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現地に行って初めてわかる魅力もある

高校生の頃、友人に美術館に誘われた。なんでも魅力的なイベントが開かれているそうで、しかし高校生が一人で足を運ぶのは心細いので誰かと一緒に行きたいらしい。

僕は美術品といえばモネと東山魁夷が好きなくらいで、あとはほぼ無関心。「美術品なんてスマホで調べればいくらでも鑑賞できるし〜」などと考えている若造だったが、「丸の内のレストランで昼を奢るからさ」と言われてついて行くことにした。

迎えた当日、僕らは丸の内の地下でそこそこ高額な昼食をとり、美術館に向かった。友人は美術品を見てしきりに感動しており、僕にも「これにはこういう歴史があってね」とか「あの作品はこういう点で画期的だったんだ」とか、小声で解説してくれた。

しかし僕は、どちらかと言うと"その他の部分"に惹かれていた。

閑静な街を歩き、別世界に入り込むような感覚で美術館に入場し、美しく品のある空間を静かに歩き、解説を参考にしながら感性を総動員し、素人なりに作品を味わってみる。このような他では味わえない世界観と感覚に、すっかり魅了されていた。

この日は僕の美術館に対するイメージが大きく変わった日であり、僕の人生の中でも屈指の素晴らしい一日であった。10年近く経った今でも、朝から夜までの出来事を鮮明に思い出すことができる。それはあの美しい一日を何度も反芻して記憶に刻み込んできたからだらう。



ところで僕はサッカーファンなのだが、この美術館体験を機に「サッカーにあまり興味はないがスタジアムには行く」という人の気持ちが理解できた気がする。
すなわち、サッカーにさほど興味がなくても、"その他の部分"に魅力を感じればスタジアム観戦を存分に楽しめるのだと。

試合当日、巨大なスタジアムが見えてきた時の(良い意味での)緊張感、スタジアム周辺の熱気、ゲートをくぐる時の高揚感、階段を上がってピッチが見えた瞬間の感動、生で聴く両チームのサポーターの声援や歓声、「多くの人が画面越しに見ている場所にいる」というレア感、名物のスタジアムグルメ、試合後の周辺での飲食、etc… 
これらにはかなりの魅力が秘められている。(だからこそJリーグ各クラブとホームタウンは試合以外の部分の満足感も高めようと奮闘している)

「JリーグはDAZNやテレビでも見ることができるのに、どうしてわざわざ金をかけてスタジアムに行くのだろう?」という疑問を持つ人は多いだろう。僕もかつてはそうだった。理由は人それぞれで、「選手を応援したいから」「テレビとは試合の見え方が全然違うから」と答える人も多いと思う。しかし同時に、上述したような"その他の部分"の魅力を最大の理由に挙げる人も多いのではないだろうか。

スタジアムはもはや、ただサッカーを観戦するだけの場所ではないのである。



ここで重要なのは、どちらも「実際に行ってみないとわからない」ということだ。味わえるのは理屈を超えた感覚的な刺激であるため、いくら文章を読んでも、Googleのレビューを見ても、画像や動画を見ても、現地の雰囲気や熱気や匂いまで把握することはできない。

だから僕は、そこそこ高いランチを奢ってまでして僕を美術館に連れて行ってくれた友人同様に、一人のサッカーファンとして「とりあえず一度スタジアムに行ってみるといいよ」と、多くの人に勧めている。

※本来ならば、(リーズナブルな)ランチを奢ってでも自ら誘いたいところなのだが、ここ2年ほどはコロナ禍に加えて僕自身の人生も綱渡り状態にあるため、ただ勧めるに留めている。

オススメなのはもちろんサッカー専用スタジアムだ。(陸上トラックのないスタジアムで臨場感抜群。選手がよく見える。首都圏だと埼スタ、NACK5、カシマ、日立台、フクアリ、ニッパツあたり)
しかし、陸上競技場でも上述のような"その他の部分"を味わうことはできるし、むしろ「サッカー専用スタジアムでない」というハンデがある分、"その他の部分"に力を入れているクラブは多い。サッカー専用スタジアムが近くに無いからといって諦めないでほしい。



かつて美術品にほとんど興味のない僕が美術館に行ってその空間に魅了されたように、サッカーにあまり興味がなくてもスタジアムに行ってみれば非日常的な空間に魅了されるかもしれない。
繰り返しになるが、スタジアムはもはやサッカーを観るだけの場所ではない。それは実際に行ってみればわかると思う。
そこでは思わぬ興奮に出会えるかもしれないし、世界が広がるかもしれない。意外な趣味ができるかもしれないし、新しい友人ができるかもしれない。美味しい料理にありつけるかもしれないし、一生に残る思い出ができるかもしれない。

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蓮
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