体験型現代アート都市
こんにちは、コーイチです。
今回は、閉鎖された造船所跡地を、アートをみんなが楽しめるアミューズメントとして、街のシンボルと活性化に役立て、活気に満ちた、機械仕掛けの象が歩くアートな街と評判になったフランス「ナント」の再開発を見ていき、このような再開発が日本でも成功するのか考えていきたいと思います。
1.住民参加の再開発
(出典:Antoine Bretagne youtubeより)
フランスの住みたい街として人気の「ナント」は、パリからTGVで約2時間のフランス西部の街で、「アートと文化」を中心とした都市計画がヨーロッパで高く評価されています。
ナント島(L’île de Nantes)は、ナント市を流れるロワール川の中州エリアで、北を流れるマドレーヌ川と南を流れるピルミル川という、2つのロワール川の分流に取り囲まれており、東西4.9km、幅は最大1kmほどで、3,370平方キロメートルの面積となります。
かつて造船業で栄えていたナント島は、1970年〜80年代にかけて経済停滞の時代を迎え、1987年に島の造船所で建造された最後の船が船着き場を離れると、工業が盛んだった島の西側は荒地となってしまいました。
ナント島の再生プロジェクトは、広大な工業地帯の跡地を、持続可能な生活環境とビジネス環境に変えることを目的とし、また、1987年に閉鎖された地元の造船業に代わる、クリエイティブな芸術地区に魅力的な企業を誘致することも企図して始まりました。
ナント島の再開発は、「SAMOA」として知られる公共開発会社がディレクションしており、2037年に完成予定となっています。
「創造性」、「革新性」、「集団の遊び」を中心として、市民のニーズに合わせた新しい公共空間をテストしつつ、共同で構築しています。
「SAMOA」は、ナント島の都市開発と文化・クリエイティブ産業の開発という2つの分野において、日常的に生活する人々のニーズに適応した都市を創造するための施策を展開しています。
持続可能な島のためのマニフェストに基づき、4つの主要な目的(公益のために住民が協力して何かを行う文化、新しい形のモビリティの確立(移動手段)、利用者のウェルネス、場所のレジリエンス(エコロジカルフットプリントや再利用など)にて実験的なプロジェクトや新しいアプローチを続けています。
具体的には、住んで、働けて、気持ちよく歩ける、快適な場所の実現のための街づくりのアプローチに基づいています。
「SAMOA」は、クリエイティブと新しいテクノロジーを組み合わせた実験をしており、実験には、事業者、スタートアップ、市民、コミュニティが同時に参加しています。
実験は一定期間、公共スペースやプライベートなスペースで行われ、ユーザーはそのプロジェクトについて意見を述べることを求められ、最後のプロセスでは、「SAMOA」とそのパートナーによって調査・評価が実施されます。
これらの実験は、下記の3つの目的を持っています。
1.都市の課題に対応するための新しいデバイスのテスト(テクノロジー)2.技術革新を試したいボランティア企業への機会の提供
(スタートアップ)
3.都市づくりへの市民の関与(エンゲージメント)
ナント島は都市イノベーションのための実験空間として、市民が公共スペースの開発に関与するための革新的な方法を導入しています。
都市プロジェクトは当初から市民を巻き込むことを重視しており、住民、経済活動家、ビジターは、都市デザインや公共空間の開発に様々な形で参加し、実験することに密接に関わっています。
「SAMOA」は2017年、「デモンストレーション地区」と呼ばれる実験プログラムを開始しました。
このプログラムでは、「インテリジェント・サードプレイス」(複数の用途が交差する新しいハイブリッド空間とテクノロジー)と、「コネクテッドストリートと共有スペース」(都市のウェルビーイングに適応した公共空間のデザイン)という2つの分野に焦点を当てています。
2.レ・マシーン・ド・リル
(出典:Valentin Bucquet youtubeより)
ナント島と言えば、巨大な機械仕掛けの象「グランド・エレファント」が世界的に有名ですが、島の西側の造船所だった場所に2007年7月にオープンした機械仕掛けの遊園地「レ・マシーン・ド・リル(Les Machines de L’ile)」内にあります。
「グランド・エレファント」は、高さ12m×幅8m×全長21m、重量48.4トンという怪獣並みの巨体を持ち、鋼と木材から造られています。
最大50名もの乗客を乗せることができるという「グランド・エレファント」は、30分間の3つのコースを渡り歩くツアーをしています。
象が通るルートは決まっているものの、特に柵などで仕切られている訳ではなく、園内の人々が歩いている敷地を悠然と通り抜けていきます。
更に、本物の象さながら、鼻を持ち上げて水を噴射するパフォーマンスまで見せてくれます。
また、機械仕掛けのミノタウロス「ミノタウロスアステリオン」と機械仕掛けのクモ「アリアン」も「グランド・エレファント」と同様に、ツアーをしています。
「レ・マシーン・ド・リル」の機械仕掛けのアートを手掛けるのは、フランソワ・ドゥラロジエールを中心とするアート集団「ラ・マシン(La Machine)」。
