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小説「魔法少女舞隊マジカル・シックスティーン」35発見者と創始者

 その時だ。少し遠くから紙風船が割れるような乾いた炸裂音が三連続で聞こえた。
 聞き慣れたその音を間違えるわけがない。マジカル・フォーの魔法弾の射出音だ。

「戦闘!? 近い!?」
『おっと。始まったようだな』
「始まったって、何? また何かしたわけ?」
『いやなに、今の君には関係のないことだろう? 彼女らのことより自分の心配でもしたらどうかね』

 確かに誰にも何も言わず逃げ出してしまった自分が、今さらどの面下げて出ていけば良いのか。
 さっきから何度も入っていたマジカル・ラジオはこれと関係があるのだろうか。
 こんなことならちゃんと聞いておくのだった。
 色々な考えが高速で頭を駆け巡った。

 戦闘音は少し、また少しと遠ざかっていく。
 参加するのであれば、今すぐ音の方へ向かうべきだった。

『ピンチではあるようだが、彼女たちは強い。心配はいらないよ』
「黙って! アンタの言うことなんて信じるわけないでしょ!」
『信じて欲しいところだが、そうだな。言ってしまうと、私は君たちに危害を加えようという気はない』
「なっ、それなら何で攻撃してくるんだよ!」
『それは、そういうポーズが必要だからね。一応、戦っている風に見せないといけないだろう。多少の流れ弾が当たるのはしょうがないとして、殺さないようにとはきつく言ってあるよ』
「何のためにそんなことを……」
『そりゃ、君らのような優秀な人材を失いたくはないからねぇ。我々が滅んで欲しいのは人間だけなんだ』
「どうしてそこまで人間を――」
『マジカル・シックスティーン! どこにいるの!!』

 言葉を遮るようにマジカル・フォーの声が聞こえ、チロは体を硬直させた。返事をしよう、そう思ったが言葉が出てこない。

『おや、あの程度で苦戦しているのかな? さすがに二人では厳しかったか』
「ロー・シレンは何体いるの?」
『今回はちょっと趣向を凝らしているよ。詳しいことは秘密だけどね。前回の赤い個体もなかなか良かっただろう?』

 赤い個体、それは自らを撃てと言ってきた、かなたを殺したアイツのことだ。
 あの瞬間が脳裏に浮かび、チロは胃液が逆流しそうになるのを抑えた。

「あれは一体、どういうつもり? なんで自分を撃たせたわけ? なんでかなたちゃんを殺したの!」
『君の力を引き出すため、だよ』
「力を引き出す……?」

 あの時、チロの放った魔法弾の威力は確かに並外れたものがあった。怒りという感情によって魔力が増幅されたとでも言うのだろうか。そんな話、チロは聞いたことがない。

「あんなことで力が引き出されるなんて、聞いたこと無い!」
『事実、あの時の威力はすごかったじゃないか。家も数件は崩れてしまったほどだよ。いいか? ユエス・アムドでは君の力は活かしきれないんだよ。魔力については私のほうが知悉ちしつしている』
「霜永とかいったっけ? アンタ、何者なの?」
『私は魔力の発見者にして魔力研究家。そしてロー・シレンとユエス・アムドの創始者だ』
「ユエス・アムドの創始者!? 馬鹿なこと言わないで! アンタなんかが創始者なわけない!」
『なら、誰だ? 知っているかね?』
「それは……」

 隊長は賀欄堂がらんどうであるが、彼女がマジカル・ワンだったころにはすでにユエス・アムドはあったわけで、創始者ではない。富井教官は元軍人だ。

「ひょっとして春野さん?」
『ああ、その名前は懐かしいね。彼女こそ、最初の魔法少女だ。もちろん、発見したのは私だ』
「そんな話、聞いたこともない」
『だろうな。私は最初からいなかったことになっているんだろう。なにせ、全てを裏切ったのだから』

 この男がユエス・アムドを設立したとして、今現在はロー・シレンのリーダーだというのなら、この男は何かをやらかしたに違いない。ユエス・アムドを追い出され、経歴を抹消されるような何かをだ。

『シックスティーンパイセン、助けてくださいよー! 弾切れなんス。ニードアモ』

 なんと、聞こえてきたのは治療中のはずのマジカル・テンフォーティーだ。

「マジカル・テンフォーティー!? 今、病院じゃないの?!」
『あ、シックスティーンパイセン、今どこッスか?』
帆夏山はんなざんの近くだよ。そっちもその辺でしょ?」
『はい。ええ、帆夏山はんなざんの麓の森ッス』
「怪我はもう良いの? いいや、ともかく私もすぐに行くから!」
『ロジャー』

 奇妙なことだが、この霜永という男と話しているうちに、チロは気持ちが持ち直してきていた。
 立ち上がり、戦う気力が湧いてきている。マジカル・テンフォーティーが怪我を押して出てきているのに、いつまでもウジウジしてはいられない。
 そして何より、もうこれ以上、仲間を失いたくなかった。

「アンタとの話はまた今度! また詳しく聞かせてもらうよ!」
『いいだろう。あ、春野くんからも話を聞くといい。私も多忙だし、次にゆっくり話せるのがいつになるかは分からないからね』

 何が多忙だ。どうせ悪巧みでもしているのだろう。
 腹が立ってきたが、それは今は飲み込んで、チロは音が聞こえてきた方に向かい、飛んだ。

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