はたらくFUND 2020 Impact Report (1)
ご挨拶
はたらくFUNDは、少子高齢化、労働人口不足といった喫緊の社会課題に着目し、「働く人」を中心に据え、子育てや介護等の様々なライフイベントを経ながらも「働き続けられる」環境作りと人材創出につき、投資の面からサポートし促進することを目的に、2019年に設立されました。
日本ではまだ事例の少ない多様な投資家が参加する本格的なインパクト投資ファンドとして、インパクト投資の実践を通じ、社会課題の解決に寄与すること、インパクト投資のエコシステムの構築に貢献することを目指し、取り組んでまいります。
(はたらくFUND ホームページ http://hatarakufund.com/)
当ファンドでは、ファンド出資者様向けに年に1度インパクトレポートを発行しております。今回はnoteでも、2020年度のインパクトレポートの一部を公開させて頂きます。
尚、当ファンドは2020年12月にファイナルクローズいたしました。
インパクトレポート全体の目次
1. インパクトサマリー
日本インパクト投資2号投資事業有限責任組合(以下、本ファンド)は、日本ではまだ事例の少ない外部投資家参加型インパクト投資ファンドとして、新生インパクト投資株式会社(以下、新生インパクト投資)及び一般財団法人社会変革推進財団(以下、SIIF)を共同運営者とし、株式会社みずほ銀行(以下、みずほ銀行)を運営者のアドバイザーに迎え、多様なLP投資家を招聘して、2019年6月に設立された。
少子高齢化、労働人口不足といった喫緊の社会課題に着目し、「働く人」を中心に据え、子育てや介護等の様々なライフイベントを経ながらも「働き続けられる」環境作りと人材創出につき、投資の面からサポートしていく。
また、インパクト測定モデルの構築、データ収集の実施及びレポーティングを含むインパクト・メジャメント&マネジメント(IMM)(注1) の実践を通じ、インパクト投資の先行事例となり、日本のインパクト投資エコシステムの構築に貢献することを目指す。
本年度における本ファンドの活動ハイライトを以下の通り紹介する。
2. インパクト投資の国内外の動向
(1)インパクト投資のグローバル動向
①インパクト投資の特徴と位置付け
The Global Steering Group for Impact Investment (GSG)国内諮問委員会(以下、GSG国内諮問委員会)は、インパクト投資を「財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動で、インパクトに関する評価を投資前及び投資実行後に実施しているもの」と定義している。インパクト投資およびESG投資は、共に、サステナビリティやレスポンシビリティの実現を目指すものであり、また、財務的リターンとの両立を目指すものである。その中で、ESG投資は、投資の分析と意思決定プロセスにおいてESG(環境・社会・企業統治)課題を組み込み、長期的なリスクの削減と収益の最大化を目指す投資活動であるのに対し、インパクト投資は、特定の社会課題解決も目的とするという明確な意図を持つ投資活動である。ESG投資の世界的な普及と軌を一にして、インパクト投資の主流化が急速に進んでいる。
【インパクト投資の特徴と位置付け(注2)】
②インパクト投資の急速な拡大
The Global Impact Investing Network (GIIN) によると、グローバルにおけるインパクト投資の市場規模は推定7,150億米ドル(約75兆円)(注3)と、世界各国で急拡大しており、また世界銀行グループの国際金融公社(IFC) によると、インパクト投資に対するニーズの急速な高まりを背景に、潜在的な市場規模は最大26兆ドル(約2,730兆円)と推定されている。
【世界インパクト投資残高推移(注4)】
③機関投資家・上場株式の急進