広大なギャラリー「Galerie des Machines」では、「ラ・マシン」が作り出す世界は、『海底二万マイル』の作者であるナント出身の作家、ジュール・ヴェルヌの発明の世界や、レオナルド・ダ・ヴィンチの機械工学の世界に着想を得ているそうです。
このワンダーランドのようなギャラリーでは、翼の長さが8mもあるサギが優雅に舞い上がり、2人乗りの巨大クモが糸を登っていきます。
1人乗りのイモムシ、ナマケモノ、巨大なハチドリと雁の群れ、機械植物、ジャイアント蟻など様々な機械仕掛けの生き物がうごめいています。
時速100km以上で飛行する「空飛ぶノミ」などもあり、まるで、自分が小さくなったような感覚となります。
また、ジュール・ヴェルヌの代表作『海底二万マイル』の世界観を表現した、3階建ての巨大なメリーゴーランド「海の世界のカルーセル(Carrousel des mondes marins)」の内部も不思議な威容を誇っています。
メリーゴーランドには、カメレオン、タツノオトシゴなどメリーゴーランドでは、見慣れない動物たちがたくさんあり、カメレオンの目が動いたり、舌を出したり、ペガサスの翼が羽ばたいたりと、木と鋼でできているとは思えないリアルな動きをします。
3.プレイスメイキング
(出典:Ville de Nantes youtubeより)
フランス革命後、ナポレオン・ボナパルトによって「ミニ・ルーブル」と呼ばれる美術館を与えられた「ナント」は、フランス帝国内の15都市のひとつであり、それ以来、芸術の街として開花してきました。
現在、ナント美術館として知られるその美術館は、古代から現代までのコレクションを所蔵していますが、文字通り、現代美術がこの街を席巻しています。
「ナント」では、夏の芸術祭「ル・ボヤージュ・ア・ナント」が有名で、世界中から集まったアーティストが公共スペースに作品を展示します。
このフェスティバルは夏の間だけ開催されますが、多くのインスタレーションは一年中設置されており、「ナント」は一風変わったアートに満ちた都市となっています。
「ナント」では、地面に引かれたグリーンのライン(La ligne verte)に沿って歩くだけで、街に溶け込むように展示されている様々な現代アートにたどり着くことができます。
この全長7.5マイルのグリーンラインは、カフェの連なる素敵な路地や建物の中を通り抜けるだけでなく、『ナントの勅令』が出されたことで有名なブルターニュ大公城(Le Château des ducs de Bretagne)や、様々なアートインスタレーションからナント大聖堂、ロワール川を渡った向こう岸に位置する機械仕掛けの遊園地「レ・マシーン・ド・リル」など、ナントに来たら訪れたい主要な観光スポットをカバーしているので、まさに右も左もわからない状態でもナントの街を効率よく楽しむことができます。
街歩きをしていると、緑豊かな公園に突如現れる巨大な蛇、植物と一体化する植木鉢の小人たち、路地の水面に揺らぐ怪しげな女性のオブジェなど、伝統的な街並みに自然と溶け込む芸術作品たちに出会うことができます。
大人から子供まで楽しむことができる工夫が髄所に仕掛けられている、このナントの街全体が体験型現代アートと言えるかもしれません。
ナント島の都市プロジェクトでは、公共空間の計画・設計・管理に関する「プレイスメイキング」のアプローチの採用と、住民チームが参加する協議会で、住民をプロジェクトに参加させる新しい方法が採択されていることが特徴となっています。
また、機械仕掛けの巨大象というシンボルで、ナント島をアートの街として再定義できたことが、都市再生の成功要因として大きいと思われます。
街のシンボルや名物を持つことが、都市のブランディングとアイデンティティ開発に有効であることを証明したプロジェクトと言えるでしょう。
4.最後に
(出典:Loire-Atlantique Tourisme youtubeより)
観光客目線に立った工夫と、他に類を見ない魅力的な街づくりによって、現代アートの街として生まれ変わった「ナント」。
市の予算や職員を文化政策に重点的に配置するなどして力を入れた結果、過去5年間で年間宿泊客は約4割、夏季に限れば約5割も増加するなど、経済的な効果も出ているようです。
また、訪れた観光客の9割以上がナントをお勧めしたい観光地と答えていることからも、高い満足度が伺えます。
注目すべきは、こうした市の取組みには、職員だけではなく、多くの市民、団体も参加していることです。
古くから守り続けてきた歴史的建造物に、新しい芸術・文化が絶妙に溶け込む様子が魅力的な「ナント」の町ですが、それを作り上げたのは、昔から港町として外から来た様々な人々や文化を柔軟に取り込んできた住民自身なんですね。
住民主体の町おこしの好例として、また、2037年の完成まで、注目していきたいと思います。
日本でも、様々な町おこしがありますが、このような地域性を考慮し。行政、企業、住民などが協力する再開発によって、新たな観光都市として生まれ変わることは可能ではないでしょうか。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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