Ubie のバリュー・カルチャー進化の舞台裏 - 200人超のスタートアップはいかにして組織成長の壁と向き合ったか -
これは Ubie Discovery Advent Calendar 最終日の投稿です。
自分は普段 Ubie の海外事業全般に携わっているのですが、直近半年間は海外事業と同じくらい「Ubie 全社ないし Ubie Discovery でのバリュー・カルチャーの策定・浸透」にも携わっていました。2022年の下半期は、だいたい身体と頭の半分はこちらのプロジェクトをやっていたと思います。この年末で一つの区切りを迎えたので、ここまでの経緯、そこからスタートアップ業界に還元できる知見、今後の展望などざくっとまとめて行きます。
この記事で得られるもの
この記事を読むと、たとえば次のようなことが得られるはずです。
200人規模のスタートアップがいかにそのバリュー・カルチャーを進化させたか
バリュー・カルチャー再構築における勘所はどのあたりにあったか。特に複数カルチャーを抱える組織においてどのような設計がなされたか
自分がこの記事を書く動機の一つにもなっているのですが、今回のバリュー策定にあたっては、良くも悪くも (?) 先例となる規模・課題感の他社事例でドンピシャのものがほとんどありませんでした。Ubie の試行錯誤の軌跡が、他社にて同様の組織開発に携わる人の参考になったり、我々自身が将来2022年を振り返る際のきっかけになればいいなと思い筆をとっています。
Ubie のカルチャー小史
Ubie はこの冬で創業から5年半ほどとなりました。自分が入社した4年半前の2018年は、現在月間700万人に利用されている生活者向けの症状検索エンジン「ユビー」もまだリリース前で、もっというと先行していた医療機関向けのユビーAI問診も1号案件が獲得できるかどうかの時期でした。たった数人の組織に明文化されたバリュー・カルチャーなんてものはなくて、最初の PMF に向けて全員が全力に取り組む日々でした。
その後、Ubie の組織はどのように進化してきたのでしょうか?組織開発上のターニングポイントをあえて挙げると、たとえば次のようになるかと思います。
初期バリューの策定 (約30人。2019年)
Ubie Discovery (UD), Ubie Customer Science (UCS) 2組織への分化 (約50人。2020年)
UD, UCS, Ubie Pharma Innovation (UPI) 3組織への分化 (約100人。2021年)
UD, UCS, UPI, Ubie Corporate (UC) 4組織への分化 (約200人。2022年)
度重なる組織分化で何が起きたか?
社員数の増加に目が行きがちで、実際に社外の方々と会話する中でもこの点はよく話題にあがるのですが、一方で単純な人数の増加だけで説明できないことがあります。それは Ubie という会社が、それぞれまったく違うフェーズ、まったく違う固有のカルチャーを持った組織の複合体である点です。
他所でも多く触れられているので詳細は省きますが、Ubie は採用の効率化やコミュニケーション密度の担保を重視して、それぞれ固有のバリュー・カルチャーを持つ4組織を自律分散的に運営してきました。
では、度重なる組織分化の中で、何がおきたのでしょうか?一言でいうと、「組織接合面の増加による意思決定の機能不全」です。共同代表の久保が今回の全社共通バリューの経緯について言及していたので、以下引用します。
R.I.P. Good Times 再び
もう一つ、資本市場の激変も多くのスタートアップが経験した2022年の変化かと思います。有名 VC である Sequoia Capital が2008年の景気後退局面に公開した R.I.P. Good Times も、インターネットの各所で再度引用されていました。
これらはスタートアップで働く多くの人々に対して、ゲームのルールが変わったこと、事業戦略は勿論、組織としても一人ひとりが変化し続けなければ会社自体が生き残れないことを告げる強烈なメッセージでした。Ubie も例外はなく、ここでは現在進行形で全員の覚悟が求められています。
このような経緯、つまり組織分化の副産物と、資本市場の強烈な変化に正面から向き合う必要性から、 Ubie では夏に「全社共通バリュー」を策定するプロジェクトが立ち上がりました。
「全体としては多様」「個としてはモノカルチャー」をいかに両立できるか?
