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プレゼント

12月に入った。冬は、空気が澄んでひんやりするけど、そのかわりに人と人との距離感を近づけてくれるような気がする。日が短くなった分、おうちで過ごす時間も長くなる。寒いのも悪くない。寒さは、木々が色づき、葉がひらひらと舞う姿を演出する。それにつられるかのように、街行く人々の足取りも慌ただしくなるように思える。“師走”とは全くもって字の通りだ。だけど、やれ忘年会だの、年末の準備だの、どんなに日々の暮らしに追われていても、大事な人のことを想う機会を与えてくれるステキな慣習がある。

そう、クリスマス。

子供の頃。
12月の初めに折り込まれる、おもちゃ屋さんの新聞広告を毎年楽しみにしていた。欲しいものを注文して指折り待ち続けると、クリスマスににプレゼントが届く仕組みで、いわばクリスマスプレゼントのカタログショッピングだった。

わたしの父は、世の中の良きお父さん像と違って、サンタクロースの真似事をしてくれるような人ではなかった。多分、優しさを上手く表現出来ない人だったのだろうと思う。その代わりと言ってはなんだが、わたしが欲しいと望んだものにはお金を出してくれる人だった。わたしが成長するにつれ、何事も無条件にいいよ、と父に言ってもらえるのがなんとなく恥ずかしいことのように思うようになり、自分でお金を出すから、と意地を張ることも多くなった。けれど、クリスマスプレゼントの注文だけは毎年遠慮なくしていたように思う。選ぶおもちゃはというと、小さい頃はリカちゃん人形のようなお人形遊びがメインだった。それがだんだんとゲームや、料理のまねごとが出来るものなど、ちょっと背伸びして大人のまねごとができるものに目が移るようになった。

小学校も高学年になり、そろそろ“おもちゃ屋さん”を卒業しないと恥ずかしいと思い始めたある年は、雪のないクリスマスだった。北東北でも平地なら、12月に雪がないことは珍しくない。けれど子供の頃なら、12月といったら見渡せば真っ白な世界が広がっていたように思う。雪道をよく転びながら学校にも行ったし、近所の友達とも全身で雪を感じながら全力で遊んでいた。それから、雪がたくさん積もっている方が、雪明りで夜の景色がふわっと明るく、安心感があった。雪のない12月、しかも1年で最も日が短い時期にあたるクリスマスに雪がないなんて、世の中が真っ暗なだけでなんだか物足りないなあと、雪国で子供をやっていたわたしは思っていた。

この年のクリスマスに届くおもちゃは、アニメのキャラクターを自由に印刷できる"いんさつやさん"というものを選んでいた。紙とカーボン紙があれば、ハンドル式の機械で好きな版を好きなように転写して印刷できるもので、原始的でシンプルなおもちゃだった。この年の冬から数年間は、この"いんさつやさん"を用いて年賀状を作るのが楽しくて仕方なかった。

12月25日の夜。毎年、暗くなってからおもちゃが届いていたので、このときもそうだろうと待機していた。19時頃だった。

「ピンポーン」
「はーい」

わたしが自分で玄関の扉をあけると、月明かりすらどこかに隠れてしまっている真っ暗な景色と、アイドリングしている車のエンジン音をバックに、見慣れた町のおもちゃ屋のお父さんが、サンタの衣装を身にまとい、大きな袋をかついで、白のキャラバンかハイエースのような商用車から降りてこちらに近づいてきた。

「はいっ、メリークリスマス!」

大きな袋の中から、お目当ての品が取り出された。わたしはどんな顔をしてよいのかわからないまま受け取り、おもちゃ屋のお父さんにありがとうと言った。

これまでと違って、この年、初めて自分で玄関に出てクリスマスプレゼントを直接受け取ったのだった。
今までは親がこれを受け取って、わたしにプレゼントしてくれていたんだな…。
トナカイとそりでプレゼントを配っているんじゃなくて商用車…。
雪が積ってないから商用車という訳じゃなくて、毎年のことだったんだろうな…。

そうかぁ、そうだったか…。

わかっていたけれど、クリスマスプレゼントとサンタクロースに対する子供なりのロマンがガタガタと崩れ去った瞬間だった。そのおかげで大人になる決心ができたわたしは、翌年から”おもちゃ屋さん”のクリスマスプレゼントを卒業できた。

思えば、おもちゃ屋さんが運んでくれたクリスマスプレゼントは、親がわたしの喜ぶ顔が見たくてお金を出してくれているとはいえ、ある意味、自分で自分のために選んだプレゼントだった。もちろん嬉しくて楽しかったけど、やっぱりプレゼントは誰かを想って、誰かのために選ぶ方が楽しいなあと、改めて想う。わたしはプレゼントを探し、悩む時間が好きだ。受け取る側になったときも、相手がプレゼントを選ぶ間、わたしのことを考えてくれているんだと思うと、こんなに嬉しいことはない。プレゼントは物じゃなくてもいい。誰かと過ごす時間や、誰かと交わす言葉もステキなプレゼントだ。

クリスマスまで、あと22日。
今年のクリスマス、あなたは誰のことを想い、どんなプレゼントを用意しますか?

*最後に、ご機嫌なアレンジのクリスマスソングを!明日以降のアドベントカレンダーも楽しみですね!!


#エッセイ #クリスマスプレゼント #noteアドベントカレンダー2018 #Xmas2018



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