小説「魔法少女舞隊マジカル・シックスティーン」40新人と仮面
ロー・シレンが鳴りを潜めている間のユエス・アムドの行動は早かった。新人を一挙四人も採用したのである。
すでにマジカル・ステッキの授与式も終え、正式に配属された四人が制服姿で作戦室の壇上に一列に並んでいる。
驚いたことに、全員がアイスホッケーのゴールキーパーのような白い仮面を被っていた。目の部分の穴と口の辺りに小さな穴が多数開いているが、彼女らの顔はまったく分からない。
いつになく引き締まった表情をした富井が、彼女たちから一人分空けて立っていた。
「では紹介しよう。まずは向かって右から。マジカル・ピーファイブだ。見ての通り小型のマジカル・ステッキを使う。近接戦闘が得意なタイプだ」
マジカル・ピーファイブは薄い紫色のマジカル・ステッキを体の前で斜めに持っていた。それは確かにかなり短く、彼女の体の幅とさして変わりが無いほどだ。
「マ、マジカル・ピーファイブと申します。よろしくお願いします」
かなり緊張した声の彼女は、まだ幼い印象を受けた。身長も150センチあるかどうかという小ささで、中学生と言われても違和感がないほどだ。
「その隣がマジカル・ナインだ。見ての通り、彼女はまだ小さいため補助や補給を担当してもらう予定だ」
小さいマジカル・ピーファイブよりも更に小さい彼女は、おそらく小学生だろう。両手で大切そうに持っているアクアブルー色をしたマジカル・ステッキは、20センチほどしかない、かなり小型のものだ。
「マジカル・ナインです~! おねがいします~!」
一生懸命に声を出しているが、かなりか細い声だ。必死に何度も頭を下げている。彼女なりに、先輩方に失礼のないようにという考えからの行動だろう。
「次はマジカル・エイトセブンティだ。彼女はマジカル・テンフォーティーと同じく、予め魔力を込めたマジカル・ショットを使うタイプだ」
彼女の持つチョコレート色のマジカル・ステッキは、確かにマジカル・テンフォーティーのものと良く似ていた。
「マジカル・エイトセブンティです。先輩方、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
前の二人と違い、声は落ち着いている。身長は一般的な女性の平均身長ほどだが、服の上からでも鍛えられた筋肉が想像できる。何らかのスポーツをやっていたのではないかと思われた。
「最後はマジカル・ツーフォーティーだ。彼女は大きな魔力を持っていて、実は以前から訓練を行っていたそうだ。即戦力として期待してくれ」
彼女のマジカル・ステッキは真っ黒で鈍く光を反射していた。マジカル・シックスティーンのものをさらに一回り大きくしたほどの大型のマジカル・ステッキであった。
「ハッ! 自分はマジカル・ツーフォーティーです。よろしくお願い致します!」
彼女は両かかとをカチッと合わせると、左手で縦にマジカル・ステッキを持ち、右手で敬礼してハキハキと言った。まるで軍人である。身長も180センチほどあり、隣の富井と変わらぬほどの肩幅がある。
先輩である四人の魔法少女たちは席に座り、それを見守っていた。期待や不安が入り混じった表情をしている。その不安の元となっているものがどうしても気になったマジカル・フォーが手を挙げた。
「教官。彼女らが仮面をしているのはなぜですか?」
「うむ。これまでのことを踏まえてな。これからは個人情報の保護を重視したいと思う。被害者から逆恨みされないとも限らないからな。君たちもこれからは仮面を被ってもらう予定だ」
「今さらですか!? ていうか、今は内部の人間しかいないんですし外しても良くないですか? ちょっと怖いんですけど……」
「確かにちょっと不気味だな。ま、これは仮の仮面だ。マジカル・テンフォーティーのものを参考に、各自の仮面を作ってもらっている」
「え、それってウチに気を使ってくれてるんスか?」
まだ痛々しい包帯姿のマジカル・テンフォーティーが言った。表情はうかがえないが、その声にはやや怒りがこもっていた。
「そういうわけじゃない。言ったようにあくまで個人を特定されないようにだ。それじゃ挨拶もすんだことだし、みんな仮面を外してくれ」
富井の指示により、四人は仮面を外した。
マジカル・ピーファイブはやはり中学生くらいの幼い顔をしている。マジカル・ナインはまるっきり子どもだ。マジカル・エイトセブンティとマジカル・ツーフォーティーは薄くメイクをしていて二人よりは大人びている。
「本名、住所や学校、年齢、連絡先など個人が特定できそうな情報は各自、詮索しないように」
先輩である四人は互いの顔を見合わせた。
これからの時代はそうなのか、という理解もできるが、そこまでするかという呆れもあった。
これまでも彼女たちはコードネームで呼び合っていたし、プライベートのことを話すことはあまりしなかった。だがそれは、そうするのが伝統だったからであり、禁じられていたからではない。
とくに残念そうな顔をしていたのはチロだ。
(せっかくレミと仲良くなれたと思ったのにな……)
レミの顔を見てそう思った。レミは一瞬だけチロと目を合わせたが、すぐに前を向いてしまった。
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