アイスリボン・IW19王座決定トーナメント、“中堅”の奮起というテーマ。
なるほどなぁと思ったのは、アイスリボン のIW19王座決定トーナメントにおけるマッチメイクだ。
かつて開催されていたネット配信「19時女子プロレス」から生まれたベルトを、現在の無観客試合で復活させるというアイデア。加えてトーナメントの組み合わせが「19時女子プロレスを経験した選手」と「経験していない選手」でのブロック分け。選手たちは自然に団体の歴史を感じ、考え、語ることになる。4月25日のトーナメント初日、1回戦に勝利したつくしは初代王者。「他の選手とは思い入れが違う」ということで、自作ベルトを披露している。
12人エントリーだからシード枠を作ると思いきや、2回戦は同じブロックで勝った3人による3WAY。発想が自由だ。負け抜け勝ち残りルールだからトライアングルリボンとは違うものの、3人同時対戦での実力もアイスリボンでは重要になる。時間切れの場合は視聴者によるネット投票で勝ち上がりを決めるところもアイスリボンらしい。
優勝争いの軸になってくるのは「19時経験組」だろう。このブロックは団体の頂点ICE×∞王座を戴冠したことのある選手がほとんど。逆に「19時未経験ブロック」では現ICE×∞王者の雪妃真矢が頭抜けた存在だ。
ICE×∞戴冠経験者は、すなわちトップ戦線の選手。アイスリボンの選手層を「戴冠経験組」、「未経験組」に分ければ、当然ながら「未経験組」の活躍がトーナメントの刺激になる。というより団体そのものへの刺激だ。
この「戴冠未経験組」の中で、鈴季すずはICE×∞の次期挑戦権を持っている。ということは「すず以外の未経験組」が、今アイスリボンで頑張らなければいけない選手、奮起が期待されている選手ということになると思う。19時女子プロレス経験者、ICE×∞戴冠経験者のほうが力もキャリアも言葉もある。それを覆すことができるかどうか。17歳のすずは圧倒的な“若さ”と“新しさ”で覆そうとしている。では他の選手はどうするのか。
トーナメントで奮起が求められている選手たちというのは、つまりラム会長と山下りなが指摘した「中堅」だ。彼女たちと手を組んだ雪妃も「中堅」のもの足りなさを口にしている。雪妃には、もしかしたら自分もそうなっていたかもしれないという実感がある。同時に覚悟を決めて変わったという自負もある。だから言葉も厳しくなる。
アイスリボンといえば「プロレスでハッピー」のスローガンだ。一番の魅力は楽しい雰囲気であり、選手たちの団結力も強い。その空間にいること自体が楽しいという団体だ。
けれどやはり、選手同士は競い合っている。今の「楽しさ」に浸っていると、いつのまにか置いていかれる。アイスリボンだろうがどこだろうが、プロの世界はそういうものだ。だから雪妃のように、覚悟を決めて、明確な意思を持って変わる必要がある。実はすずも「アイスリボンの顔になると自分で決めた」と言っている。上に行くのか、このままでいいのか。自分で決めなきゃいけないのだ。
こういう状況で、主張が激しくなってきたのがトトロさつきだ。SNSでも、もちろんリングの上でも気合いが入っている。4.25道場マッチ、トーナメント1回戦ではテクラに勝利。技などの部分で、何か目立って「ここが変わった」ということではないのだが、試合へののめり込み方というか、要は気合いが違った。「このトーナメントを転機にします!」と、試合後のコメントも力が入りまくっていた。
松屋うのは、トーナメント1回戦で雪妃と対戦することが決まっている。このマッチメイクが発表になる前、4.18道場マッチでは、2人は6人タッグでチームを組んでいた。試合がクライマックスを迎えようとする中で、うのはファイト中の雪妃に触ってタッチを主張しリングイン、1人で暴れた結果、フランクシスターズに敗れている。
ただこの“暴走”は、雪妃を怒らせるほどのものではなかった。雪妃は最後までうのをバックアップしようとしていたし、すべて含めて「組んだら組んだで成長が見たい」とコメント。
4.25道場マッチでのうのは、星ハム子と組んで藤本つかさ&世羅りさと対戦。藤本を追い込む場面もあったが、結果として2大会連続での敗戦となった。
今のところは空回り。だがその空回りっぷりからも「私を見ろ!」という気持ちは感じられた。雪妃戦に向け、うのは「これはチャンス。掴んだら離さない」と言っている。
最近は朱里率いるジョイントアーミー、関節技を得意とする選手のユニットにも加入したうの。ブラジリアン柔術を学んでおり青帯を取得、試合でも道着を着るようになった。マウントポジションからの腕ひしぎ十字固めの入り方など、柔術やグラップリングの基本通り。プロレス的アレンジをしないというか、手順を省かないところが非常にいいと筆者は思っている。今はどれだけ伝わっているか分からないけども、こういう丁寧さがレスラーとしての“説得力”につながってきたら面白い。というかそうなってほしいのである。
今は日本が、というより世界中が「こういう状況」だ。アイスリボンも大会が次々に延期になった。代替として道場マッチ配信を行なうようになり、その中でIW19王座が復活した。しかし本来なら「中堅の奮起」はアイスリボン戦線の重要なテーマだったはず。トーナメント=ベルト争いの中でもそのテーマを示すことはできる。少なくとも筆者は、そこにテーマを見出すことがアイスリボンを面白くすると考えている。
トトロにしてもうのにしても、このトーナメントですぐに結果が出るとは限らない。それくらい、トップ選手たちの壁は高い。だが期待する価値はあるし、何より彼女たちに伝えたいのは「ファンはちゃんと見てるぞ」ということだ。今は空回りでも、とにかく動かなければ何も始まらない。そして動けば動いただけ、何かしら伝わるものだ。