世界中で使われるプロダクト、つくれますか?英語よりはるかに大切な3つのこと。
はじめに
コロナで日本にこもる日本企業
コロナが席巻した2020年、海外進出を目指す日本企業の比率は過去最低を記録したようです (JETRO調査)。
一方、そんな中でもUbieは去年シンガポールにAPAC (アジア太平洋) 拠点を設置し、後述する通り「二度目の海外進出」にトライしています。
Ubie Discovery でデザイナー・スクラムマスターとして活動する自分も、ここ半年は東京からリモートで、シンガポールの医療機関向け開発に携わるようになりました。
海外事業経験なし・英語実務経験なし・前例なし
Ubieに入るまで海外事業の経験・英語での実務経験はいずれもありません。
また、日本のスタートアップの海外進出事例、特に自分と同じ境遇のデザイナーの取り組みも、残念ながらほとんど片手で数えられるくらいしか存じ上げません。
この記事では、自分、もといUbieのグローバルチームが試行錯誤で見いだした「世界で使われるプロダクトをつくるために、英語よりはるかに大切と考えた3つのこと」をシェアできればと思います。
特に、次のような方に広く読んでいただけると嬉しいです。
・グローバルでの事業+組織立ち上げに興味がある、ないし携わっている
・グローバル事業でのデザインに興味ある
・Ubieの事業/組織/働き方全般に興味がある
グローバル展開は、Ubie創業からの悲願
実はUbieのグローバル展開は、創業初期の強い思いからはじまるものでした。
Googleですら手を焼いている世界の難題「医療アクセス」に直面しているのは、何も日本だけではありません。
「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」というUbieのミッションは、創業の頃から一貫しています。そしてこの「Ubieと世の中の約束ごと」は、世界の78億人に向けられています。
当時、共同代表の久保が「日本でいいかんじに成長してからグローバルでやるじゃ遅い!最初からグローバルでやるんだ!」と吠えていて、当時の日本事業の状況を考慮したとき「このファウンダー正気か...?」と思ったのをよく覚えています。
3年前の伏線
2018年、インド挑戦での学び
そんなわけで2018年、共同代表らとエンジニア、自分、デザインパートナーであるD4V/IDEOの混成チームにて、PoC対象国であったインドでのユーザーリサーチを何度か行い、現地の生活者・医療従事者と話す中で機会領域を探索しました。
ご存知の方もいるかと思いますが、その後Ubieはインド事業から数ヶ月で撤退し、つい最近に至るまで日本事業に注力する意思決定をしています。
・まずは体験のコアを磨くこと
・現地事情に明るいメンバーがいること
・そして立ち上げにはしのごの言わずやり切る圧倒的なフォーカスとコミットメントが必要であること
資源の限られるスタートアップだからこそ、これらの重要性を骨身に滲みてよく理解できました。
2020年、「海外はいずれやろう」が「今やろう」に
ひるがえって、現在のユビーは全国400超の医療機関と数十万人の生活者に広く利用いただく中で、症状や病気を問わずアルゴリズムの改善を重ねてきました。医療機関向けのチームは年間150回、生活者向けのチームは年間600回のリリースを通じて、顧客から多くの学びを得ています。
また、2020年にはシンガポール現地法人を設立しました。APAC代表兼POである島津も、シンガポール人医師も、インド人の BizDev も、コロナ禍ではありますがなんとか現地入りに成功しています。0→10の事業フェーズで経験豊富なエンジニアも日本事業からの異動でジョインしました。
特に現地メンバーの現地入りを機に、「海外はいずれやろう」と話していた話が「今やろう」に前進しました。
2021年、デザイナーも海外事業に再合流
Ubie Discovery のプロダクトデザイナーは現在6人で、原則として「1スクラムチーム1デザイナー。チーム兼務なし」で活動しています。
ただ、2020年時点での唯一の例外は海外事業でした。このチームは今以上にド立ち上げ期だったにもかかわらず、諸般の事情でデザイナーはほとんど誰も海外事業に関与できていませんでした。
自分自身も一人のデザイナーとしてとても歯がゆく感じつつ、一方で「うーん、やれんのか...? インドの頃と違って今コロナでリモートだし...デザインたるもの利用環境とか現地に行ってなんぼでしょ...」と身構えながら、「とりあえずやれることやろう」と腹をくくってDAY1のデイリースタンドアップに突撃したことを覚えています。
2018年で海外事業を離れて以来、そんな煮え切らない中の半信半疑の再合流でした。インド挑戦から3年経っての伏線回収です。
「今の自分に何ができるか?」を考えながら半年走ってみた結果、一定の自信を持って言うことができるのは次の3つです。
1. 日本事業で培った知見で、仮説検証を加速
事前問診のコンセプトは「輸出」できるか?
