緑のある「まちの縁側」
こんにちは、コーイチです。
今回は、コロナ禍で人々の価値観が大きく変わる中、2020年4月にオープンした新たなライフスタイルを先取りした複合施設「GREEN SPRINGS」を見ていき、このような施設が今後増えていくのか考えていきたいと思います。
1.GREEN SPRINGS
(出典:GREEN SPRINGS youtubeより)
東京郊外にある立川市の複合施設「GREEN SPRINGS」は、立川駅北口から徒歩5分、「国営昭和記念公園」と隣接し、多摩都市モノレール沿いの緑道に面した、緑豊かな環境に立地しています。
施設は約39,000㎡の敷地に、商業、オフィス、美術館、保育園、ホテル、多目的ホール、駐車場等を配し、各建物に囲まれた中心部には約10,000㎡の中央広場が設けられ、植栽と水辺による潤いのある空間を形成しており、歩いているだけでも心地よい空間になっています。
施設全体のコンセプトは「空と大地と人がつながる、ウェルビーイングタウン」で、"心とからだに気持ちいい街"を目指しています。
当施設を"まち"と位置づけ、建物は「まちの縁側」とし、施設の屋根は大きくせり出し、5,000㎡を超える軒裏には自然と調和するように多摩産の木材が使用されています。
中央広場は、立川の「歴史」と「未来」、そして「緑」と「水」が交差する空間として、「X」型の街路となっており、この「X」軸に沿って、ビオトープ、キャノピー、噴水、カフェ&リビングルーム、芝生広場などが配置されています。
さらに、広大な緑地の維持管理も徹底され、一年中美しい草花が来街者を迎え、点在する"あずま屋"は、コロナ禍で疲れた心身を解放し、人間本来の五感を呼び覚ましてくれます。寒い冬の期間はヒーターを随所に設置しており、暖を取ることもできるようになっています。
また、「GREEN SPRINGS」施設内の至る所には、芸術作家が作ったパブリックアートが展示されており、それらを見て回るだけでも見ごたえがあります。
中でも特徴的なのは、多目的ホールの屋上展望デッキに向かうスロープ部分で、水が流れる全長120mの階段式「カスケード」で、夏場は水遊びもできます。
このスロープは、かつてここに飛行場があった記憶を思い起こす滑走路をイメージし、「GREEN SPRINGS」のコンセプトである「空」を体現しています。
2.主要な施設
(出典:channelみずよーかん youtubeより)
「GREEN SPRINGS」は多摩地区最大の2,500人規模の多機能ホール、天然温泉を使ったインフィニティスパが特徴のホテル、開放的なオフィス、ショッピングエリア、緑が溢れる広場の5つで構成されています。
また、1階部分のピロティ駐車場には約180台の車を停めることが可能となっています。
〇TACHIKAWA STAGE GARDEN(立川ステージガーデン)
(出典:立川ステージガーデンHPより)
多摩地区最大規模を誇る約2,500席(スタンディング時は3,000人まで)の多目的・多機能エンターテイメントホールで、2階の後方を開放すると屋内ステージと野外ステージがつながり、野外席から舞台上を見ることができます。
また、広場に面する植栽の中にもスピーカーが配置され、ホールの音が外でも聞け、屋上には昭和記念公園の森を一望できるテラスとバーがあり、コンセプトの「日本一開かれた劇場」を具現化しています。
立川ステージガーデンという名前はこの場所がただのホールではなく、全ての人にとってあらゆる可能性を持った新たなステージであることを願って名付けられました。