インパクト投資における近年の特徴的な動きとして、これまでは未上場企業(未上場株式やプライデート・デット等)における投資活動が中心であったインパクト投資において、特に上場株式へのインパクト投資の拡大傾向が見られる。GIINの調査によれば、上場株式は他アセットクラスに比べて2015年から2019年までのインパクト投資残高の年平均成長率が最も高かった(CAGR33%)(注5)。その背景として、急拡大するESG投資を実践する機関投資家の一部が、近年になって新たにインパクト投資ファンドを立ち上げるなど、大手金融機関や機関投資家(アセットオーナー、アセットマネジメント等)の参入があると推察される (注6)。一方で、事業が多角化された大企業のインパクトをどのように測定するか、企業によるインパクト創出に向けどのようにエンゲージメントを実施するか等の課題も表面化しつつあり、今後ベストプラクティスの更なる蓄積が望まれる。
【上場株式におけるインパクト投資ファンド数・
手掛ける運用機関数の推移(1991-2019年)(注7)】
④インパクト・メジャメント&マネジメント(IMM)の必要性の高まりと各機関の動き
上述のような急速なインパクト投資の拡大に伴い、「インパクト・ウォッシュ」の懸念が高まっており、適切なインパクト測定及びマネジメント(Impact Measurement & Management:IMM、後述)の必要性が提唱されている。「インパクト・ウォッシュ」とは、投資先がインパクトをもたらしていない実態を放置したり、インパクトを過大評価して投資家に報告したりすることなどを指す。「インパクト・ウォッシュ」防止のためにも、投資先企業の事業によって生じた社会的・環境的な変化や便益を測定するだけでなく、改善するための継続的な実践を普及させ、投資家と投資先企業との間で適切なエンゲージメントの実現が求められている。様々なグローバル機関が、IMMに関する原則、フレームワーク、指標、及び報告・開示や認証のあり方など(以下「IMMフレームワーク等」)について開発を進めている。IMMフレームワーク等の開発・公表に関する動きは複数団体において現在進行形であるが、2020年12月末現在の代表的なものとして下表が挙げられる。
【IMMに関する国際的な原則・フレームワーク等の開発取組みのマッピング例】
(2)日本におけるインパクト投資への関心の高まり
①インパクト投資の規模・プレイヤー
GSG国内諮問委員会による2019年度のアンケート調査(以下、「GSG調査」)の結果、日本におけるインパクト投資市場は、少なくとも3,179億円のインパクト投資残高があることが確認された(注8)。GSG調査によれば、インパクト投資を実施する団体は、都市銀行、ベンチャーキャピタル、資産運用会社、保険会社、政府系金融機パクト投資を実施する団体は、都市銀行、ベンチャーキャピタル、資産運会社、保険会社、政府系金融機関と幅広い層で拡大している。
②政策面における展開
2020年は、インパクト投資の健全な普及・拡大に向けた具体的な施策や啓発に向け、各省庁における動きが加速化した。
2020年4月、環境省は「ポジティブ・インパクトファイナンス・タスクフォース」を設置し、同年10月、ESG金融ハイレベル・パネル会合にて「インパクトファイナンスの基本的な考え方」を採択、グリーンインパクト評価ガイド(仮称)の策定を進めている。
また2020年6月より、金融庁とGSG国内諮問委員会の共催により、インパクト投資に対する金融市場関係者と行政の理解を深め、国内外の社会課題解決に向けたインパクト投資への取り組みの意義と課題を議論する「金融庁インパクト投資に関する勉強会」が隔月開催で開始され、2021年2月現在、4回会を重ねてきている。金融庁GSG共催勉強会は、メガバンク、地域金融機関、信金信組、アセットオーナー、アセットマネージャー、アカデミア、業界団体等の参加により、業界横断的なプラットフォームとして機能し、インパクト投資に対する金融業界の関心と注目の高さが伺える。
③IMM国内ガイドライン整備に向けた動き
GSG国内諮問委員会IMMワーキンググループ(GSG-IMM WG)では、2020年5月より、インパクト投資に取り組む、もしくは取り組みを検討する金融機関が集まり、IMMに関する国内外の調査結果を参考にしながら、実務的課題や対応策を話し合い、IMMに関する指針とガイドブックの制定を進めている。また、内閣府は2019年より日本の社会的企業やインパクト投資家が、社会性ないしはインパクトの評価に活用できる評価・認証フレームワークを考案する目的で「社会性評価・認証制度に係る調査・実証事業」を進めている(注9)。
