水森由菜、「なんでもできる」から一歩踏み込むパッション抽出マッチ。その“根っこ”とは。
6月4日のスターダム後楽園ホール大会は、なにしろ“出来事”が多かった。
白川未奈とマライア・メイがタッグ王座に挑戦表明。星来芽依は鹿島沙希に勝ってハイスピード王座への挑戦をアピール。しかし鹿島は断固拒否。メインの世代闘争4vs4は30分ドローの果てにMIRAI参入、林下詩美離脱。
そういう中でベストバウトに挙げたいのが、高橋奈七永vs水森由菜のシングルマッチ。通常であれば「パッション注入マッチ」なのだが、水森はこっちがパッションを抽出すると主張して「パッション抽出マッチ」となった。
スターダムで育った若手が、スターダムを離れていた奈七永を体感する、という図式では確かにない。もともとスターダム以外のリングで接点があった2人。単純に“玉砕して何かを学んだ”みたいなことでは終われない試合だというのを、誰よりも水森自身が分かっていた。
“当たって砕けろ”ではない試合。観客の反応も試合が進むにつれて変わっていった。「水森やるな」から「これ勝つかも」という雰囲気。最後は敗れたが、持っているポテンシャルは後楽園の観客に伝わった。パワーがあるし気合い入ってるし、技の一つひとつに工夫がある。
地方巡業にも出ている水森だから、実力が認められているのは明らか。ただ現状に満足していると“前半戦で楽しい試合をする人”という印象ばかりになってしまう可能性もあった。
そこで今回の試合だ。この善戦は水森にとって、一歩踏み出す試合になった。試合後のマイクでも、大ベテランに呑まれなかった。目の前でコズエン入りを正式に表明。自分の道を選んだ。高橋奈七永のパッションを受け継ぐのは自分だと水森。コズエンにパッションはあるのかと問われると、自分が広めていくと。
水森由菜という選手はマッチメイクに応じていろんな立ち位置で闘える選手で、そういう意味で重宝される部分もあるんだろう。特にスターダムではそういう感じがした。なんなら歌とかダンスまでいけるわけで。
だが彼女の本領というのか、根っこの部分としては劣等感など暗い部分も含めて情念を叩きつけるレスラーでもある。さらけ出してナンボ。藤田ミノルとのラストマンスタンディングマッチ(それも市ヶ谷チョコレート広場で)がそうだった。藤田ミノルとラストマンスタンディングマッチをしたレスラーがスターダムに上がってるというのも凄いが。
高橋奈七永と闘い、パッションを抽出してコズエンへ。その根っこには藤田ミノルのような“生き様をさらけ出すプロレス”もある。ちょっとそんな選手は他にいないわけで、これからスターダムでの水森の存在感はさらに増すだろう。今まで通りかもう一歩踏み込むか、そういう勝負に水森は勝ったのではないか。