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【名作椅子】vol.6 Pirkka Chair

こんにちは、蓮実です。

今回ご紹介するのは、唯一無二の脚を持った
【ピルッカチェア】です。
調べても多くの謎が残ったミステリアスな一脚と
なっています。

1.独特の構造
椅子は、一般的に⑴前脚・⑵後ろ脚・⑶座面・
⑷幕板・⑸貫・⑹背板・⑺幕板、種類によっては
⑻アームによって構成されています。
これが基本のカタチなので、部材や細部の形状は
違っていても構成はほぼ同じになるもの。
そう思っていました。

しかし、ピルッカチェアには「貫」がありません。
替わりに脚部が木の枝のように枝分かれしており、ひと目見てこの椅子だとわかるアイコニックな
形状になっています。

椅子の脚部は、人が座った際の荷重が一番かかる
部分です。
この荷重で椅子が壊れないように、通常は貫や
幕板で脚部を補強しています。

一方で、ピルッカチェアの場合、座面部分を分岐
した脚の3点で支えることで、1箇所にかかる
圧力を分散させています。
カタチも三角形という安定感のある形状にしているので、同時に強度も高めています。

つまりこの脚部は、デザインを優先してつくられたものではなく、構造面から考えられ、たどり着いた形状なのです。

そして座面は真ん中で2分割をされており、真ん中に木ダボを入れて連結をしています。(なぜこの形状なのかは判明しませんでした。)

2.独特な素材選び
次に気になったのは、背板と座面、脚が2トーン
カラーで分けられていることです。なぜ場所で
塗り分けているのでしょう。

理由はハッキリとしませんが、座面と背板は
パイン材、脚部はバーチ材(カバ材)が使われて
います。
私個人の想像ですが、この異なる樹種の組み合わせによる木目や色の
違和感を無くすために、塗装を施しているのでは
ないでしょうか。

その他に、材料にパイン材を使っていることも、
かなり特殊に感じました。
木材の種類は大きく松や杉材などの「針葉樹」と、胡桃や桜、ブナ材などの「広葉樹」に分かれます。
針葉樹は安価で、軽く温かみのある手触りですが、柔らかいため家具にはあまり使われることは
ありません。

だからこそ、ピルッカチェアにパイン材が使われていることは意外に感じました。軽さやコスト面を
考えた結果なのでしょうか。

3.座り心地と重さ
実際の座り心地は、ちょうど良い角度で背にピタりと当たる感覚でした。
座面は、木材そのままなのですが、前方が緩やかに下に向かってR加工をされているので、膝の裏への
当たりも全く気になりません。

しかし、何より驚いたのは、この椅子の軽さです。
なんと約3.1kgしかないそうです。腰掛けようと
手前に引いた際、見た目から想像していたよりも、ずっと軽かったため、大げさではなく
そのまま投げそうになってしまったほどです。

ヒョイとかかえて、キッチンの煮込みものをする際のお供にできそうだなーと想像も膨らみます。

4.巨匠の下で育った才能
作者のイルマリ・タピオヴァーラは自然豊かな
フィンランドに生まれました。
同じくフィンランドを代表する
「アルヴァ・アアルト」から強く影響を受けて
います。彼はかなり特殊な経歴の持ち主で、
母国の学校でデザインを専攻した後、建築界の巨匠「ル・コルビュジェ」と「ミース・ファン・デル・ローエ」の事務所に勤めています。

ちなみに、彼はデンマークを代表する「ハンス・J・ウェグナー」や「ボーエ・モーエンセン」と同じ年に生まれた同期でもあります。
凄い時代です…。オールスター集合の、まさに黄金期といえるでしょう。

タピオヴァーラは、デザインは人々のためのものと考え、戦後のフィンランド国内の生活の向上に
努めました。
以前ご紹介したモーエンセンも同様に誰かを幸せにするための家具を目的にしています。

戦後の物資が枯渇し、条件が限られている中で
国民のニーズに応えるため、タピオヴァーラの才能と蓄えられた知識が十分に発揮されたのは間違いありません。

わかっていることの他にも、まだ色々と工夫が
詰め込まれていそうなピルッカチェアでした。

では、また


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