民間会社が運営しているため、制約が少なく、24時間365日レンタルでき、あらゆるイベントに対応可能となっています。
ホールであり、イベントスペースであり、劇場であり、シアターであり、ライブハウスである。そんな全く新しいハイブリット空間となっています。
〇SORANO HOTEL(ソラノホテル)
(出典:tachikawa.keizai.bizより)
ウェルビーイングをコンセプトに新しいホテルのあり方を目指すホテルです。
都心からのアクセスもよく、食、スパ、温泉、エクササイズなどのアクティビティを気軽に楽しむことができます。
ロビーはテントをモチーフにデザインされており、その空間は屋内にいながらもキャンプや自然を連想させます。
また、客室の全てが52㎡以上のゆとりと、隣接する昭和記念公園を臨むバルコニーを備えており、特に寝具にこだわっていて、寝心地の良いハンガリー産マザーホワイトグースを使用した羽毛ふとんを用意しており、ベットの配置も、客室中央に窓に向かって置かれ、景色を楽しむための贅沢な空間遣いになっています。
このホテルの目玉は11階最上階にある「インフィニティプール」で、直線で約60mの規模があり、水平線と空が一体となったかのような圧倒的な開放感を感じることができます。
温泉水を使用しているので冬場でも暖かく、プールからは立川の街並みを見下ろすことができます。
また、10階にはジムスタジオ、インドアスパ、ナノミストサウナがあります。
〇NORTH LINK Coffee&Tea
(出典:prtree.jpより)
「NORTH LINK Coffee&Tea」は札幌の人気カフェ「森彦」から生まれた新しいカフェブランド「ノースリンク」の旗艦店で、東京エリア初出店となります。
このお店には、友達や家族とゆったりした時間を過ごせる「ラウンジエリア」と仕事や勉強に打ち込める「コワークエリア」という2つのエリアがあり、用途にあった使い分けができます。
コワークエリアでは、「ミーティングブース」と「スタディカウンター」の2つのゾーンに分かれており、目的に応じて使い分けることができます。
ミーティングブースにはHDMI対応のモニターやブラックボードが設置され、会議や打ち合わせなどで利用可能となっており、スタディカウンターは机が2段になっていて、作業スペースを広く取れる上に、上段にドリンクなどを置くことで誤って倒してしまう心配がなくなる構造となっています。
他にもフリーwi-fi完備、AC、USB-Aのコンセントを全席設置と、仕事や勉強が捗る環境が整えられています。
また、メニューも充実していおり、森彦焙煎のコーヒーメニューはもちろん、表参道のティーサロン「ラヴォンド」セレクトのティーメニューも多く取り揃えています。
〇100本のスプーン TACHIKAWA
(出典:スマイルズ プレスリリースより)
店内はガラス張りで開放感があり、ボックス席やカフェテーブル席のほか、小上がり席も用意され、小さな子どもがいても安心できる店となっています。
サンドイッチ店「となりのサンドイッチ」も併設され、彩り豊かなフードやドリンクがテイクアウトでも楽しめます。
特に人気のメニューが「リトルビックプレート」で、人気メニューが少量ずつプレートに載せられていて、子どもの頃食べたお子さまランチを大人になっても楽しむことができます。
また、子ども向けのサービスとして、大人のメニューの味やしつらえはそのままに、ハーフサイズの料理の提供をしてくれます。
他にも、待っている間も楽しめるようメニュー表に塗り絵ができたり、離乳食の提供もあります。
〇PLAY!