面白いことに、シンガポールには「事前問診」のコンセプト自体がありません。患者さんがクリニックを受診したら、受付をすませてそのまま診察室に通すことが多いようです。一方、医師や受付事務がどのように振る舞っているかを調査してみると、非効率な業務フローにまつわるユーザー課題そのものは存在していることがわかります。
そもそもあるコンセプトがない社会にコンセプトを伝える、というのはとても面白いチャレンジです。かつて日本企業の製品でも現地の生活に深く根ざし、コンセプトごと「輸出」され、生活を大きく変えた事例があります。ベトナムの「バイク=HONDA」、旧ソ連圏の「コピー機=канон (キヤノン) 」などがまさにそれです。
では Ubie は現地の生活に根ざす形で、いかにして「MONSHIN」のコンセプトを伝えられるでしょうか?まだまだ取り組みとしては道半ばですが、デザイナーとしてもとてもやりがいがあり、日本の知見が十分に活きていると感じています。
日本の「数年間」は、シンガポールの「数ヶ月」
Ubieのシンガポール事業においては、日本でトライした価値仮説を下地にまずMVPを構築し、価値仮説ごとそれが検証可能な医療機関顧客を見つけ、検証を繰り返しています。
日本で数年分の知見は、ユビーの重要なアセットの一つです。日本の知見が十分あるからこそ、現場への想像力を持って初期仮説を構築でき、顧客フィードバックから日本との共通点・相違点を学習でき、ローカライゼーションの指針を立てることができます。
日本の「数年間」の試行錯誤を濃縮還元し、シンガポールの「数ヶ月」の取り組みへとつなげています。このような垂直立上げは、日本事業あってこそ起動できるアプローチになります。
2. 海外で先につくって、試して、日本に知見を還流
単純なタイムマシン経営を超えて
「それって要はタイムマシン経営でしょ?」そんな声も聞こえてきそうです。この点については半分イエス、半分ノーです。
一方的にナレッジ輸出する「だけ」のグローバル事業はつくり手としてワクワクしないし、現地から学ぶ姿勢に欠けます。
前提が異なるからこそ、先に海外でつくっちゃって、試しちゃって、日本に知見を還流させる。そんな余白も十分に見出すことができます。
シンガポールで実験して、翌週には日本でも
データの取得とユーザー体験の改善は常に鶏卵の関係にあります。お互いの好循環をつくるにはどこからかじればいいか、というのは常にスタートアップの命題です。
たとえば Ubie シンガポール事業の場合、患者さんがどのような言葉で自分の状態を表現するかのデータが、日本と比べてまだ十分に学習できていません。そのため、患者・医師・Ubie それぞれに対して次のような恐れがあります。
患者:ユビーに訊かれたこと「以外」で、医師に伝えておきたいことを十分に伝えられない。
医師:患者さんが言いたいことを聴き漏らしてしまう。
Ubie:患者さんが医師に本当に伝えたかったことは何なのかわからず、学習がおそくなる。
患者さんの目的やコンテクストをどのように拾い上げるか、というのは問診体験のコア中のコアで、日本事業でも既に多くのトライを重ねてきました。
前提条件の違いから、たまたまシンガポールで先に実験でき、結果がよかったら日本事業へそれをシェアし、日本でも翌週から同様の取り組みがはじまるなど、好循環をつくることができています。
日本とシンガポールで共に「同時多拠点突破」する
Ubie Discovery のように国内外で同時多拠点で事業を展開していると、あるチームでの取り組みに先行する形で他チームが似た実験をしていることもあり、その実践知を相互還流させることで「ROIわからんからトライしづらい」デッドロックを比較的容易に回避できます。
「日本は日本、海外は海外」と考える企業が世の中的には多いですが、Ubieの場合は医学データの学習をグローバルで回すのはもちろん、プロダクトの仮説検証ループもグローバルで回しています。
国内外の複数事業群にて頻回に知見を交換しあえるのは、Ubie Discovery がまさに「同時多拠点突破」でプロダクト開発・事業開発をしているからこその強みです。
3. 「当たり前」を共有できるチームをつくる
冒頭で触れたように、自分は東京からリモートでのデザインになります。Ubie Discovery も国内外問わず基本リモートワークなのですが、UXデザインを推進する場合、どのような制約があるでしょうか?
