画期的な声明に感謝!そして…これからのことを
一連のGOLDFINGERのイベントにおける騒動において、オーナーのチガさんが次の声明を発表してくれました。
曖昧な答えではなく「トランス女性を排除しない」という明確な決断は非情に勇気がいるものであり、トランスジェンダー活動家としてその答えを発表したことにたいして感謝いたします。
・PRIDEシーンの始まりをもう一度考えてみよう。
現代のPRIDEシーンが始まる切っ掛けは、トランスジェンダーのID問題です。少しその流れを追ってみます。
↑19世紀に活躍した女装の女優オンリー・レオン
アメリカは1863年にサンフランシスコで公然わいせつ罪の中に「異性装」を組み込んで以後、全米に異性装を猥褻とする法律の考え方がすこしずつ広がって行きます。
まだホルモン製剤が作られる以前のこと、アメリカでは女装文化とLGBTQ+の文化が融合し、1920年代のニューヨークで今のル・ポールのドラァグレース等にも繋がるボールカルチャー「ドラァグボール」が始まり、このムーブメントは禁酒法による、アルコール販売の地下化にあわせて全米に広がって行ったのです。
・ラベンダーの恐怖の時代に入りゲイ(LGBTQ+)への締め付けが厳しくなる。
禁酒法が終わり酒が自由に飲めるようになった後、LGBTQ+への風当たりが強くなります。1950年代連邦政府が共産主義者を排除する「赤狩り」を始めたのと時を同じくして、反同性愛を掲げラベンダーの若者(同性愛者)を政府から排除する「ラベンダーの恐怖」が始まります。1953年には時の大統領アイゼンハワーが、同性愛者を連邦政府のあらゆる組織から排除する大統領令を発表します。
この流れで、共和党が強い地域にあるゲイバーは酒類の販売が禁止されるなどの嫌がらせを受けるようになり、LGBTQ+全体への風当たりが強くなっていき…。そして、1950年に結成された白人男性同性愛者の人権団体マタシンソサエティを中心としたグループがこのゲイバーへの酒類販売の問題などに取り組み始めて行くのですが…。
・攻撃対象がトランスジェンダーに!
ドラァグクイーンも含むトランスジェンダー以外のセクシャルマイノリティは黙っていればお酒も飲めますし、誰からも非難されることはありません。しかし、異性装などを行うトランスジェンダー達は、その存在が目立つために反ゲイムーブメントの矢面に立たされるわけです。
19世紀末に作られた猥褻に関する法律をベースに多くの地域で異性装を取り締まり始めるわけです。内容は簡単でIDをチェックして性別と違う衣服を着ていたら捕まえて投獄するわけです。
後に語るシルビアリベラの話どおりなら、警察に暴力を振るわれて、投獄されて、刑務所でレイプされる。当時のトランス女性のポピュラーなコースだったようです。
・トランスジェンダーであったが為に警察と対峙
クーパーズドーナッツの暴動、コンプトンズカフェテリアの暴動これらの事件はいずれも、トランスジェンダーを中心としたセックスワーカーが警察の標的となっておこったものです。
そして、Stonewallですが、Stonewall innはマフィアの経営で酒類販売の免許を持たない違法営業を行っている店でした。ニューヨーク市はすでに1966年に、マタシン協会の若者の行動により、ゲイバーに於ける酒類販売は可能になっていた状況での話しです。
Stonewall INNが免許を持たなかった理由はその客層にあります。3$払えば誰でも入れるバーとして連日超満員だった人気の店で、そこはトランスジェンダーのセックスワーカーでホームレスの人などでも、一晩を安心して過ごせるシェルターのような場所で、それは、警察にとっては異性装を行う猥褻な犯罪者の巣窟でもあったわけです。
・賄賂を貰うために警察は嫌がらせを続けた
1966年にオープンしたStonewall INNは、隙間産業的な客層のため警察から目を付けられ毎月1200$(現在の貨幣価値で100万円くらい)を賄賂として渡していたのですが、この賄賂を貰うために警察は度々店に嫌がらせをします。その嫌がらせというのが、トランスジェンダーに対する取り締まりで、ときおりやってきて、殴って、捕まえて、投獄するということを定期的に行っていたという訳です。
そして、この嫌がらせに対して堪忍袋の緒が切れてStonewallの蜂起へと繋がるわけで、警察という社会に対して抵抗することで、現在のPRIDEシーンへと繋がって行ったわけです。
・IDで差別化してませんか?
