変化する美しい村
こんにちは、コーイチです。
今回は、三重広域連携スーパーシティ構想の拠点となる、2021年7月にグランドオープンした日本最大級の商業リゾート「VISON(ヴィソン)」を見ていき、このような開発が今後も日本で増加し、成功する可能性があるか考えたいと思います。
1.6町共同スーパーシティ構想
(出典:地方創生【内閣官房・内閣府】youtubeより)
地方では少子高齢化や過疎化により、地域や町の衰退、人口減、若者の流出等が進むなか、行政運営はさらなる人材不足や財政難が予想されています。そこで、これら地域の大きな課題を解決する手段として、「スーパーシティ構想」が政府において検討され進められてきました。
(2020年5月に改正国家戦略特区法(スーパーシティ法)が国会で成立。)
三重県の多気町、大台町、明和町、度会町、大紀町、紀北町の6町は共同で「三重広域連携スーパーシティ構想」として国の特区認定を目指し、2021年4月、内閣府地方創生推進事務局に提案書を提出しました。
スーパーシティ:データ連携と大胆な規制改革によって新しいサービスを生み出し、2030年ごろの未来の暮らしを先取りして実現しようとする都市のこと。
この構想の代表事業者は、大日本印刷(DNP)が担っています。
「VISON」のある多気町にはシャープ三重工場(中小型向け液晶パネルでは国内最大)があり、これが経済の中心になっています。
農業も盛んであり、柿の生産量は三重県内では1位であり、ミカン・モモも栽培されており、また、松阪牛の産地の一つでもあります。
しかし、多気町は、豊かな自然を有しながらも若年層の都市部への流出が課題となっていた。また、熊野古道や伊勢神宮に通ずる町ではあるものの、日帰り利用が多かったといいます。
大日本印刷モビリティ事業部の椎名氏がこの地に目を向けたのは、「VISON」の立花社長との交流がきっかけでした。そして、三重広域で人が行き交い、地域がもっと元気になるような取り組みを進めようとの考え方で一致しました。
スーパーシティ法成立の少し前から仲間集めに動くも、最初はうまくいかなかったと言います。
スーパーシティという言葉が独り歩きして、毛嫌いされ、何度も三重県内を回って議会説明にも立ち、地方創生のためには広域連携しかないと説明し、だんだんと参加者が増え、多気町単独から6町合同へとなり、民間企業も最終的に30社が集まりました。
単独市町村での立候補が目立つ中、6つの自治体が一枚岩になって推進するのは、類例がありません。しかし、背景には、もはや1つの町では地方創生は成し遂げられないという現実もありました。
三重県の広域連携のスーパーシティ構想では、「VISON」をグリーンフィールドのスーパーシティとして、先端技術の社会実装、複数のサービス横断でのデータ連携モデルを確立すること、並びに6町連携で少子高齢化 、人口減少、地域医療の減少、 医療費の増加、林業等地域産業の衰退、公共交通廃線による交通空白地増加などの地域課題の解決を進め、人口増加(魅力ある住みたくなるまちづくり)、地域経済の成長(活力ある産業のまちづくり)、安全安心な環境(安心安全なまちづくり)を目標とし、これらを実現するための施策として8つの取り組みを行う予定としています。
〇8つの取り組み
・医療ヘルスケア
7万人のドクターネットワークと、パーソナルヘルスコード連動型の医療
サービスが支える、未来の地域医療の実現。
・モビリティ・サービス
あらゆるモビリティが自律走行可能となるデジタルインフラ「ダイナミッ
クマップ」整備と、広域MaaS連携。
・地域産業活性化
林業等の地域産業を活性化させるための、一次産業におけるデータ活用と
規制改革施策。
・地域情報発信基盤
位置情報などメタデータを活用した、観光から防災までカバーする、地域
情報発信プラットフォーム開発。
・ゼロカーボンシティ
自然との共存と、RE100の地産地消による、ゼロカーボンシティの早期達
成。
・デジタルインフラ・防災
環境情報や、インフラ情報など、6町の社会基盤データを共通化し、維持
管理の簡易化と防災へのデータ活用。
・デジタル地域経済圏
観光客や住民による、地域店舗の利用活性化のための、行政サービス連動
型のデジタル地域通貨の発行。
・多目的ツーリズム
