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30年目、夏の耐久<SUGO 6時間耐久>

久々に、「飛び込み前転」をしました。あんまりよく覚えていないんだけど、バイクの壊れ方やヘルメットの傷の角度から推測すると、「ハイサイド」。3位入賞のチェッカーまであと15分のところだった。

第6スティント、残り1時間がボクの2回目の出番。アンカーだ。我々は4番グリッドからのスタートで、順調に周回を重ねていた。めちゃ速い第1ライダー・出原さんは順調だったし、「なかなかバイクに慣れないんだよねえ」と言っていた第2ライダー・タタラッチも慣れてきたようで、特に2回目はキレイに乗れてタイムも出ていた。

5時間経過時点で我々はクラス4位。「40秒前にゼッケン38がいて、後ろにゼッケン3も迫っているけど、抜いていくというより、遅いバイクにひっかからないようにすることを意識すればイケますよ」と、お手伝いに来てくれていた現役プロライダー氏にアドバイスをもらった。
「わかりました!ドゥーハンのメットに追いつくのが目標ですね!」

「38番と3番」
すぐ忘れちゃうので念仏を唱えながらコースイン。

3時間前の出番1回目、けっこう頑張って走っているのにタイムが伸びなくて悩んでいた。今年、出場クラスをST150というクラスに変え、バイクも12インチから17インチのものに変えたんだけど、エンジンのかんじは去年までのマシンと非常によく似ていた。コース後半、6速ギアでどれだけスピードを乗せて「ころがり降りられるか」が、最後の10%勾配を登りきる鍵になる。土曜日の練習走行も朝の予選も、去年までのマシンと同じ走り方をすれば、そこそこタイムが出た。

が、決勝になると途端にタイムが出なくなった。なんでだろう、なんでだろう? 暑さでエンジンもダレているのだろうか? なんて思っているうちに出番1回目の1時間が終わってしまった。ピットに戻ると、「裏監督」であるうちの奥さんが、こんな意見を言った。
「レストランの前から見ていたんだけどさ、なんか去年の黄色いバイクの時と比べて2コーナーのキレが悪いんだよ。体全体じゃなくて『腕』で無理やり曲がってるかんじがする。」

な、なんて的確なのか!w
そうだ。車格が大きくなってバンク角が深く感じられるせいか、体がこわばって硬くなっている。柔らかく「大きく」動かせていない自覚があった。2コーナーで一度リアがズルっと滑って怖くなってしまったんだけど、それも体の硬さが理由だろう。
「柔らかく」
というのも、念仏の中のキーワードに追加された。

10周ほどしただろうか、あいかわらずタイムは上がらなかった。16時前だから気温も少し下がっているはずだ。いよいよ「暑さ」のせいではないことがはっきりしてきた。

バックストレッチを全開で下って行く時に、こんなにうるさいマシンなのに、ヘルメット越しに蝉の声が聞こえるのが不思議だなあとか思っていると、ストレートエンドの「馬の背コーナー」の侵入で突然17インチのマシンにビューンとインを刺された。
「あれ!? ゼッケン3だ!もう来たか!」
そうだ、ひとつ後ろを走っているはずのゼッケン3だ。あれに抜かれるわけにはいかない。
ここでスイッチが入った。

懸命についていくとなんとか追える。10%勾配で追い抜くけど1コーナーでインを刺される。バックストレッチでなんとか追いついてブレーキングを遅らせて抜く。1コーナーで油断していると、またスルっとインに入られる。

そんなことを5〜6周しただろうか。いつのまにかタイムが1〜2秒上がっていた。必死で3番を追うと、今日の自分の悪かったところがわかってしまった。ある場所でのギアの選択を間違えていたんだと思う。去年までのマシンのシフトタイミングを信じて、忠実に従いすぎていたのだ。

レースでは「速い人に引っ張ってもらう」という言い方をよくするけれども、ゼッケン3に「引っ張って」もらったことが功を奏した。

その後も1コーナーでインを刺されるんじゃないかと思って毎周毎周ビビっているんだけるども、ゼッケン3は全然来ない。
「コケたのかな、いや、コケるようなライダーではなかった」
ストレートで振り返ってみても、それらしいバイクは見つけられない。
「ライダー交代?いや、普通チェッカー前30分でライダー交代はしない」

「?」マークのまま5周ぐらいを走る。
気になっていたのがピットのサインボードで、自分に対して「UP」のサインが出されていたこと。うーん、「さらにペースアップしろ」かー。けっこう限界っすw

