクライシスケアなどです。
EAPの特徴は、個人向けのカウンセリングやストレス状況の確認に留まらず、企業内の課題も従業員のパフォーマンスやメンタルヘルスの問題に影響するという視座で、職場調整やマネジメントの改善を支援することです。また、企業や従業員が関わる不測の事態、大きな組織変更など、即座に従業員のメンタルケアが求められる際は、クライシスマネジメントとして、従業員に対し、個別カウンセリングやグループ心理教育といった支援を行います。
◆どのように利用するのか
ここでは、EAPサービスのご利用方法として、ピースマインドの具体的な例を提示します。
EAPサービスの利用申し込み方法は大きく2種類あります。1つは、従業員向けのサービス概要の告知を通じてご自身でお申込みいただく方法。2つ目は、上司や人事からご紹介いただいてご利用いただく方法です。また、利用方法は大きく分類して、即時相談と予約制相談があります。
●即時相談
即時相談は、お電話による約15-30分ほどの相談で、「今すぐ相談したい」時にオンスポットでご相談をいただくことが可能です。すぐに対応が可能な専門の相談員が待機しています。
●予約制相談
予約制相談は、事前予約制です。お申込みの入電時に、相談内容、希望日時といった予約に必要な情報を伺い、相談内容に基づく適切なカウンセラーが対応します。各企業の契約ごとに設定された利用回数内で、目標やテーマを設定し、短期解決を目標にカウンセリングを進めていくものです。即時相談との違いは、同じカウンセラーが継続してカウンセリングを進めていく点、1回のセッションは50分であること、電話以外に対面・オンライン対面カウンセリングといったビデオツールを用いたカウンセリングがある点です。
●ビデオでのカウンセリング
現在は、コロナ禍で在宅勤務など新しい働き方が加速し、ご相談者とカウンセラー双方の安全性、利便性を考慮した、オンライン対面カウンセリングの需要が増えています。
●オンラインカウンセリング
オンラインでのテキストメッセージによる一往復のカウンセリングを実施しています。対面や電話での相談に抵抗がある、なかなか相談場所が確保できない、などの状況下でも相談が可能です。
これらのサービスは、日本語だけでなく、英語などの外国語対応もしています。また、全国の多くの提携相談室と契約し、各地域で対面相談を希望される場合、より専門性が必要とされる相談、外国語での利用など、利用者のニーズに沿った各地の相談機関のご利用手配も可能です。
◆ご自身の所属している会社のサービス概要・利用方法を確かめるには?
サービス内容は、各企業毎のご契約によって異なります。お勤め先から告知されている専用ポータルサイトなどをご覧いただき、先述の、「即時相談」「予約制」「オンラインカウンセリング」から、ご希望のチャネルを選択すしていただきます。
「予約制相談を申し込んだ方がいいのか?それとも即時相談をした方がいいのか?」相談に至るまでに、色々と迷いが生じる場合もあるかと思います。まずは、問い合わせ窓口にお電話をいただければ、ご相談者のお困りごとに適したご利用方法をご案内することが可能です。
また、利用する際の費用に関しては、当社のご契約企業の従業員の場合、契約の上限回数に達するまでは利用者ご本人の費用負担はございません。EAPでは早期課題解決を目指しているため、年間5回程度の利用回数内で対応しているケースが多いです。
◆より専門性の高い窓口を利用したい場合
相談内容は幅が広く、場合によっては、より専門性が必要と判断されることもあります。例えば、法律問題・財務や税金に関すること・子育て支援・社会福祉・介護などに関しては、適切な支援が得られるよう、公的な相談機関などの情報提供をします。
カウンセリングの流れ
ピースマインドのEAP相談窓口を利用されたお客様からは、話しをすることで、「問題整理ができた」「気持ちの整理ができた」「先の見通しがついた」「すっきりした」「有効なアドバイスが得られた」といったお声をいただいています。コロナ禍の現在、リモートワークが推奨され、これまではオフィスでちょっとした立ち話や談笑・同僚とのコミュニケーションで調整できていたことが、難しい環境になっているかと思います。こういった環境下において、「話しをすること」は課題解決に有効な手段の一つです。
◆カウンセリングのきっかけ
カウンセリングを受ける方の多くはお勤め先の告知をみて、もしくは、同僚・上司・人事、産業保健スタッフの紹介などをきっかけに来られます。深刻な課題を抱えて相談される方もいらっしゃいますし、日頃の悩みを打ち明ける形での相談もあります。また、今は悩みがない場合でも、ストレスを感じた時の対処法や予防策を知るためといったご利用もセルフケアに有効です。時間帯は、平日の昼間に休みを取って、ご予約される方もいらっしゃいますが、終業後にご予約される方も多いです。
