樹齢130年のリンゴ「生娘」
生に娘とかいて「キムスメ」と呼ぶ。現在ではつけないような当時らしい名前である。このリンゴを知ったのは偶然のことであった。いつもの様に古い品種の情報を求めネットサーフィンをしていると、昭和40年代に発行された「あきた」と言う郷土誌のPDFファイルにたどり着いた。そこには明治にリンゴの栽培が始まった頃の品種について紹介されおり、国光や紅玉といった品種が並ぶ中、初めてみる品種の名があった、それがこの「生娘」であった。
(下の右側に名前が載っている )
明治に栽培が始まった品種は「青い森の片隅から」と言うサイトに殆どまとめられいるのでいつも参考にさせていただいているが、この品種については紹介がなかった。この様な場合は遥か昔に淘汰されてしまっており、かろうじて国の機関に1、2本の木が残されている程度である。諦めムードの中で「もう少し調べてみるか」と検索を続けると1997年と少し古い記事で北海道の仁木町に「生娘」と「紅魁」の樹齢100年近くの木が残されていると記されており、非常に驚いた。文字に起こすと簡単に「驚いた」と言う言葉を簡単に使ってしまうが、こんなことは初めてだったので「驚いた」と言うほか無い。
もし、現在でも残っていれば樹齢130年近くにになっているが「もしかしたらまだ木が残ってるかも…」との思いで電話をかけたら「ありますよ!」の声で思わず「本当ですか…!」と大きな声で聞き返してしまった。話によると「生娘」は残っているが、「紅魁」は残っていないよう。他にも旭や紅玉が残っているそう。話が脱線してしまうが、紅玉のことを35号と呼んでおり「今でも昔の呼び名で呼んでいるのか!!」と思わず感心してしまった。
(写真は仁木で暮らす「りんご100年樹」より。ぜひ、いつかはこの目で見てみたいものである)
しかしまだ収穫時期ではなかった様で「9月になったらまた電話を下さい」とのこと。そして先日、ようやく収穫を迎え手に入れることが出来ました
生娘の写真はネットにころがっておらず、箱を開けてから初めて”その姿”を目にしたが、見た目は日本で流通するリンゴとは違っており「グラニースミス」の様なロウ質の表皮を持っている、色は「コックスオレンジピピン」のよう。大きさは「むつ」程度、香りはマルメロの様な香りで特異なリンゴであった。趣味で美術館によく行くのだが19〜20世紀初頭の静物画描かれている少し歪な形をしたリンゴそのものである。
(こうみると油絵具で書かれたような色合いである)
肝心の味は酸っぱめであった、いかにも昭和のリンゴの味。例えると「紅玉」に近いかもしれない。食感は「津軽」や「ジョナゴールド」に近く、ややボソボソで柔らかめの果肉。私は酸っぱめで果肉の柔らかいリンゴが苦手なのでジャムにしてしまったが、ジョナや紅玉が好きならこのリンゴを好きになると思う。食味は紅玉に似ているので、紅玉の少ない時期に収穫できるので代用品としてもいいかもしれない。ただ日持ちがしないそうなので、流通に不向きかもしれない。
(手前からキャンベルスと生娘、奥に写ってるのが当時のカタログ)
しかし、このリンゴは本当に情報が少ない。明治〜昭和初期の種苗カタログを持っているが、1つも記載がなかった。リンゴの栽培が始まった頃に淘汰されてしまったのか、それとも当時からマイナーな品種であったか、そんなことはないと思うが産地が限定されていたのか、いくら考えても現在になってはわからないことである。当時の品種にしては味もそこまで悪くないし、収穫時期も北海道で9月上旬に収穫ができることを考えたら「旭」と同じくらい普及していたとしてもおかしくないとは思う。謎の多い品種である。
しかし、もり園さまでもこの生娘は聞いたところ1本しか栽培されていないようなので木が衰弱あるいは枯死してしまったら食べれなくなってしまう品種である。こういうものは一期一会の出会いなのかもしれない。
最後になるが、知り合いにこれだけ珍しいリンゴを配っても「ただのリンゴ」で終わってしまうのが悲しい。興味ない人とってはそんなもんなのは承知なので、せめてこの記事を読んでいただいた方だけでも共感いただければと思います。
ちなみに写真撮影用に戦前のリボンシトロンのお盆を買いました。最近のお気に入り
〈購入先〉
もり園様 収穫は9月の上旬から
https://www.jalan.net/kankou/spt_01407cb3510079210/
〈参考文献〉
仁木で暮らす「りんご百年樹」
http://class-niki.blogspot.com/2017/12/blog-post_13.html?m=1
あきた 通算33号 「りんご」
http://common3.pref.akita.lg.jp/koholib/search/html/033/033_034.html
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