第15回 君、音、朝方、etc 【私的小説】
「高校時代、僕は深い混乱にあった。何をすればよいかも、何をしたいかも分からなかった。せめて、自分の得意なことが一つくらい見つかれば良いと思っていた。その為にも色々なことにチャレンジしなければいけないとは、分かっていた」
そこから響一は話し出さなかった。
「犬も歩けば、棒に当たる」
なぜか私は言う。彼が歩き続け、今ここにいるというイメージが鮮明に襲ってきたから。
「とても良い言葉だ。先ほど、何をしたいか分からなかったと述べたけど、君が知っての通りそれらしいものはあったんだ、」
私の方をちらっと見た。
さっきから、彼は目を合わそうとしなかった。
「だけど、才能も、才能のなさを覆す熱意もなかった。言い訳だ」
響一の話に、ある人の姿はまだ現れなかったけど、今は響一のことが知りたいと思った。誰かに強く関心を持つことが初めてかもしれないと、私は思う。
「今はしたいことしてるの?」と私は問いかける。
「正直、それがしたいかは分からなくなっている。だけど、僕に残されたことはそう多くないと思う」
彼は立ち上がる。
「やっぱり、音楽掛けていい?静かなのにするから」
私の返答を待つまでもなく、一枚のCDを掛ける。
「27クラブって知っている?」
私は首を横に振る。彼は話し出す。記憶が聞こえる。
「叔父さんが、ロックスターは27歳で死ぬことで伝説になる、と教えてくれた。ある場合には事故で、自殺で、薬物のオーヴァードーズで。今流れている音楽を鳴らしているバンドの方々は今も生きている。安心して。安心してって言うのもおかしいか」
そう彼は笑う。
部屋にそっと置くように、彼は言う。
「凡人が死んでも伝説にはならない」
言葉が宙に浮いたまま、音楽と共に時間が流れる。 まだ、響一の話に耳を傾ける。静けさが助け船になることを信じて。
「君が知っているその人が、僕に言った。忘れ去られるものではないが、甘美な記憶としては残らない。確かにそう言った」
私は息を飲む。かんび、という言葉がどのような漢字で書くのか正確ではないけど、その意味は分かる。
響一は話す。
「死について、真剣に検討したことはない。あくまで『詩』の方を、書くことで自らが世界との間の距離を測り、結果として自分の位置を知る行為を俺は大事にしたい。そう彼は言った。その人は僕に話しかけてくれた。とても真剣に、慎重に。僕に何らかのポジティブな影響を与えるよう配慮してくれたように思える。当時はそこまで考えなかったけど」
彼は水を口に運ぶ。水以外の何かを飲んでいると、私には見える。
示唆的に響一は言う。 途絶えはしない感情がある。
「君の知っている彼、あるいは君の知らない彼。今、彼がどこにいるのかは、僕は知らない。どこにいないのかも知らない。だから、」
「安心して欲しい」
そう伝えられた私は、少しその人を知りたかった。