現在も世界中でIDの問題で苦しんでいるトランスジェンダーが数多くいます。今回のGOLDFINGERの騒動で、店/イベント側はトランスジェンダーを差別しない!と表明してくれましたが、ここに至るまでに多くの方が「なぜ、トランスジェンダーを排除することがいけないのか?」とかなりの人が声をあげ、また、今回の騒動い海外のTERFグループが反応して「トランスジェンダーの横暴を許すな!」といった声も上がり始めています。
PRIDEシーンはトランスのIDの問題から始まったといって過言じゃ無い話です。日本を代表するレズビアンイベントGOLDFINGERが、トランス女性を排除しない!という声明を発表した今、まさか「いや、私達は排除します!」みたいなイベントは行われないとは思いますが、もし同様の事があればやはり抗議の声を上げざる追えないことは、ここまでの話でご理解ください。
・差別されているのはトランス女性だけじゃない
先日、ノーパンスエット系のメンズオンリーのクラブイベントでトランス男性が排除されたという話を聞いていて、詳細がわかり次第これにもコミットしたいと思っています。もちろんメンズオンリーのパーティなどでトランス男性を排除することは差別です、これは今回の問題と同じです。
ノーパンスエットの場合、なかでの接触が当然あるでしょうから参加者にその旨を伝えて、それから入場して貰うということで十分だと思われます。
他方で…。今回の問題で「ハッテン場がトランス男性を排除している!」という話をされて、これも基本的には差別なのですが…。
まず、店舗によってハッテン場は性別以外に、容姿や年齢でも排除します。IDが男性だからといってトランス女性が入れないハッテン場も多くあります。また、IDが女性のトランス男性を入れられない理由の1つとして法律があります。
・ハッテン場を巡る法律の問題
そもそも、ハッテン場はグレーな商売で、いつ「公然わいせつ」で挙げられてもおかしくない施設でもあります。「公然わいせつ」のルールがとても曖昧なために、摘発を受けているケースもあるのが実情です。
いま、レズビアンのハッテン場施設があるのかどうかは知りませんが、もし女性同士のその場でのセックスを目的とした施設があるとしたら、そこに日本の法律を考えて、ID変更がされていないトランス女性を入れることは法的に難しいとなるでしょう。
というか…これは根本的な差別の問題なのですが…男性のハッテン場以上に、たとえ同性であっても、浴場でないようなところで女性がハッテン行為できる施設を作るというのが現状では法的ハードルが高いかもしれません。(男性の半裸と、女性の半裸だと、女性の半裸が何故か取り締まられてしまう問題などに通じるものがあります)
・クラブシーンの重要性
1920年代のニューヨークの地下のホールで始まった「ドラァグボール」が、ゲイ(LGBTQ+)カルチャーの大切な流れであり、現在世界中で行われているセクシャルマイノリティ関連のクラブカルチャーは、そういうPRIDEシーンの上にある文化として確立したものです。
今回はトランスの問題でしたが、例えばまだ2丁目などのゲイタウンに於いて「外国人お断り」といった看板があったり、そうじゃなくても排外主義的な人達も珍しく無い状況です。レインボーフラッグの元に行われるあらゆる事柄から、あらゆる差別を排除しなければなりません。
『してよい差別は無い!』
日本はまだまだ、LGBTQ+に関して、またその他のマイノリティに関して、そして、日本にいるすべての人に対して、人権後進国です。この5年ほどで本格的に動き出した日本のゲイ(LGBTQ+)リブは、人権を意識してあらゆる差別を排除していくことを宣言していかなければならないと思います。
改めて、今回のGOLDFINGER英断は素晴らしいものです。そして、これを気にそういった差別が無い状況をまずはゲイ(LGBTQ+)の中で構築してこうじゃないですか!
※追記…
2019/06/09 23:09現在、今回の騒動について東京レインボープライドは何ら反応を見せていません私も、遠藤まめた君がまとめている『東京レインボープライドへの公開要望書』へ名前を連ねています。
今回の問題はPRIDEシーンに於ける差別をしてはいけないという重要な話です。是非早い段階でのなんらかの発表を望みます。