◆カウンセリングではどのような事を行うのか
カウンセリングでは、自分に起こっている事や考えている事などについて、カウンセラーがお話を伺い、会話の中で、ご自身の課題を客観視して、ご自身の力で課題を整理し、解決していくお手伝いをします。ケースによっては、課題解決に向けたプログラムを用意させていただく事もあります。
避けがたいライフイベントや環境変化、人間関係など、情緒的なサポートの一助を担うこともあります。個人の課題から、会社の課題、人事や管理職が抱える課題といった、幅広いテーマへの対応や具体的な解決、支援策の検討をすることがよくありますが、緊急事態への介入、例えば、ご家族や勤務先におけるご不幸や、事故、災害といった不測の事態に対する心理的支援を提供していることも、特徴の一つです。
カウンセリングでは、カウンセラーが初回のセッションで、相談内容の概要や健康状態などをお伺いし、緊急性を確認しながら、複数回に渡るセッションをどのように進めていくか、ご相談者と一緒に、目標・ゴール設定を行います。カウンセリングの形態としては、個別面談がメインですが、相談内容に応じて、夫婦カウンセリングなど、ご相談者が複数に及ぶ場合もあります。
◆コロナ禍における変化
コロナ禍で、大きな環境変化を経験されている方は少なくないでしょう。例えば、健康に対する不安はもとより、突然の在宅勤務、様々な面でサポート源となっていた人との交流が減り、業種によっては出社勤務が必要とされ、健康に関する不安を持ちながら通勤をしていること、外国人従業員などは、母国に帰れない、母国の家族が心配など、大きな変化の中で新たな課題が生じました。
また、コロナ禍では、「今まで上手くいっていた人」がコロナ禍における環境変化を経て相談に来るケースが増加しました。「今まで上手くいっていた人」の多くは、対面でのコミュニケーションや飲み二ケーションが得意だった方々です。テレワークのように急な環境変化が求められる状況では、その変化にうまく適応できず、不調を訴えるというケースもあります。
近年、コロナ問題・地震・水害等のクライシス発生が頻発し、急激な環境変化に適応することが求めらる場面が少なくありません。ピースマインドでは、自分ではコントロールできないものに対する適応力を少しずつあげていくため、レジリエンス向上、マインドフルネス、そして、リモートにおけるコミュニケーションの工夫として、アサーションといった自己主張スキルを身につけるお手伝いも行っています。また、課題ばかりに着目するのではなく、良い面にも目を向けていただけるようになると、ご相談者にとってはご自身のウェルビーイングの向上、企業にとっては従業員のエンゲージメントの向上にもつながります。
まとめ
EAP相談窓口は、ご相談者とカウンセラーが課題解決に向けて一緒に考えていく場ですが、セルフケアをご自身で行っていただくための情報発信も行っています。ご自身の長所を伸ばしていただけるように、様々な形でカウンセラーが伴走させていただきます。
また、人事管理職相談では部下に関するご相談が多いですが、管理職になり職位が上がっていくにつれて、ご自分のことを相談するリソースが少なくなりますので、管理職の方ご自身のセルフケアのためにEAPを利用することもおすすめです。
皆さんが抱える課題は、幅広く様々です。
相談しようかどうしようか迷った時には、まずはお気軽にお電話を!
◆監修者プロフィール
黒田 隆太(クロダ リュウタ)
ピースマインド株式会社
コンサルティング部EAPコンサルタント
公認心理師・臨床心理士・産業カウンセラー
大学院修了後、臨床心理士として医療等多領域において研鑽に励む。外資系航空会社、外資系医療アシスタンス会社等にて、海外勤務経験あり。
出典
※1:「労働者の心の健康の保持増進のための指針」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000153859.pdf
※2:e-ヘルスネット[情報提供]:EAP / 社員支援プログラム(EAP)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-085.html
関連情報
ピースマインドの従業員支援プログラム ( EAP : Employee Assistance Program ) は、職場のパフォーマンスを向上させるために、心理学や行動科学の観点から「はたらく人」と「企業」に解決策を提供するプログラムです。