見出し画像

なぜJリーグファンから「サッカー日本代表はつまらない」との声が出てくるようになったのか

Jリーグファンの代表批判

ここ5〜6年で、「サッカー日本代表がつまらない」との声が増えてきた。それも、昨今はJリーグファンからの声が多い。僕はツイッターでJリーグファンをフォローし、web上ではJリーグファンの集まる掲示板を覗いているが、代表戦のたびに「日本代表の試合が退屈になってきた」との書き込みが見られる。

一体なぜなのか。以下に、自分なりの考察を記す。


クラブと代表の強み(良さ)の違い

まず前提として、サッカーにおいてはクラブと代表が似て非なるものであることを、認識しておいてほしい。

クラブチームと代表チームには、それぞれ強み(良さ)がある。

クラブチームの強み
・戦術を深めるための練習時間を、長く確保できる
・チームの足りない部分を補強で補える

代表チームの強み
・選び抜かれた選手が国を背負うというネームバリュー 
・世界最大級のスポーツの祭典"サッカーワールドカップ"の存在

クラブチームの方がサッカーの質を高めやすいのがポイントだ。

Jリーグはクラブチームの強みを発揮してきたか?

ここから本題に入るが、Jリーグクラブは果たしてクラブチームの強み(上述した2つ)を活かしてきただろうか。

僕は、そうは思わない。

Jリーグでは、戦術を浸透させる時間が豊富にもかかわらず、あまり戦術を重視しない南米流の戦い方をスタンダードとしてきた。これは日本サッカーがブラジルの影響を受けてきたためだろう。
ゆえに、チームの完成度が代表チームと大差なかった。

そして、世界中から自由に補強できるにもかかわらず、代表チームを上回る選手層をなかなか揃えられなかった。

以上の事象を端的にまとめればこうなる。「Jリーグは長年に渡り、クラブチームの強みを出せないまま代表チームに挑んできた」

そりゃあ敵うはずがない。日本で代表チームが圧倒的な人気を誇り、Jリーグが影を潜めてきたのは至極当然の帰結なのだ。なにせ代表チームの方が華があるし、面白かったのだから。

日本における代表に偏ったサッカー人気の原因としては、しばしば"国民のサッカーに対するミーハー気質"が挙げられてきた。残念ながら、それも間違いなくある。ラグビーを見ていれば一目瞭然だ。代表しか見ない人は多い。

ただ今回そちらは重視しない。というのも、論題が「Jリーグファンが代表を退屈に感じるようになった理由」なのだから。代表しか観ない人たちに触れるのは筋違いだ。


ここ5年間のJリーグクラブの大きな変化

ここまで読んでくださった方は、もしかしたら分かってしまったかもしれない。僕が推論する、「昨今Jリーグファンが日本代表のサッカーを退屈に感じるようになった理由」を。

そう、それは「Jリーグクラブが、クラブチームの強みを存分に発揮し始めたから」である。

2016年にDAZNがJリーグと巨額の契約を結んだ。Jリーグの財政が潤い、賞金も爆増。その影響か、現状維持を続けてきたJリーグの複数クラブが改革に乗り出した。
ヴィッセル神戸は5年前から大物外国人選手らを積極的に補強。監督にも欧州流の人材を据え、2020年に2冠を達成した。
すでに欧州流のシステマチックな戦術を輸入していた横浜F・マリノスは、2019年にその成果を披露。度肝を抜く強さでJ1を制覇した。
それを受けて昨年は、複数クラブが欧州流を取り入れた。その中には、伝統的に南米流を採用してきた常勝軍団・鹿島アントラーズも含まれる。

欧州流がJリーグに根付いたかはさておき、Jリーグ全体がシステマチックや戦術の重要性を認知したことに疑いの余地はない。

実際、Jリーグの戦術的完成度、サッカーの質は年々高まっている。(コロナに苦しめられた昨年を除く)
もちろん、依然として欧州5大リーグには及ばないし、方向性がズレているとの指摘もあるが、質が上がっていることは確かだ。

