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俺の宝塚第一シーズンの幕が下りた日  

 俺の宝塚第一シーズンが終わった。今年の3月のことである。

 宙組トップスター、真風涼帆氏の引退は、もう宝塚の役者にハマるのは辞めようかと思うほどの衝撃を与えた。引退発表がされたのはおそらくその半年前、9月頃だったと思うがその時からもう、死んでしまうかもしれないと常に思っていた。
 真風くんの引退公演さえ見なければ、真風くんを宝塚に永遠に固定化することができる。見ないでおこうか、と本気で思ったが、見送るのも宝塚を楽しませてもらったファンの勤めかも知れないと思って一度だけ見に行った。
 そこで、俺の宝塚の幕は完全に閉じてしまった。

 そもそも宝塚第一シーズンが始まったのは、ほんの気まぐれだった。
 どこかに出かける際、阪急を利用したら「天は赤い河のほとり」の広告が出ていたのだ。
 姉と「へえ、宝塚ってこんなんもやるんだねえ」「見に行ってみようか」と本当に軽い気持ちで見に行ったのが始まりだった。
 赤い河も、二次創作でパロディされているのを読んでいただけで全く原作を知らないと言っても過言ではない、言うなればテニミュ空耳を楽しむ邪悪なオタクの側面でしか興味を持っていなかった。

 席を取ってから公演まで数か月あった。その間に、メンタルを病み(完全に自分のせいなのだが……)仕事を辞めていた。何かを集中して観て楽しむ、ということが出来ない時期だった。
 それでもせっかくだし、何故か家族総出で見に行くことになっていたし、初めて宝塚大劇場に足を踏み入れた。今でこそいろいろな劇場に足を運んでいるが、当時は学校行事でしか舞台を見たことがない、というくらいそういう文化レベルが低い人間だったので、きらびやかな世界のすべてに圧倒された。
 ただ、ハマる人間がいるんだなあ、すごいなあと思いながらマナーも分からないし大人しく席について開演を待った。
 2階席の右側、4人がちょうど座れるところだった。平日だったこともあり、2階席は3分の1くらい空いていた。こんなに席が空いてるもんなのか?等話していたらいよいよ始まった。
 目の前で人が演じている、ということが不思議だ……と思いながら見ていた覚えがある。話も歌も、今では覚えていないが(後半のショーにすべて持っていかれて!)、面白かった、と思う……と言いながら、すごかったのは分かる……と言いながら、シトラスの風を歌いながら岐路に着いた。
 今にして思えばかなり正統派なショーだと思うのだが、初めて観るにはやはり刺激が強く、なんなんだ……と思いながら家族全員が歌っていた。初見がバッディだったらぶっ倒れてたかもしれん。でも、これの一個前がバッディって後から知って何故……!もっと早く見に行かなかったのか!?!?!?とめちゃくちゃ後悔した。

 これが宝塚ファーストコンタクト。後からこれが真風くんのトップ就任初公演と知り、運命を感じた。

 次に見に行ったのは月組エリザベート。ここで宝塚にドはまりすることになる。
 エリザベートに全く相手にされないのにちょっかいかけ続けるトート閣下、萌え~~~!?と叫び、円盤とCDが出るまでジリジリ過ごし、入手してからはもうそれしか聞いてないくらいずっと聞いていた。この頃の月組のハーモニーが一番好きダァ……。
 あと、エリザベートで初めて演者を意識した。バーの前で流れている稽古風景で、この顔のいい方は誰ですの!?となり、カメラ持ってるからルキーニかねえ、月城さん……素敵だ……と沼に落ちた。でも写真は買わなかった気がする。まだ文化に慣れてなかったから……。

 そして星と月は見に行く、という日々を過ごし、新しく始めていた仕事のストレスがあまりに限界で、今やってる宝塚をなんでもいいから見てえ!!!!!!!と立ち見したのが「アナスタシア」だった。
 ここまで第一シーズンのプロローグ。ここから第一シーズン。