(出典:エイアンドビー プレスリリースより)
多摩地区初の大型複合文化施設で、絵とことばがテーマの美術館である「PLAY! MUSEUM」と子供の遊び場である「PLAY! PARK」の2つの他に、保育園やカフェなども内設されています。
「PLAY! MUSEUM」では「ありそうでない」美術館をコンセプトに、2種類の展覧会が開催されます。
有名な絵本作家を紹介する「常設展」と、新しい視点のクリエイターやアートを特集する「企画展」で、ふたつの展覧会を同時に見ることができます。
館内は、ダクトなどの建材が一部剥き出しになったデザインとなっており、展示が一番生きて見えるような空間、持続的に何かが行われていく空間を目標に作られました。
企画展では「できあがった作品を並べるだけでなく、空間のなかの楽しみを見つけていくようなもの」を目標に展示を行っています。
建物2階にある「PLAY! PARK」では「未知との出会い」をテーマに、子供たちが自由な発想で遊べる遊具やワークショップがたくさんあり、全部で7つのゾーンに分かれています。
中心部にある「バルーン・モンスター」はたくさんの風船をつなぎ合わせた不思議な遊び場で、登ったり、降りたり、くぐったり、ねころんだり、自由に遊べます。
また、子供が遊んでいる姿を見守れるような構造になっており、近くにはベビーカー置き場や授乳場所、オムツの交換場所などがあります。
館内にある「PLAY! CAFE」では、立川で有機栽培をおこなう鈴木農園の野菜などを使った食事や軽食メニューを提供しており、その時行なわれている展示会に関連したオリジナルのメニューも提供されています。
他にもワークショップをする場所や、楽器で遊ぶ場所、小さい子用のゾーンなど、施設内はいくつかにゾーニングされて様々な体験ができます。
3.ウェルビーイング
(出典:GREEN SPRINGS youtubeより)
開発を行った「立飛ホールディングス」は、1924年に株式会社石川島飛行機製作所としてスタートし、現在は立川で広大な土地・建物を管理する不動産賃貸業を中核に営み、地元経済・文化の発展に大きく貢献してきました。
2015年、三井不動産と共同で大型商業施設「ららぽーと立川立飛」を開業した同年、財務省から国営昭和記念公園に隣接する敷地を取得し、「GREEN SPRINGS」プロジェクトは始まりました。
プロジェクトリーダーを務めた「立飛ストラテジーラボ」は、「地域の大地主として責任を果たそうと、長期的な視点で、エリア価値の向上を目指す開発を志し、ここだけで収益を上げようとは考えていないのです。」と述べています。
容積率の効率化を競う都心部の開発には限界を感じており、そうした投資効率や収益から事業を組み立てる手法と差別化し、都市と自然の中間点という立川のポテンシャルを活かすこと。
そして、次の時代に求められる価値観を提示するため、生きること、過ごすことに寄り添う場所を提供したいという二つの方向性は当初から決まっていたと言います。
後に、「次の時代が求める価値観」はウェルビーイング(=心身共に良好な状態)という言葉に変換され、「空と大地と人がつながるウェルビーイングタウン」というコンセプトとなりました。
当施設は、容積率を500%から約160%に押さえ、地域社会や自然との共生、景観への配慮などから建物を低くし、さらに家賃が発生しない共用スペースを広く取るなど、ゆとりある空間を提供し、効率重視の施設経営とは次元の違う運営を目指しています。
その端的な例は、広場に面する商業エリアとしての一等地を「まちの縁側」として開放し、来訪者が自由に使えるようにしていることです。
施設経営には大きな負担となるにもかかわらず、100年後のまちを見据えた企業としての奥の深い経営哲学が感じられる施設ではないでしょうか。
4.最後に
(出典:VIRTUAL JAPAN youtubeより)
通常、事業性を考えれば、レンタブル比が低く、維持管理費も掛かる緑地をこれほど広く取ることは非常に難しいことです。
「GREEN SPRINGS」が目指すウェルビーイングは、健康で気持ちのいい暮らしと経済活動とをいかにバランスを取り、持続していくのか、優れた空間が人と経済を呼び込む「景観経済」への挑戦と思われます。
「ウェルビーイング」と言うコンセプトは、withコロナのライフスタイルの変化を先取りし、急変した世の中の脚光を浴びることとなり、当施設は2021年度グッドデザイン賞を受賞しました。
「都市環境と自然環境の結節点として、文化と自然の共存を目指した質の高いランドスケープや、公共施設ではないかと思えるほどのコンセプトとコンプレックスを、「立飛グループ」という民間企業が民間事業として実現している」ことなどが高く評価されました。
(出典:santa-company youtubeより)
このような開発は、事業性においてなかなか実現することは難しく、これからも多くは出来ないと思われますが、今後の施設開発においては、「GREEN SPRINGS」のような、効率を重視した施設ではなく、ゆとりや自然との共存、来訪者が自由に使える「パーク」のようなものがある開発が望まれるのではないかと考えています。
そうすることで、その施設のブランド価値があがり、結果的にもまちの価値も上がっていくのではないかと思います。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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