そう、「現地の当たり前」が見えづらいことです。
たとえば日本同様シンガポールでも「どうしたら、高齢の患者さんの利用をよりアクセシブルにできるか」という問いがあります。高齢世代は他世代に比べると英語話者が少ないため、プロダクトのUIそのものより多言語対応のほうが大きな因子となります。このようなことも現地では「当たり前」ですが、リモートではどうしても拾いづらいコンテクストの一つです。
「当たり前」をいかに共有しあい、チームとしてのパフォーマンスを最大化できるか。直近半年では「冗長性」と「透明性」を高めるためのトライをしました。
医師ともBizDevともペアデザインし、「冗長性」を高める
以下記事で詳述している過去の経験から、思考の棚卸しをする上で、単純な会話よりもプロトタイプをつくってもらったほうが圧倒的に情報量が多く、コミュニケーションが捗り、結果としてよりユーザー価値の高いものをより早く構築できると確信しています。
グローバルチームのメンバーの相互の期待として、たとえば自分には figma のちょっとした使い方と同じかそれ以上に、日本の「当たり前」の共有を期待されることが多いです。
反面、自分はシンガポール人医師に医学的知見、シンガポールの臨床の慣習などの「当たり前」を、インド人事業開発には現地オペレーションの「当たり前」を、チームにインストールしてもらうことを期待しています。
これらの「当たり前」を、可視化し、同じものをみながら一緒につくれるのは、とてもパワフルです。
なんちゃってスクラムをやめ、「透明性」を高める
現地入りしているPO・医師・事業開発はいずれもスクラム開発の経験が豊富ではなかったものの、顧客の状況を肌身に触れて一番よくわかっているのは、現地メンバーたちです。なので彼らを含め全員でスクラム原則を共有し、良質なPBI (プロダクトバックログアイテム。これを媒介にして施策検討する) を自ら量産できることは、適切な組織学習ループを構築する第一歩としてとてもとても大事です。
できる限り内向きなコミュニケーションの摩擦を減らし、透明性を高め、ユーザーに価値を向けることがとにかくだいじなフェーズです。
・UbieにおけるROI不確実性の変数が何か
・そもそもスクラムセレモニーはなぜやっているか
・スクラムチームにおけるPO/開発者/SMの役割は何か
・現チームの状況に照らして「良質なPBIとそうじゃないPBI」の違いは何か。どうしたらより良くできそうか
デザインのかたわら、スクラムマスターとしては、たとえば上のような「共通言語を増やし透明性を高める活動」に継続して取り組んできました。やりようはいろいろあるはずで、より良いPBI作成のためのワークショップをやったり、他チームのスクラムセレモニーを観察していいところパクったりするなど、あの手この手でトライしています。
スクラムに限らず最高のチームは一朝一夕にはできないので、当然ながら大変です。しかも英語でやるのはなかなか大変です。とはいえ最高のプロダクトは最高のチームからしか生まれません。半年間の試行錯誤を通じて期初の「「当たり前」を共有する」という狙いは一定の効果を見せつつあるので、粘り強く改善を続けていきたいです。
世界でつかわれるプロダクト、つくれますか?
