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第17回 君、音、朝、etc 【私的小説】

同じ街の時間が流れる
いない人の呼吸を視界に宿す
終始嬉しく思える

 暗闇の中、歩く。

 やがて朝が来るらしいことを僕は知っている。雪が、しとしとと降る。新聞配達の軽自動車だけが僕の前に現れる。足跡を誘うように歩道は雪で白く埋まる。振り返ると足跡は確かにある。冬の寒い日はどこか世界が静かに感じる。胸の裡に特別な感情も想念もない。
 今は後悔も希望もない。それをどこか嬉しく思う。

 昔、朝が明ける前に父は雪かきをしていた。一定のリズムで、シャベルが降り積もる雪を掃除する音が聞こえた。尽きることなく、父はずっと行っていた。まるで何かの義務や責任のように、現実的に彼は仕事をした。
 外に出ない僕は当然、雪かきに参加しなかった。いつか溶けるのに、何故そう躍起にならなければならないのかと言い訳した。  

 だが、雪かきをしなければ、家に住む者たちは外に出られなくなる。屋根が潰れるほどに重い雪はここでは降らないが、ドアの周辺に積もる雪は扉を塞ぐ。今は誰かがその仕事を行う、僕以外の誰かが。

 僕は道を歩く。誰かに出会うことを恐れ、その恐れがいつか希望に変わればいいと思い始めている自分を知る。
 

 仕事が終わる。時計を見た。
 直ぐ帰りたいと思いつつ、駅に向かった。私が駅からどこかに向かうことは滅多にない。広場の傍の道を通る。どこか息を潜めてベンチを見る。そこから離れた時、呼吸の浅さに気づく。

 もしかしたら響一がいるんじゃないかと、私は怯える。だけど、彼は今もあの部屋で音楽を聴く、仮定の世界にいる姿を想像する。
 長い時間が経った。上昇するようにたゆたい、消えていく湯気を覚えている。無造作に散らばった本を覚えている。一度、音楽が掛かると魔法みたいに部屋の内部が素晴らしく見えたことを覚えている。

 私がそこにいたことは、どこか夢のように感じる。

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