 アナスタシア、原作?のアニメも知らず、本当に組も調べず、この空間と歌を堪能できればそれでいいと思っていたが、最後の演出で頭を殴られたような衝撃を受け、ダバダバ泣いて岐路に着いた。
 アナスタシアは、革命後のロシアを舞台に記憶を失った少女アーニャとロシアを脱出したい青年ディミトリがパリにいるアナスタシアの祖母に会いに行く……というストーリーで合ってる?自信ねえよ。
 二人は家族がいない、という共通点があり、アーニャは記憶がないので「君はアナスタシアだ」と吹き込まれ、皇女らしい所作や知識を詰め込まれる。その間に二人の間には奇妙な友情が育まれ……。
 君がディオ・ブランドーだね?じゃなくて。
 アーニャは本当にアナスタシアで、祖母に会いに行き認められるも、最初は偽りの皇女だったアーニャが本物だといち早く気付いたディミトリが彼女の幸せのために身を引く。しかしアーニャは贅沢な暮らし、本当の祖母より、ディミトリを選び二人で家族になる……。
 最後には、アーニャの家族写真にディミトリが加わるという演出。
 この最後の演出が意味わからんくらい刺さってぇ……泣きに泣いちゃって。
 こんな幸せな話あっていいの!?!?って胸いっぱいになりながら帰った記憶がある。本当にすごいもの見たな、歌もうまかったし顔もよかったし……トップの人すごいなァ~くらいにこの時は思っていた。
 休憩時間の時点でもう気に入った歌が3つくらいあり、曲を覚えたいのと普通に良すぎて見れるだけの回数見に行くぞと決めて土日通い詰めた。
 公演とショーで分かれているものより一本もののミュージカルのほうが好きなのもあって土日どっちも一日中立ってた。
 そして観るたびに真風くんに魅せられていた。なんて……歌がうまい人なんだろう……。好きだ……。
 このディミトリのキャラクター性が好きだったというのもデカかったのかもしれない。割とスーパー攻め様みたいな役が多くない?真風くん。
 この後、真風くん引退まで宙組は通ったけどいまだに一番好きな公演はアナスタシアで更新されないし、引退してしまった今、更新もされないだろうな、と思っていた。
 桜木くんがトップになっても観るだろうけど、それまでよと思っていた。
 カジノロワイヤルの最後、一人で踊る真風くんを観ているときに「この人がここで、この格好で、宝塚歌劇団として、二度と立つことはないのか」と思ったら涙が溢れ、真風くんをみたいのに涙が邪魔で見えないよ~~~~~~~~~!!!!!!!!!!とオタクは大変だったんですよ。
  カジノロワイヤル、開演前にぼんやりとパンフを読んでいたら小池修一郎から真風くんへのラブレターが載っていて、ああ、この2人の間の関係は……計り知れないものがあるのだろうなあ……と思って。
  その2人が見せてくれるものに不安はないなと思って見てたら、男役としての真風くんの見たいもの全てを全部詰めてくれていたので本当に嬉しかったな。
 もう二度とこんなに人を好きになって、追いかけることってないのかも……と帰りの電車で脱力、本当に自分の中から何かが消えてしまった喪失感、それが癒えるまではせめて……。
 私は認知されたくないオタクなので、ディナーショーとかファンクラブに入るとか絶対したくないのだが、それでも好きな気持ちに嘘はないし他にも好きな人はいるのに、すべてが色褪せてしまったような感覚。
 ああ、私の宝塚第一シーズンは、真風くんと共に終わってしまった……。二度と幕は開かないのかもしれない。この世の終わりだな、もう私には加藤和樹と新テニミュしかないのだわ……今度の梅劇アナスタシアで観劇の趣味もなりを潜めるかもなと(アナスタシアの相葉っち、マジで楽しみだね……)絶望の日々を送っていたが、真風くんのルパン出演、コンサート決定でまだ人前に立ち続けてくれるのだと分かった瞬間、職場で泣いていた。
 推しはいつでもいつまでも推せるわけではない!マジで推せるときに全力で推すしかない。

 宝塚第一シーズンは終わったが、次の楽しみが生えてきたので生きれるな。うれぴ~と、一種宝塚への気持ちは割り切れてしまったのだった。

 次回、俺の宝塚第二シーズン、始まりの音。


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