さて… 長くなってしまったので、一旦まとめる。

Jリーグクラブが欧州流の戦い方を取り入れ、クラブ本来の強みを出せるようになったことに伴い、Jリーグファンが「代表のサッカーは質が高くない」と気づいた。それゆえに「代表がつまらなくなった」と感じるようになった。

日本代表を見て育った者としては寂しい気もするが、サッカーファンとしては「これが本来の姿だ」とも感じる。代表チームは大きな大会になればどのみち盛り上がるし、それほど心配しなくても良いのかもしれない。
少なくとも、「Jリーグよりも日本代表の方が面白いサッカーをしている」なんて状態よりは、はるかに健全だと思う。

代表チームの難しさ

さて、ここまで読んで「Jリーグと比較するまでもなく今の日本代表のサッカーはつまらない」「昔はもっと面白かった」と思った人もいるかもしれない。

しかし繰り返しになるが、代表のサッカーの質が低いのはある程度仕方ないのである。
※また、代表は高度な戦術を落とし込めない関係で選手の能力に依存しがちになるが、そうなった時に昔のように華のある選手 (小野伸二、中田英寿、中村俊輔、本田圭佑、香川真司あたり) が多くない今の代表は苦しくなる。そのことも「昔よりつまらない」と感じてしまう大きな理由の一つだと思う。

冒頭に挙げた通り、代表チームは国を背負うネームバリューとワールドカップの存在のおかげで人々を熱狂させているが、サッカーの完成度はクラブチームに遠く及ばない。

理由は主に二つ。まず、練習期間があまりに短いため、高度な戦術を浸透させることが難しいこと。次に、選手層が薄かったり主力がコンディション不良だったりで足りないピースがあっても、同国の国籍保有者からしか補強できないこと。

各国のクラブチームの緻密な練習や外国籍選手の補強を見れば、これらがいかに厳しい縛りか理解できると思う。

そう言えば4年前こんなニュースがあった。欧州のビッグクラブで数々のタイトルを獲得してきたイタリアの名将カルロ・アンチェロッティの発言だ。

アンチェロッティ氏はイタリアメディア『Rai』の『Domenica Sportiva』にゲスト出演し「代表監督の就任? それはないね。仕事を変えることを意味する。私はクラブチームで指揮を続けたい」

クラブチームと代表チームの監督は、別の仕事なのだろう。実際、クラブと代表の両方で好成績を残した監督は非常に少ない。昨今だとアントニオ・コンテ(現インテル)くらいか。
もし同じような仕事ならば、両方で好成績を残せる監督がもっと存在するはずだ。

またクラブチームで幾多の栄光を掴み取ってきた名監督にとってみれば、質の追求に限度のある代表サッカーは、やりがいが少なく、自分のサッカーの表現もしづらい、プレッシャーばかり大きな仕事に見えるのだと思う。歴代の日本代表監督を見てきても、それは正しいと感じる。

余談になるが… だからこそ、カタールのように「代表チームのクラブチーム化」を進める国が出てくる。すなわち、選手をほぼ同じクラブの選手で固定して毎日共に練習し、足りない部分は帰化選手で補強する方策だ。
日本で例えれば、川崎フロンターレをそのまま日本代表にして、不安なポジションにだけ他クラブの選手や帰化選手を補充するといったところか。川崎サポは嬉しいかもしれないが、大半のJリーグファンはゾッとしただろう。おそらくサッカーを観ない人からも批判が続出するはずだ。この戦略には他にも様々な難点があり、まず滅多に採用されない。
カタールに関しては、自国開催のワールドカップに向けて "なりふり構わず" チームを強化するために採用しただけだと思う。