いやいや、似てるボードだけどウチのじゃないな。いー、やー??? 次の周見るとウチのやつだ。

「???」

後で聞いたのだけど、ゼッケン3と競ったことでタイムアップした我々は予定より早く、前を走るゼッケン38に追いつきそうになっている状態だった。ゼッケン38にも「UP」のサイン(=逃げ切れ)が出されていたらしい。

が、ボクはこの時点で全くそれを認識していない。

残り18分の表示を見た周、1コーナー手前で同じST150クラスのマシンが前を走っているのに気がついた。最近のバイクはシートカウルが薄くて上面にゼッケンが貼られたりしてるのでよく見えないんだけど、「38」。

「あれ……38だっけ、83だっけ?、38?83?」
「いやいや『38』だ。これだ、これが抜かなきゃいけないバイクだ!」
ドゥーハンのメットかどうかは確認しなかったが、追いついたらしい。

1コーナー、2コーナーを丁寧にまわって、得意の4コーナーで仕掛けるつもりだったんだけど、38号車は調子が悪いのかブレーキングがやけに早くて、あっさり抜けた。
これでクラス3位ということになる。
「あと20分弱だから冷静に!」と、思ったはずだった。

ここから後の記憶が若干曖昧なんだけど、たぶんこうだ。

さらに一台抜いて、ハイポイントを抜けてバックストレッチ(長いストレート)を下る。6速まで入れた時、前にいたのは2台。同じクラスの17インチが少し右側に、周回遅れの12インチがアウト側に1台。ちょうど「馬の背コーナー」のブレーキングで3台が並ぶぐらいだろう。インを刺そうかと思ったんだけど、ここで無理してコケたら目もあてられない。アウトからいこうと思った。

そしてブレーキング。
倒し込みのためにアウトに寄ってきた17インチと12インチの間に、ボクも倒し込みながら割り込む形になった。スピード差を自分が読み間違えたのか、ちょうど2台の間に挟まれるかんじだ。12インチにはたぶん、ぶつかってないんだけど2台に挟まれて、あわててパニックブレーキを踏んでしまったような気がする。12インチを左に見ながら「まじか、オレコケるのかな」と思った次の瞬間、グラベルの上を前転していた。激しく縦回転しながら、いま降りてきた長い下り坂がバイザーの向こうに見えていた。

はたから見ると何が起きたのかよく分からない、えらくカッコ悪いコケ方だったんじゃないかと思う。

グラベルでもんどり打った後、速攻でマーシャルの3人が飛んできてボクを抱き抱えて、バイクも退避させてくれた。

「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。あ、ちょちょちょ、待って! バイク持っていかないでください、走れますから! 」
「いや、破損チェックしないといけないので。走っていいかはコントロールタワーに聞いてみないと。」
「ライダーが走れると言ってるって、はやくタワーに聞いてみてください。はやく!!!」
「一応タワーからはOK出たんですけど、体大丈夫ですか?」
「だから、は・し・れ・ま・す・か・ら!(絶叫)」
と、わたしはかなーり、声を荒げてしまいました。ゴメンナサイ。(ここでは届かないと思うけど)

結果、
「このまま必ずピットに戻ってください。走っちゃったらペナルティですよ。」
と念を押されて現場を後にする。

一応ピットまで戻ってきた。チェッカーの時間まであと8分?ほど。クラッチレバーとシフトペダルの曲がりを3人がかりで超速で直してもらう。そこへビブスを着た係員がチェックに来る。
「そのヘルメットの傷だとダメだね、他のライダーに交代しもらって。」
そう言われて、急遽ツナギを着て残り2分でコースに戻ってくれた、タタラッチを見送る。
「あなた医務室でチェックしてもらってくださいね。」
ボクは奥さんが運転するクルマに乗せられてメディカルルームに向かう。

結果、チェッカーフラッグは受けられたようで、クラス5位だということを医務室に行くのを待ちながら場内放送で聞いた。
「追い上げを見せた『パエリアレーシング+FLASH』ですが、転倒の後もなんとかゴールに繋いだみたいですね、よかったですね。」

すんません……みなさん本当にありがとう。

自分はバイクも作れないし、知識もあんまりない。走って「結果」を出すしか出来ることがない。だから最速でバトンを渡す・ゴールに繋げることだけが役目。なので途切れちゃったら意味がない。これでは全然ダメです。

寝る間を削ってバイクをつくってくれたチームメイトや、猛暑のなか遠く仙台まで手伝いに来てくれたみんなのことを考えると、くやしくて、自分に腹が立って、涙がでた。くやしい。

カラーリングがとても気に入っていたビニャーレスレプリカのヘルメット、もう使えないなあ。

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