このプロジェクトが向き合った重要な問いは、いかにして「全体としては多様」「個としてはモノカルチャー」がいかに両立できるかでした。
これまでは各組織ごとのバリュー・カルチャーの醸成を重視していましたが、上で触れたように意思決定の妨げになるケースも以前に比べて明らかに増えてきました。各組織ごと純度の高いモノカルチャー (単一のカルチャー) が成立しているため、それぞれの価値観にコンフリクトがあり、AかBかで議論が発散しがちな場面で、我々全員が立ち戻ることのできるバリューが必要なのは明白でした。
一方で、これまでの揺り戻しとしてある種の中央集権的なバリュー・カルチャーへの引力に完全に身を委ねてしまうと、Ubie の事業成長を牽引してきた各組織の独自性が損なわれてしまい、採用や組織開発、ひいては事業にも不可逆な影響が出るだろうというのも予期されていました。
バリュー・カルチャーの再設計は、事業や組織の成長に伴って多くのスタートアップがモメンタムを失う分水嶺です。全体と個を両方活かすこと、あるいは「AかBか」ではなく「AもBも」を実現することこそ、我々が今向き合うべき問いである、とプロジェクトの最初に定義しました。
バリュープロジェクトでやったこと
では実際に何をやったのでしょうか?大まかなタイムラインとしてはこのように動いていました。
8-9月
全社共通バリュー策定
10-12月
各組織でのカルチャー策定
カルチャーガイド/カルチャーオンボーディングの更新
全社・各組織アワードの設計と運用
いざ書き出してみると何の変哲もないのですが、一つ一つの言語化をかなり丁寧に、徹底して取り組みました。全社共通のバリューの内容や策定プロセスについては、以下を参考にしてください。
全社共通のバリュー策定後、各組織におけるカルチャー策定と運用が始まりました。
自分は主に Ubie Discovery におけるカルチャー進化と、全社バリューと Ubie Discovery カルチャーとの整合性を保つ役割を担っており、直近では以下のカルチャーガイドとして、採用候補者をはじめ社外のステークホルダーに向けても公開に至っています。
全社共通のバリューと、Ubie Discovery におけるカルチャーと、それぞれ基本的な勘所は同じなので、両方の策定や運用に携わって重要と感じたポイントを挙げていきます。
バリュー・カルチャー策定の勘所
最初の問いが4割
振り返ってみると、最初の問いのデザインがバリュー策定の成否の大半を握っていたのかなと思います。Ubie においては「全体としては多様」「個としてはモノカルチャー」をいかに両立できるか?というの問いが非常に重要な意味を持つので、最初から現在までプロジェクトチームがこれをブレず実践できたのは、わかりやすいアウトプットとは別に見逃せないポイントだったはずです。
Ubie の今回の取り組みを振り返ってみるに、適切な問いが初期に立てられていた時点で、プロジェクトの半分程度は終わっていたと言えます。
チーミングが3割
適切な問いが立てられたあとは、それを解くチームが必要です。
Ubie の場合も、ビジョンを説き続ける人、過去の経緯を深く理解している人、「素朴な疑問」や「素人質問」と称して見落とされがちな重要論点を掬い上げる人、言語化が得意な人、粘り強く社内の関係者とコミュニケーションが取れる人など、多様なタレントが必要でした。
これらのメンバーは全社/各組織、また策定/運用それぞれの局面で適任が違うので、適切なメンバーの入れ替わりが重要となるはずです。
取捨選択が2割
適切な問いが立てられ、それを解くチームができたら、次にやるべきことは会社や組織が何を残し・何を捨てたいと考えているかを言語化することです。
特に Ubie の中でも Ubie Discovery の場合は他組織に比べても立ち上げから現在までの歴史が長く、ある種の「カルチャーの負債」と向き合う必要がありました。
たとえば Do’s and Don’ts は、これまでカルチャーガイドの中で形骸化している項目、誤った解釈が起きがちな項目、新規追加すべき項目などを棚卸し・優先度付け・統廃合することで、血の通った Do’s and Don’ts として生まれ変わりました。
ここは机上の空論や個人の感覚でやっていてもしょうがないので、過去の新入社員オンボーディングの結果を分析する中で特にアンラーン難易度が高い点の特定をし、そこを重要論点として関係メンバーと集中的に議論するなどメリハリをつけた検討を行いました。
事例による継続的検証が1割
「A と B どっちがいいんだっけ」という絶対の正解がない議論に、会社としてのスタンスを明確にとるのがバリューでありカルチャーです。したがって、これらは意思決定・行動レベルまで落とし込まれないとただの威勢の良いスローガンで終わってしまいます。バリューやカルチャーは一度つくって終わりではなく、手触り感ある具体的な事例収集・事例展開とセットではじめて血が通ったものになります。
ではどうやって実現できるでしょうか?これらは新入社員オンボーディング、アワードの表彰、採用候補者からのフィードバックなど、バリュー・カルチャーとの使い手との定期的なタッチポイントを最大限活用することをおすすめします。
Ubie Discovery の場合には、「カルチャーをつくるのは他でもない自分たち自身である」というカルチャーがあるため、適切でなくなってしまった組織設計に対して自浄作用が働いたり、シンプルにわかりづらい表現・誤解を招く表現に対しては適切なフィードバックがなされる仕組みがビルトインされています (Ubie Discovery 固有の価値観「組織を自分たちで創る」)。
事業や組織の状況は勿論、目的さえ変わりゆく中で、腐ったりんごを見ないふりして放置するのは非常にタチが悪いです。それを未然に防ぐための機構をビルトインするところまでやりきって、初めて継続的な進化が可能になります。
以上で見てきたように、バリュー・カルチャーは妥協のない言語化と対話によってのみ、初めて血の通ったものになります。
得られた成果
当初の狙い通り、Ubie は確実に「全体としては多様」「個としてはモノカルチャー」を両立する道を歩み始めています。
ちょうど先日全社のオフサイトがあり、あらたな全社共通バリューのもと優れた実践を行ったチームや個人が表彰される場となりました。あるアワード受賞者は「他組織との協働を通じて、自分が普段取り組んでいることの意義を再認識させられた」と言っていました。
これはつくり手冥利に尽きるコメントでした。それぞれの組織が強固なカルチャーを持っていることに加え、組織間の共通言語としてのバリューが両方起動してはじめて発せられるコメントと感じたからです。
2022年末の Ubie はまた一段、強くしなやかな会社に進化しつつあるようです。
これからの課題
ここまでが Ubie が経験したバリュー・カルチャー策定・浸透の怒涛の5ヶ月です。まだまだ道半ばではあり、たとえば来年以降も次のようなプロジェクトが走るでしょう。
バリュー浸透度の計測と改善
バリューや各組織カルチャーを元にした採用要件・報酬設計の進化
グローバル組織のカルチャー定義
バリューやカルチャーは生き物ゆえ、そう遠くない将来再び進化を遂げるはずです。それがいつになるかはまだわかりませんが、またこの記事を読み返して、Ubie の皆で答え合わせをしたいなと思います。
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