小説「魔法少女舞隊マジカル・シックスティーン」34思い出とため息
自分が普通ではないと知ったのは、魔力の検査を受けたときのことだ。
小学校に上がる前、どの児童もこの次期に受ける検査だ。そのくらいの歳では魔力は僅かにしか無い。しかし“有る”と“無い”では大違いなのだ。
魔力有りと判定されたチロは、国の特別なリストにその名を加えられた。
チロは、そこから両親の自分への扱いが変わったのを良く覚えている。
チロには二つ下の弟がいた。両親は弟のことをチロよりも気にかけていた。それは弟がまだ小さいから、というだけの当然の理由だったのだが、幼いチロにそれが理解できるはずもなく、ただ親からの愛情が薄れたように感じ、弟に嫉妬した。
それが、ある日から逆転したのだ。弟とチロが喧嘩した場合、両親が味方をするのはチロの方になった。それまではお姉ちゃんなんだから我慢しなさい、という言葉が決まり文句のように出ていたのに、一切聞かなくなっていた。
近所の人々の見る目も少し変わったと、幼いながらも敏感に感じていた。
それは憧れや羨望のようなものだったのだろう。あるいは嫉妬や妬みだったのかもしれない。ただ自分の手を引く母は決まって娘の話を自慢気にしていたし、それを聞くママ友たちは羨ましそうだった。
良いことばかりではない。年に一度、行われる身体検査がチロはとても嫌だった。腕に痛い針を刺されるし、冷たい台に体を押し付けたりしなければならない。
その帰り、父親がおもちゃを買ってくれるので、なんとか逃げ出さずに大人しくしていた。
チロは「自分は特別なんだ」と思うようになった。それは嬉しいことだった。そしてテレビアニメで見るあの魔法少女に、将来は自分もなれるのだとワクワクした。
ただそれで他の人達が取るに足らないつまらない者たちだ、などと思ったことはない。
チロは無事、中学生となったが、そこで明らかになったのは、自分は学力が無い、ということだった。さらに言うならば運動も特別できない。音楽や絵が上手いわけでもない。これと言って秀でたものが無かったのだ。
魔力があったからといって、まだ何もできはしない。足が早い子、成績が良い子、絵が上手い子、ピアノが弾ける子……同級生たちは色々な個性を伸ばしだしていて、自分は遅れているとすら感じるようになっていた。
それでもチロに対する周囲の特別扱いは変わらなかった。そのことに、徐々に違和感も感じてきていた。
高校は無理をせず自分の学力に合ったところを選んだ。魔力があるからといって特に推薦などなく、皆と同じように受験をし、合格した。これが彼女の初めての成功体験であった。
同時に、ようやくユエス・アムドへの加入が認められ、正式に魔法少女になった。
高校生活一日目。隣の席の女の子と早速仲良くなった。それがかなただ。
それから三日と経たないうちに、かなたから質問された。
「そういえば、チロちゃんって魔力があるの?」
別に隠していたわけではない。だが、なんとなく言わずにいた。
人の口に戸は立てられぬということか。隠すようなことでもないと正直に打ち明けることにした。
「うん。この春からユエス・アムドに入ったんだ。学校を休むこともあると思うし、正式隊員になったらいきなり出動ってこともあると思う。迷惑かけたらごめんね」
かなたは風が起きそうなほど激しく首を振った。
「迷惑だなんてとんでもないよ! 危険なこともあるだろうに、皆のために戦うなんてすごいことだよ。休んだときは私がノートを取っておいてあげるから安心してね」
これからこの子も私を特別扱いするんだろう。そう思った。しかしそれは杞憂だった。中学生までの友だちたちに感じていた、薄い膜のような隔たりを、彼女からは一切感じなかった。
放課後の遊びも普通に誘ってくる。そろそろ寝ようかという夜中にいきなりメッセージを飛ばしてくる。休みの日に突然家に来ることもあった。少し迷惑に感じることもあったが、彼女ならなぜか許すことができた。
普通は遠慮して聞いてこないようなことも彼女はズケズケと聞いてきた。それも不快ではなかった。
「ねー。魔力があるってどういう感じ?」
「魔法使うと疲れるの?」
「魔力を使いすぎるとお腹が減るの?」
チロは逆に、魔力が無いという感覚が分からなかった。ちょっと失礼かな、という質問をチロからしたこともある。
「空を飛べないって、不便だよね」
言った瞬間、しまったと後悔した。だがかなたはケラケラ笑って言った。
「ホントだよー。遅刻しそうな時、飛びたくなるよねー」
「私用で使ったら駄目なんだ。でも秘密だけど、急いでる時に飛んだことある」
「ヤバいってそれー! バレたらどうすんの?」
二人して大笑いした。
そんなことを思い出し、チロは小さく笑った。涙を一筋流しながら。
「人間が無能? んなわけないでしょ。私たちなんて魔力があるだけ。人にはもっと、色々な能力があって、色んな分野で活躍してる。お医者さんは病気を直すし、運転手さんは人を運ぶし、歌手は歌で人を感動させる。どれも私たちにできないことだよ。悪いけどもう、私に話しかけないでくれる?」
返ってきたのは言葉ではなく、深い溜息だった。
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