ヘルスケアや林業等の地域産業、また教育など、多目的なツーリズムプラ
ンによる交流人口の増加。
2.グリーンフィールド VISON(ヴィソン)
(出典:まちたび youtubeより)
三重広域連携スーパーシティ構想の拠点となる「VISON」は高速自動車国道法改正の第1号で生まれたグリーンフィールドで、2021年4月に第1期目をオープン、7月にグランドオープンしました。
「VISON」の立地は、伊勢神宮まで車で約20分の場所に位置しており、東京ドーム24個となる約119haの広大な敷地には、ホテル、産直市場、温浴施設、有名料理人が手掛ける地域食材を活かした飲食店、オーガニック農園など全68店舗が出店しています。(GW前に+2店舗が開業予定)
また、全国初の民間スマートインターチェンジ直結施設ともなります。
2013年、多気町の久保町長が現状の課題に挑むべく、癒しと食をテーマにした複合温泉リゾート施設を三重県菰野町に開業し、注目を集めてた「アクアイグニス」立花氏に相談を持ちかけました。
「薬草と地元の農産物を使った施設をつくって欲しい」という久保町長の言葉からプロジェクトが動き出し、「アクアイグニス」と「イオンタウン」、不動産ファンド運用の「ファーストブラザーズ」、「ロート製薬」の4社の合同会社により、「VISON」が誕生しました。
「VISON」の開発のキーワードは「Green & Digital Mie(グリーン&デジタル三重)」で、施設には多くの木材が使用されています。式年遷宮で伊勢神宮が新しい社殿を建てるように、「VISON」でも20年ごとの修繕が行われるためと言います。
3.VISONを構成するエリア
(出典:一味たか youtubeより)
三重県のほぼ真ん中にある多気町は、「多くの気を育む場所」とも言われていました。
豊かな自然に囲まれた広大な敷地に誕生した「VISON」は[癒・食・知]を軸とした、9つのエリアで構成されています。
① 温浴施設「本草(ほんぞう)エリア」
町長の希望した薬草は、三重大学と「ロート製薬」が薬草風呂を共同開発
することで形になりました。
古来より気象の動きや動植物の変化を表した七十二候という考えを基に、
伊勢暦・神宮暦、さらには多気の風土や習慣を組み合わせ、VISON独自の
「本草七十二候」を策定し、季節に合わせたこの土地ならではの薬草湯に
よって、三重の豊かな自然や暮らし、四季の移り変わりを肌で感じなが
ら、ここでしか味わえない特別な癒しが体感できます。
② 「ホテルエリア」
テラスからの眺望が自慢のホテル棟、非日常が味わえる露天風呂付きの
ヴィラ棟、カジュアルな滞在を楽しみたい方への「旅籠(はたご)」と
いった、コンセプトの異なる3タイプの宿泊施設があります。
時間の流れや季節の移ろいを感じながら、心と体を整え、五感を呼び起
こし、私たちのあるべき姿を取り戻す時間を過ごせます。
③ 「マルシェ ヴィソン」
ミシュランガイドパリ一つ星シェフの手島氏が監修した、ラインナップの
産直市場です。
地域の生産者が気軽に出店できる「軽トラマルシェ」をはじめ、地元松阪
牛の生産者によるブティックのような精肉店や和歌山県那智勝浦のマグ
ロ、伊勢志摩から直送される伊勢海老や鮑といった旬の魚介など、三重周
辺の新鮮な海の幸・山の幸を提供する店舗が集合しています。
また鳥羽市相差の海女さんによる「海女小屋 なか川」やおいしい食材をそ
の場で楽しめるBBQ&ドリンクスタンドもあり、手嶋シェフ監修のテイク
アウトメニューも味わえます。
④ 「スウィーツ ヴィレッジ」
パティシエ辻口氏がプロデュースするエリア。
ここでは、選び抜かれた素材で独自の製法により作り上げたケーキや焼き
菓子、コンフィチュールなどが楽しめるパティスリーカフェ「Confiture
HVISON」と、厳選した国産小麦を使った焼きたてパンが並ぶベーカリー
ショップ「Mariage de Farine VISON」の2店舗を展開しています。
店舗横には、苺とカカオを実際に栽培しながら、それぞれの栽培方法など
を研究するための「カカオハウス」と「イチゴハウス」も併設されていま
す。
⑤ 「和ヴィソン」
昆布の老舗や味噌と花糀の専門店、醤油蔵の直売店をはじめ、みりん、出
汁、酒といった、和食の味を支えるメーカー企業の工房や専門店と世界に
