情報のアップデートと伝え方のアップデート、その他悶々と悩んだ話
本業っぽい話。
わたしが勤める薬局は人口が少ないエリアにあります。もちろん医療機関も少なく、わたしの薬局に来る患者さんの住居は南北50kmぐらいに散らばっている状態。医療を受けるのも提供するのも苦労が多いのが正直なところです。それでも、ぶれずに仕事に集中できるのは環境の良さに恵まれているから。薬局から徒歩圏内に診療所、歯科、温泉施設があって、1~2km圏内に市役所、地域包括センター、認定こども園、小学校、中学校があります。コンパクトです。顔が見える連携が取りやすいのです。
で、温泉がそばにあることもあり、日本温泉気候物理医学会に属している医師と薬剤師のわたし、そして法医学の先生を招いて、市民に温泉浴の知識を学んでもらうセミナーを年1回開いています。
わたしが担当する項目は身体健康学と精神健康学。主に生活習慣病と自律神経・ストレスに関する内容をお話します。他のお二方は温泉の知識や入浴事故に関する話題を担当します。おそらくセミナーを受けたいと思う人たちが興味を示すのはこちらの話題でしょう。一方、わたしがお話しする内容はどうなんだろう?と悶々とするわけです。昨年は、高齢者高血圧診療ガイドラインの発表、動脈硬化性疾患予防ガイドラインの改定の背景にあるもの、健康日本21など日本の健康に関する行政の話題をお話ししました。果たして今年も同じでよいのか?このセミナーが目指すものは何なのか?昨年は医療・介護従事者、市役所職員が多く集まったが今年はどうか?色々と半年ぐらい悶々とし続けてあっという間に期日が迫っています。
ふと、2017年に発表された”入浴関連死:一般医に対する予防的戦略と提案”という総説論文を眺めてみました。疫学、法医学、生理学的研究に関して最新の研究を集めたものです。
(Bath-related deaths: Preventive strategies and suggestions for
general physicians PMID: 29263984 )
総説論文は全部を拾い上げるのが大変なので要旨と結論、示唆から紹介すると(やる気がなくてゴメンナサイ)
入浴関連死の予防的戦略として
1.リスクの認識→気温に基づいて入浴関連死のリスクを予測し、一般に知らせる(12月~3月が多い)
高齢者のいる家族の場合、特に冬は入浴中の高齢者に注意を払う
2.早期発見→入浴関連死は自宅が多い(Characteristics of sudden bath-related death investigated by medical examiners in Tokyo, Japan. PMID: 25503827)
また老人ホームではほとんど起こらない。これは湯温や入浴時間を観察しながら適切な予防措置をとるため。よって、入浴中の高齢者を見守ることは必要だが、過度の入浴制限は避けるべき
3.高齢者は41度以下、10分以内の入浴が好ましい
また、循環器系疾患やてんかんがある場合の入浴には注意を払うべき
4.起立性低血圧の予防→浴槽から出るときはゆっくり立ち上がる
示唆されていることとして
・超高齢化社会を迎えるにあたり、一般医が入浴関連死を含む入浴事故に遭遇する機会が増える
・入浴関連死亡者の多くは、高血圧や糖尿病などの生活習慣病があり、これらの予防手段を生活習慣病関連の高齢者の生活習慣指導に組み込むことが効果的である。
といったことが挙げられていました。
最新の研究を集めたとはいえ、過去に遡って集めるのが総説論文ですから、特に新しい話題ではありませんでした。
昨年、法医学の先生からいただいた配布資料と同じような内容でした。
ただ、これを読んで考えたのは同じ話題でも伝え方をよく考えてみよう、見直してみようということでした。昨年は、事実を淡々と述べる時間の方が長かったように思います。伝え方のアップデートが必要です。それから、参加してくださった方々としっかり交流したいなあと思うのです。
このセミナーは市が主催しているので、観光資源である温泉に人が集まり、かつ市民の健康寿命が延びるといいということをどうやら期待しているらしいのです。そのようなこともあって、地域ヘルスプロモーションを特集した雑誌や、医療社会学の本も眺めました。かえって悩みすぎました。
一番伝えたいのは
温泉に安全に入って幸せな時間を過ごしてほしい
この一言に尽きますね。
というわけで、昨年のスライドの見直しをそろそろ始めようと思います。長い独り言でした。