ep20.浮かんだ日常
一番汚れてしまっている私から先にシャワーを浴びに行く。
まさか髪までぐっしょり濡れるとは予想していなかった。
でもお泊りする時のようなメイク道具一式は持ってきていないので、頭からシャワーを浴びることはできない。
サイドから後頭部あたりまでを、なんとなく水洗いする。
私と入れ替わりに、亮太と彼女が連れ立ってお風呂に入る。
忘れていたけど、この二人はカップルなんだっけ。
私の位置に色々な人を入れながら、3人でのセックスを楽しむ、既婚者同士のカップル。
お風呂から響いてくる楽しそうな彼女の声を聞きながら、黙々と自分の身支度を進める。
お風呂あがり、2人掛けのソファに亮太と彼女が座り、私はベッドに腰掛けて世間話をする。
この部屋に入った時の、亮太の言葉を思い出す。
ーーーラブホテルって2人用に作られているから、3人で来ると足りないものが出てくるーーー
仕方ないけど、ちょっとだけ、疎外感。。。
「夕飯、何つくろうかな…」
「え、亮太が作るの?」
思いがけないセリフを呟いた亮太に驚いた。
「今日はね。
夕方には保育園にお迎えに行って…
あぁ…
帰って作るの面倒だから、外で食べちゃおうかな…
子どもたちもそっちのほうが喜ぶし」
時々忘れてしまうけど、亮太は既婚者で、まだ小さい子どもがいるパパなんだ。
(たぶん)奥さんと交代で家事や育児をこなしながら暮らしている、普通のパパ。
左手の薬指には結婚指輪をしている。
亮太に良く似合う、繊細なデザインの施された細めのリング。
そんな人に(たぶん)内緒で有給を取らせて、私…セックスをしてるんだ。
昼メロの定番のセリフに「この、泥棒猫!」なんて罵られるシーンがあるけれど、私も所謂「泥棒猫」の類だ。
亮太がどういう経緯と動機をもってしてマッチングサイトを使い始めたのか、奥さんとの普段の関係も、セックス事情も、私は何も知らない。
知ったからと言って、どうにもできないけれど。
私も亮太も、そして彼女も…
自分らしく正直なようで、色々な人を裏切った上に成り立っている。
最寄りの駅に着く頃、亮太からラインが入った。
「楽しかったね。
またよろしくー」
嬉しい、また会えるんだと思ってしまう自分は愚かだ。
奥さん、子ども、家庭、、いろいろ考えてしまうけど…
私だって……
誰にも触れてもらえないまま死にたくなかった
自分を幸せにすることを、誰かに遠慮したりしたくはなかった
夢みたような幸せなセックスがしたかっただけ…
何を言っても、人のものを泥棒している事実にかわりはないけれど。。
3人で次に会う予定を合わせたら1ヶ月以上も先になってしまった上、その日は丁度生理に引っかかることがわかった。
でもピルを飲み続けている私は、生理日を移動することが可能だ。
生理が重ならないよう、飲み始める日とやめる日を念入りに計算して、忘れないように手帳に書き込む。
私、すごいな。
不倫セックスをするためだけに排卵を止めて、生理周期までいじくって。
ピルは本来、こういう目的のものじゃないのに。。。
急に、自分がどうしようもない人間に思えてきて、、
一人ぼっちな気がして、、
寂しくて、、
亮太に会いたくて、、、
落ち込む私に
「あらあら…」
って言ってほしくなって、、、
ちょっとだけ泣けた。
亮太にラインを送る。
「次のセックスの時、名前を呼んでほしい」
「了解〜」
頼んでしまったことが、また悲しくて泣けた。