誇る“和食の魅力”を味わえる飲食店も並んだ、日本の味を堪能できる食の
エリア。
製造の様子を見学したり、みりん作りを体験したり、味噌や昆布の種類を
学んだりと、全店でワークショプやイベントを随時開催しており、日本の
伝統食材や食文化、ものづくりの背景などについて、「学んで体験できる
蔵」を展開しています。
⑥ 「セバスチャン通り」
世界一の美食の街として知られるスペイン・サンセバスチャン市と2017年
1 月に「美食を通じた友好の証」を締結し、友好の証を記念して「サンセ
バスチャン通り」と名付けられました。
サンセバスチャン市でも人気のバル 3 店舗のほか、和菓子店やプリン専門
店、マルコメ株式会社が運営するカフェなどの飲食店とファッションブラ
ンドや人気のライフスタイルショップもある、食事しながらショッピング
も楽しめる通りです。
⑦ 「木育エリア」
「人と木が育む豊かな時間」をテーマに、本物の木や森を見て、触れて、
学び、そして遊ぶことの楽しさを発信する体験・体感型施設「kiond(キ
オンド)」では、木への造形が深い木工家や林業家、アーティストによる
ウッドクラフトをはじめとした、大人の知的好奇心を満たしてくれるワー
クショップや、森でのアクティビティを開催しています。
また、施設内には、木の香りあふれるキッズパークもあり、「木育」を通
して子どもから大人まで、楽しく遊んで学べるエリア。
⑧ 「農園エリア」
「キユーピー株式会社」の協力により運営し、「公益社団法人 全国愛農
会」会長の村上真平氏が監修する、敷地約9000平米のサスティナブルなオ
ーガニック農園エリア。
ここでは、持続可能な農業システムやデザインを取り入れた“パーマカルチ
ャー”を実践しています。
また、地産地消をイタリア料理で実現した先駆者的存在である奥田氏が監
修する農園で栽培した野菜をはじめ、三重近郊で採れた新鮮な食材を中心
に使用したメニューが味わえる農園レストラン〈nouniyell〉も併設。
⑨ 「アトリエ ヴィソン」
三重県四日市市で活躍する陶芸家・内田氏がプロデュースした、包丁や
鍋、食器など調理道具の文化を発信する道具のエリア。
世界各国の食文化に関連した調理器具などを展示するミュージアム
「KATACHI museum」、ショップ「KATACHI museum shop」をメインに、
「Gallery 泛白 uhaku」や作陶風景を見学できる陶芸工房「SUTUDIO 672」
を併設しており、スペシャルティコーヒー専門店である猿田彦珈琲のカフ
ェも出店しています。
一日では、全てを体験できないほどの充実ぶりです。
4.ハイブリッドなスーパーシティ
(出典:Architectural Magazine youtubeより)
スーパーシティは一般的に、更地から新たに開発する「グリーンフィールド型」と、既存の都市を再生する「ブラウンフィールド型」に分類されます。
この構想は「VISON」という巨大リゾートを軸に、周辺へと徐々ににぎわいを広げていく、両者を組み合わせた「ハイブリッド型」とも言えます。
「VISON」そのものがグリーンフィールド・ブラウンフィールドのハイブリッドな形となり、施設内での自動運転、モビリティ、自律式ドローン、遠隔医療クリニック、キャッシュレス・地域通貨といった先端的サービスが導入されています。
また、これらを一つのIDで管理する「One-ID」データ連携基盤を活用し、地域住民や観光客がこのIDを使って、各種サービスを体験できるようになっています。
「One-ID」は、大日本印刷が開発し、そのノウハウは、連携する6市町に展開され、地域住民の利便性の向上や地域活性化につなげる構想ということです。「One-ID」は様々な可能性を秘めており、町民がお風呂を割安で活用できたり、健康データの蓄積にも活かせます。
「三菱電機」は、高性能センサーや3Dマップを搭載し、自動運転により目的地まで搬送する一人乗りのパーソナルモビリティと自動走行型のゴミ箱を開発、実用化を目指し、VISON内で実証実験を開始しており、2022年4月には、観光客の購入品を無人搬送ロボットが各店舗から収集し、観光客が指定し店舗のタブレットから店員が設定した時刻・場所へ自動で届ける「手ぶら観光ソリューション」の実証実験を始めました。