(3)インパクト創出をめざす企業のIPO(「インパクトIPO」)
本ファンドでは、インパクト創出を目指す企業によるIPOを「インパクトIPO」と定義(詳細は後述)し、投資先企業による「インパクトIPO」の実現を模索している。近年、国内外で「インパクトIPO」の動きが出てきている中、2020年にはいくつかの具体例が見られ、本ファンドとしても参考にしていく。
①米国 B Corp 認証取得企業のIPO
昨今、企業に対し、株主だけでなく、従業員・顧客・取引先・地域社会といったステークホルダーへの価値提供を求める声が高まってきた。インパクトの創出を目指す企業がIPOする事例が出てきたこともあり、投資家やIPOに関わる関係者からもインパクト投資に関する関心が高まった。
米国では、経営陣が株主だけでなくステークホルダーの利益を考慮して、企業活動を通じて公益(Public benefit)に還元することが州法によって義務付けられる「Public-Benefit Corporation」という法人形態がある。昨年、Lemonade, Inc.、Vital Farms, Inc.という2つの企業が、上場前にB Corp認証を取得し、デラウェア州でPublic-Benefit Corporationとして法人登記を済ませた上で、2020年7月に株式公開を実現し話題となった。今後の事業活動・財務状況や企業価値(株価)の動向が注目される。
②日本でのIPOに関する動向
日本でも、自社のIPOを「SDGs-IPO」と名付けて実行した事例が出た。
2020年12月、東証一部に上場した株式会社ポピンズホールディングス(以下、「ポピンズHD」)は、新規株式公開に伴う公募による募集株式発行に際し、IPO時の調達資金の一部をSDGsへ貢献する事業に使うことを明確にし、国際資本市場協会(ICMA)の「ソーシャルボンド原則」への準拠性、SDGsへの貢献可能性等について、第三者評価機関(日本総研)からセカンドパーティ・オピニオンを取得する形をとった。
ポピンズHDによるIPOは、インパクト創出を目指す企業によるIPOが日本で実現したことの一例であり、今後、日本においてもインパクト創出を目指す企業が上場後も継続してポジティブインパクトの創出に取組むためのIPOのあり方に対して注目が高まってきている。
注1:Global Impact Investing Network(GIIN)による定義は、「ビジネス上の行動や投資が人や地球に与えるプラスとマイナスの両方の影響を特定し検討すること、そして、マイナスの影響を緩和し、プラスの影響を最大化する方法を、自身の目的に照らし合わせながら考え出すプロセス」(仮訳)である。解説は後述。
注2:出典 GSG国内諮問委員会「社会的インパクト投資拡大に向けた提言書2019」
注3:1,720機関を超すインパクト投資家に関するGIINのデータベースに基づいて試算された、2019年末時点の市場規模
注4:出典 GIIN “GIIN Annual Impact Investor Survey” 2016-2020, “Sizing the Impact Investing Market” 2019 をもとにSIIFが作成。
(注意事項)
・2015~2017年は、GIINによる投資家のアンケート調査を集計したもの。
・2019・2020はGIINによる市場規模の調査をしたもので、データの性格は異なることに留意。
注5:出典 GIIN “GIIN Annual Impact Investor Survey” 2020
注6:出典 金融庁報告書・ニッセイアセットマネジメント株式会社「上場株式投資におけるインパクト投資に関する調査」2020
注7:出典 金融庁報告書・ニッセイアセットマネジメント株式会社「上場株式投資におけるインパクト投資に関する調査」2020
注8:出典:GSG国内諮問委員会「日本におけるインパクト投資の現状2019修正版」 2020年12月
注9:出典:内閣府報告書・認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会「令和元年度社会性評価・認証制度に係る調査・実証事業調査報告書」2020
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