「2021年の自分」だからかけられるレバレッジ
ここまで述べた3つは、いずれも「2021年の自分」だからできることです。インド挑戦の頃の3年前は、日本事業の知見もなかったですし、医師とどうデザインしていいかよくわかってなかったし、スクラムマスターとしても今以上に未熟でした。「2018年の自分」では確実にできなかっただろうと考えています。3年間の蓄積が、個人として組織としてアセットにできているからこそ事業全体にレバレッジをかけることができます。
「いま使える事業アセットを活かし、他の事業群のアセットとのかけ合わせで、ユーザー価値・事業価値の両方を最大化する」というのは、Ubie Discovery が重視している「同時多拠点突破」そのものです。
限られた経営資源で最大限のレバレッジをきかせるのがスタートアップのやりかたで、それをまさに一人ひとりが体現している組織が Ubie Discovery です。
(参考) 同時多拠点突破をはじめとする Ubie Discovery のカルチャーは以下のカルチャーガイドもご覧ください。
英語が「できる」ことは海外事業の必須要件ではない
同じスポーツでもマラソンで使う筋肉と100 メートル走で使う筋肉がまったく異なるように、士業や外交官や作家や英語教師等が使う英語と、スタートアップで使う英語はまったく異なります。
スタートアップで活動する上で、海外のデザインスクールやMBAに留学する必要は必ずしも必須ではないです。もしそれが必須要件に見えているなら、あまりスタートアップに向かないと思います。
特にデザイナーは必要以上に英語で身構えて機会損失しているし、ちまちまTOEICやってる暇あったらさっさと飛び込めばいいと思います。勇み足するから学べることがあるし、うだうだ言わずやるから前に進められることもあります。
スタートアップにとって幸福な国、日本
日本は面白い国で、特に海外展開しなくても十分に国内市場が大きく、かつ十分に成熟しています。ワクワクするビジョン、それに集う優秀なメンバー、そしてタイミングがばちっとハマったら、とりあえず国内で一定の事業規模まで成長し、十分社会的に意味ある規模で価値提供することはできるっちゃできるはずです。
せっかくなので、一緒に考えてみましょう。
わざわざ日本を飛び出して、グローバルに挑戦する意味って何でしょうか?
Ubie Discovery で働く自分の場合は、ワクワクする企業ミッションの実現や金銭的リターンの最大化も動機としては十分です。ただ、何より最大の動機は好奇心です。「以前はあかんかったグローバル展開、今やったら何をどこまでできるんだろう?」とか考えると面白いです...面白くないですか...?
日本の医療に「黒船」はくるか?
以下の2018年のデザインカンファレンスDesignshipで触れたときから主張していて、年々確信を深めているのですが、日本の医療においてはGAFAとかがいいかんじに「黒船来航」して私たちの生活をよくしてくれる保証は、正直あまりないです。
「日本はグローバルの一部」であり、前述の通り、海外事業から学べることはとても多いです。
自分たちでやったるぞ!って気がないと永遠に昭和の医療体験から脱却しません。
現在から未来にかけて医療は誰もが当事者なはずで、医療難しそうとか興味ないとか英語できないとか言ってる場合ではないです。
まだ0.1%
Ubie が医療インフラとして価値をお届けできているのはまだせいぜい日本の数百万人で、まだ世界人口78億人の0.1%にもお届けできていません。
「もう事業できあがってるでしょ?」「デザインとか開発することあるの?」と言われることも最近はちらほらありますが、安心してください。たくさんあります。
0→10の立ち上げから PMF までのフェーズを担う Ubie Discovery においては常に新規事業がうまれ、それぞれの掛け合わせで次の時代の医療インフラ構築を目指しています。
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十分取り組む価値のあるワクワクする仕事です。
世界で使われるプロダクトへの道は、まだまだ爪先を踏み出したくらいにすぎません。
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