(出典:日刊工業ビデオニュース youtubeより)
三重県鈴鹿市に工場を持つスタートアップの「Future」は、電動3輪バイクのシェアリングサービス「GOGO!」のサービスを行っており、風を切って走るネーチャードライブを体験できます。
「GOGO!」は前輪が2つ、後輪が1つで、航続距離と最高時速は30キロメートルとなり、普通自動車免許があれば、公道も走行できます。
メーター部分のQRコードを専用アプリで読み取れば起動するシステムとなっています。
将来的には近隣の商業施設への導入や、デリバリーサービス、通勤・通学での利用も見込んでいるということです。
(出典:GOGOシェア youtubeより)
東京大学医学部発のスタートアップ「MRT」は、「VISON」のホテル内にオンライン診療に対応したクリニックを開設しています。
過疎化と高齢化が押し寄せる地域にあって、医療の充実は喫緊の課題であり、約7万人の医師が登録するプラットフォームである「MRT」はそのネットワークを生かしています。
通院が難しい患者向けに、車両内でオンラインの診療や服薬指導を行う「医療MaaS」にも力を入れる計画とのことです。
綜合警備保障「ALSOK」は、Visual SLAM(ビジュアルスラム)という全方向の画像処理技術を活用し、独自開発した完全自律型の小型ドローンを複数台投入し、GPSが届かない屋内や狭小空間にも入り込み、24時間365日の遠隔監視を続けています。
上空からの巡回警備だけでなく、鳥獣被害対策や災害発生後の状況確認にも役立てるつもりとのことです。
「ダイナミックマップ基盤」は、世界初となる「自動運転レベル3」の技術を搭載したホンダ「レジェンド」に高精度3次元地図データが採用された実績を生かし、まずは「VISON」内を3Dマップ化し、続いて6町の道路約2000キロメートルに広げていくとのことです。
「前田建設工業」は、地元産木材を活用した大規模な木造美術館の建設に挑んでいます。現行法では、一定規模を超える木造建築物は耐火建築物とする必要があり、木材の使用は制限されます。
3Dデータに基づく最新シミュレーション技術を駆使し、緊急時にも安全な避難時間を確保できる設計にすることで、使用制限を緩和できると考えています。
木材のトレーサビリティーシステム(生産履歴の追跡)も実装し、地元産木材のブランド化にも一役買う考えとのことです。
「フィノバレー」と「三菱電機」、「大日本印刷」の3社が連携デジタル地域通貨「Mie-Coin」の発行し、2022年3月後半にデジタル地域通貨「Mie-coin」を導入しました。
「Mie-Coin」はスマートフォンに専用アプリをインストールすることで利用でき、VISONに設置された装置を通してアプリに入金する仕組みとなっており、アプリ利用者には割引が適用されます。
今春にヴィソンの温浴施設「本草湯」で多気町民が決済に利用できるようにし、今夏には物販やサービス施設、多気町などの飲食店でも使えるようし、その後、周辺6町に展開していく予定とのことです。
5.最後に
(出典:Japan Travel "Mie" youtubeより)
「三重広域連携スーパーシティ構想」は、 2021年8月に「三重県6町連携」として、経済産業省の「地域新MaaS創出推進事業」に選ばれました。
しかし、2022年3月、残念ながら、国家戦略特区諮問会議にて採択が見送られました。
つくば市と大阪市に決定しました。
椎名氏は、「30社と6町。ずっと一緒に協議しながら進めてきた。自然と共存しながら、地域経済を活性化する街づくりを進めていくという意識は共有している」ので、今後も変わらないと言っています。
三重県のこの構想は、残念ながら「スーパーシティ」にはなりませんでしたが、地方創生として、地域産業が活性化し新しい仕事や雇用、資金、経済活動が生まれ、移住定住など、都会から地方へ新しい人の流れが生まれ、それらが新しいイノベーションと活力を生み出すことかと思います。
今後も各地で様々な取り組みや活力が生まれ、地方から日本全体が活性化していく未来像を期待しています。
「VISON」とは、「美しい村(=ビソン)」を意味します。
少子高齢化社会の未来を切り開く、美しいモデルケースとして成功していくか、今後も見ていきたいと思います。