ハリルホジッチの誹謗中傷をネットに書く人間を理解できない

元サッカー日本代表監督ヴァイッド・ハリルホジッチは、今でも日本で話題になる。涙の0円訴訟を取り下げたとか、FCナントがハリル就任後に降格圏から一気に順位を上げて今や上位チームを脅かす存在になったとか、くまモンと交流したとか。

そんな風に彼が話題になるたびに、ネット上は彼の悪口で溢れる。炎上はほんの一部の人間が繰り返し投稿することで生まれると言われるし、実際にハリルの誹謗中傷を書き込んでいるのは数人かもしれない。

だが、見ていて非常に不快だ。
もちろん、「不快だ」というだけでは僕の個人的な感情になってしまうので、「なぜ僕がハリルホジッチの誹謗中傷を許せないのか」も書かなければならない。今回の記事の目的はそれだ。

ハリルホジッチの悪口を書き連ねる人間は、ハリルの何がそんなに嫌いなのだろう。僕は、彼の功績は非常に大きいと思う。

ハリルホジッチは絶望的な状況にあった日本代表を救った

彼が就任した当初、日本代表はブラジルW杯で散々な目に遭ったばかりで、行き場を無くしていた。加えて、本田圭佑、岡崎慎司、川島永嗣といった絶対的な中心選手が衰え始め、挙句下から突き上げてくるはずの世代は通称"谷間の世代"。そんなこんなでチームの弱体化が避けられない中で、ハリルホジッチは積極的に若手を起用し、比較的余裕を持ってW杯へ導いた。
これは、アジアのライバル国の気持ちになって考えるとわかりやすい。
「ホンダもオカザキもカワシマも加齢で昔ほどの怖さがない。カガワは元から代表ではイマイチだ。あとジャパンって誰がいる?長谷部と長友だけじゃん?」と思っていたら、その日本に勝てないのだ。オーストラリアやサウジアラビアはモヤモヤしていただろう。
ジーコやザッケローニが日本代表をW杯に導いたのとはわけが違う。主力が衰え、若手が出てこない。そんな数年前のオランダ代表のような状況で、W杯に出場することができた。"谷間の世代"との批判を打ち消した久保裕也、21歳にして躍動した井手口陽介も賞賛されるべきだが、それ以前に、彼らを招集したことも含め、これはハリルホジッチの功績だと考えるべきだろう。

日本サッカーの常識に一石を投じた

彼は「対戦相手の研究よりも、自分たちのサッカーを極める方が良い」「親善試合で負けてはいけない」「フィジカルが弱くても日本のチームワークは世界に勝てる」「体脂肪率とか知らん。関係ない。」と言った日本サッカー通説を批判した。
ブラジルW杯で夢を打ち砕かれた日本サッカーに、「君ら何か勘違いしてるよ。現代サッカーは対戦相手の研究こそ命。フィジカルトレーニングと細やかな体調管理も必須。親善試合は選手のお試しの場であり、本気で戦術を見せびらかす場ではない」と啓蒙した。
別に、彼の理論が必ずしも正しいとは思わない(特に体脂肪率) し、言い方に問題が無かったとも言わない。しかし、「日本らしいサッカー」に幻想を抱き、携帯や働き方同様にサッカーでもガラパゴス化をひた走っていた我々は、多くのことに気づかされ、今までに無かった視点を得ることができた。(残念ながらなでしこジャパンの動向を見ている感じだと、JFAはハリルホジッチの啓蒙を全く理解していない様子だが…)
ついでに、権力を握った選手たちが暴走することや、JFAの腐り具合についても知ることができた。
これらは、ザッケローニのような心優しい、日本のヘンテコなやり方に合わせてくれる監督だったら起こり得なかったことだろう。最終的に、ザッケローニのやり方と真反対を突っ走ったハリルホジッチはJFAとスポンサーに嫌われ解任されてしまった。しかし、彼が示唆した世界の常識や考え方は、今後も生き続けるだろう。

ハリルホジッチを批判する人は、何をそんなに恨んでいるのか

持論だが、ハリルを憎む一部の人間は、E-1杯で韓国代表に惨敗した事を未だに恨んでいるのではないかと思う。あの試合が事実上の親善試合だった事、韓国は1.5軍、日本は3軍だった事などを未だに理解せず、「国の名誉を傷つけた国賊‼️」「日韓戦に負けるのは許せない‼️」とギャーギャー騒いでいる。彼らの非論理的な言説や感情的な物言いを見ていると、そんな印象を受ける。
悲しいな。どうしてそうなんだろうな。

JFAやスポンサーに睨まれながらも、日本サッカーが世界と戦う上で何が必要かを本気で考え、主力の高齢化と若手の実力不足に悩まされる日本代表を難なくW杯に導き、アホの田嶋に解任されてもなおフランスで日本人選手たちへの愛を語り、降格圏に沈むナントを劇的に立て直し、熊本地震に心を痛めてくまモンバッチをつけて試合に臨んだことをキッカケに今でもくまモンと交流している。日本サッカーの問題点をオブラートに包まずまくし立て、しかし選手たちのことは心から愛し、アホたちによって日本から追い出される際には日本代表を取り巻く悲しい闇、現実を暴いていった。

そんな彼の誹謗中傷を書き込むのは、本当に理解できない。理屈で考えれば、彼が嫌われるような人間ではないとわかるはずだ。感情でしか物事を考えていないとしか、思えない。

追記

「ハリルのサッカーはアフリカ系の身体能力モンスターにしか合わない」
「規則に従順すぎる日本人には、ハリルは厳しすぎた。皆萎縮していた」
と言った意見はある程度理解できる。だがそれはハリルホジッチの責任だろうか?批判されるべきはハリルホジッチだろうか? 彼がそういう強烈キャラなのは少し調べればわかる話で、(どうしても批判したいのならば)彼を日本に連れてきたJFAを批判するべきではないのか。批判の行き先がおかしいことに気づくべきだ。
ハリルのサッカーが日本人に合わないとか、ハリルのやり方は日本人を怖がらせるとか言って怒りたいのなら、「そんな監督をなぜ日本に連れてきたのか」とJFAに対して怒るべきであり、その感情がハリルホジッチへのdisになるのはちゃんちゃらおかしな話なのだ。

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