はじめに
2019年秋、イスタンブールを旅した。
帰路、後述するがオーバーブッキングで出国が1日遅れ、体力的には限界値を迎えた状態で家にたどり着いた深夜、それでも見てきた街の話がしたくて、起きていた父にぽつぽつ語っていた。ご飯のこと、猫のこと、友達のこと、建築のこと、イスラームという信仰について。
街いっぱいの鮮やかな石と布と果物と空、日が傾くたびにうたわれるハザーンの響き。
イスラム教という信仰に思い切り偏見がある私の父親。最初変な顔をしながら、焼酎をお湯で薄めながら、最後はなにかふむふむした顔をしながら寝に行った。人が暮らしている、遠くの街があるんだと少しでも思ってくれたらいいと思う。そこにはあなたが毎朝緑茶を飲まずには出勤しないように、毎朝透き通ったチャイを飲む人たちがいる。あなたが風呂上がりに作務衣を着て転がるのが大好きなように、街角のあちこちに「風呂上りのタオル屋さん」とそれを覗く人たちがいる。長野の山のあけびのように、食べるとめちゃくちゃ旨いわけではないんだけども癖になるザクロが積んである。
そういう話がしたいと思う。
どこまでできるかはわからないけど。海峡をまたぎ、あらゆる暴風のような越境に侵食され、おいしいものをたくさん守るあの街の朝や夜を、いろんな人に話したい。
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