森保ジャパンはもっと面白いサッカーをすべきなのか

ネット上に見られる代表批判の中には、「ザックジャパンのような面白いサッカーをしてほしい」との声も頻繁に見かける。

気持ちはわかるが、正直なところ全く賛同できない。

代表チームが"面白いサッカー"をするには、メンバーや戦術をある程度固定する必要がある。しかし、固定されていればそれだけ対策されやすくなる。するとどうなるか。互角以上のチームが集う大一番では、失敗する可能性が高くなる。あいにく、ワールドカップで自分たちの魅力的なサッカーをやらせてもらえるほど、日本代表は強くない。それが、2014年ワールドカップで突きつけられた現実だ。

なお、これについては内田篤人が似たような発言をしている。

「自分たちのサッカーをしたくても、させてくれないレベルの相手はたくさんいる。俺たちが戦っているのは、ワールドカップだよ?」

そんなわけで、僕個人の意見になるが、代表チームの大まかな方向性として森保ジャパンは間違っていないと思う。JFAの「ジャパンズウェイ」とかいう根性論はさておき、少なくともザックジャパンと同じ道は歩いていない。そのことは評価したい。

無論、まだまだ改善すべき点はあるし、今のまま東京五輪やワールドカップに突撃するのはやめてほしい。だが、それは森保一自身も認識しているだろう。サッカー番組にて「五輪に照準を合わせてきた」と語ったことからも分かるように、本戦から逆算してチーム作りを進めているはずだ。彼はハリルホジッチと最も親しかった日本人監督なので、そのあたりは期待したい。

もっとも、今ここで何を語ろうと憶測に過ぎず、東京五輪という名の蓋を開けてみなければ彼の能力は測れない。だから、まずは様子を見てみよう。少なくとも、今から「つまらない」とか「無能」だとか言って監督解任を求めるのは、時期尚早だと思う。

「代表の退屈さ」を、もっとポジティブに捉えたい

日本代表のサッカーが退屈に思えてきたのは、Jリーグのレベルと、我々Jリーグファンのサッカーを見る眼が成長した証でもある。代表のサッカーをこき下ろすのも良いが、その際は「代表がクラブに質で敵わないのは仕方ない」ことを最低限踏まえたいし、欲を言えばそれよりも「代表がつまらなく感じられるくらいにはJリーグが面白くなり、自分のサッカー観も成長したのだ」と考えた方がきっと楽しい。

良い方を見ずに悪い方ばかり見る。褒めずに批判ばかりする。これらは昔から日本人の国民性として指摘されている。実際マスコミを筆頭に、何においても批判ばかりする、批判することが知的だと思っている、"批判好き"な人々は多い。
しかし我々は、世界で最も人気のあるスポーツのファンである。世界を常に意識するスポーツを応援している。だからこそ、この悪しき性質からは早めに脱却し、少しずつでも世界標準に合わせていきたい。

僕はそう思うのだが、いかがだろうか。

まとめ

・Jリーグファンが日本代表のサッカーを退屈に感じるようになったのは、Jクラブがここ数年で質の高いサッカーを出来るようになったからだと思う。

・そもそも、代表チームのサッカーはあまり質が高くない。カタール式でも採用しない限り、限界がある。

・クラブの方が代表よりも面白くなったのは寂しい気もするが、両者の特徴を考慮すれば自然な成り行きにも思える。

・むしろ、今の方が健全なのではないか。

・個人的に今の日本代表に満足しているわけではないが、「ザックジャパンのような代表をもう一度」とは決して思わない。

・JFAの根性論を筆頭に様々な疑念はある。とはいえ、とりあえず東京五輪までは様子を見たい。森保一はハリル同様、本番に照準を合わせてチームを作っていくタイプと思われるからだ。

・「代表が退屈になった」と嘆くのも良いが、「Jリーグが劇的に面白くなった」「自分のサッカーを見る眼が育った」と考えることも必要なのではないか。悪い方にばかりフォーカスせず、良い方にもっと目を向けていきたい。

いいなと思ったら応援しよう!

蓮
お金に余裕のある方はもし良かったら。本の購入に充てます。