PDCAとコーチングが難しく感じる理由を考えた
無意識の前提
今回はこれからコーチングを学びたい、より学びを深めていきたい、そういう人たち向けに書いた。
僕はプロのコーチであり、同時にコーチ育成のためのトレーナー(ファカルティとCTIでは呼んでいます)という役割がある。
Co-Active Coaching®︎ をCTIのファカルティとしてコーチングのトレーニングをする中で、学び始めの人が難しく感じる理由、最近「これが影響している一つではないか?」ということが出てきた。
前提になっている思考方法、ビジネスマンの習慣というのか。
それはPDCA。今でもPDCAというのはビジネスでどのくらい重宝されているのか実感はわからないが、この前提がコーチングや対話を進めていくことに影響を与えることがあると感じる。
ICF(国際コーチ連盟)のサイトから
コーチングとは、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くことです。
対話を重ね、クライアントに柔軟な思考と行動を促し、ゴールに向けて支援するコーチとクライアントとのパートナーシップを意味します。
コーチングに目的や方向性はある。このコーチングをなぜするのか、何を得たいと思っているのかなど。ただ、一般的な会話と違うところはとても即興性の高い、その時起きたことにフレキシブルでいながら進めていくという特徴がある。(言葉だけではなく、身体性も含めたその人全てのリソースを介して)
何が生まれるのかクライアントもコーチもやってみないとわからない部分がクリエイティブで即興的であり、故に常にスムーズにいくことをよしとするのではなく、様々な思考的な実験や、体験をセッションを通して行うことでクライアントの学びや気づきが生まれていく。
CTIでは4つの礎(コーチングを行う上で土台となるスタンス)というものがあり、その一つに「今この瞬間から創る(原文:Dance in this moment)」というものがある。(詳しく知りたい方はこちらをどうぞ)
コーチング セッションはまるでクライアントとコーチの関係性が創るダンスのようで、一瞬一瞬の変化に合わせてその時に必要なダンスをお互いで織りなす。クラシックのような静かなリズムで学びに気づき時始めたクライアントが、一気に行動に向けてアクティブに、まるでロックのようなリズムで動き出す。
時に息が合わずに、ギクシャクすることもあるが、今この瞬間にい続けることが必要だ。「綿密な計画とそれに基づく実行」というより、「今この瞬間にいて、即興的に必要なことをする」に近い。
僕の新卒時代なのだろうか、やたらPDCAが大事だと教えられた。(そういえば昔はPDCだった気がする・・・)
とにかく、このPDCAは社会人にとっての基盤だ!くらいのインパクトが僕らの時代はあった。(新入社員研修でも叩き込まれる)
もともと、生産・業務プロセスの中で改良や改善を必要とする部分を、特定・変更できるようにするために提唱されたモデル。
10年前、独立するときに新入社員研修の依頼があった。その時も新入社員のメインの研修としてPDCAということを徹底的に叩き込む内容だった。研修のネーミングにもPDCAが入っていたような・・。
「仕事を進める上でのOSだ!」的に、喝を入れている研修会社の社長の言葉を聞いて、
「おれもそんな得意じゃないんですが‥」と思いながら、言葉には出せないトレーナー向けトレーニングの最中。妙に圧倒されてたことを思い出す。
それだけ叩き込まれた可能性がある。もちろん仕事にとても役立つ領域があることも事実。同時にすべてに当てはまるわけではない。
コーチングにおいては「Plan」からスタートする意識でいると(無意識も含め)、難しくなることが多い。
なぜなら「何を質問するのか?」「何が最適なのか?」などを計画することから始まるからだ。ただ相手(クライアント)は人なので思ったような答えを返してくれることばかりではない。計画はすぐに崩れる。そんなことのをしているうちに話はどんどん進んでいく。そして次は何をすればいいのか「Plan」している間は、クライアントとのつながりも作りにくい。(あー、この人次どうしようか考えてるなー、って相手からするとすごく伝わる)
ここで必要なのは、常に今のクライアントに関心を向けること。そして、そこから即興的に必要なことをPDCAで言えば「Do」する必要がある。
この「Plan」から始めるという無意識の前提は結構あるかと。多くの人は何かをしようとするとまずは計画するものだと思う。これ自体はとっても普通なことだし、それが多いに役立つ領域もある。ただコーチングにはこれが結構影響しているように思えてきた。
不退転の決意!がやばい
以前 ベストセラー作家、パブリックスピーカーでもある 山口周氏の講演の記事を読んでPDCAに触れていたことを思い出す。
記事全体:
https://logmi.jp/business/articles/322571https://logmi.jp/business/articles/322571
引用:
「PDCA」は昭和の考え方、「不退転の決意」はヤバい
PDCAって言いますよね? 計画(Plan)して、Doして、Checkして、Actionする。PDCAっていうこと自体が昭和の考え方だと思います。世の中に合わせるならば、まずDoなんですね。Doする。それで、うまくいっているかどうかCheckする。本格的にうまくいきそうだってなると、計画(P)をちゃんと立てて、やる。「DCPA」みたいな感じですね。
ところがなかなか難しい。5年前に野村総合研究所が日本の大企業の経営者1,000人ぐらいにアンケートをとって、いろいろな調査を実施して、調査結果としては大変おもしろいんですけども、その中に「次の世代の経営者に求める資質は何か」っていう設問があるんですね。
1つ目。筆頭が「決断力」。これは、わからないでもない。2位が「創造性」だったんですね。これも、わからないでもない。それで3位がけっこうヤバくて、「不退転の決意」ってやつだったんですね(笑)。
(会場笑)
「不退転の決意でやれ」って言われたら、何も始められないですよね。だってVUCA(注:「変動性・不安定さ」という意味のVolatility、「不確実性・不確定さ」という意味のUncertainty、「複雑性」という意味のComplexity、「曖昧性・不明確さ」という意味のAmbiguityという4つのキーワードの頭文字から取った言葉)で、わからないんだからね。
(VUCAな時代なのに、経営者をやるにあたって)「不退転の決意なんだな?」なんて言われたら、「いや、だったらやれません」ということだと思うんですね(笑)。一方でAmazonを見てみると、「退転の決意はあるな?」って聞いているわけです。
(会場笑)
「退転の決意、あるよね?」「あります、うまくいかなかったらすぐ退転します」なんです。ジェフ・ベゾスの肝いりで、彼自身が「始めよう」と始めた、Amazonのスマートフォン。Amazon Fire Phoneっていうのを出したんですね。あれは、1年未満で撤退していますからね。日本だったら「社長が肝いりで始めたら10年はやめられねぇぞ」って、たぶん戦艦大和の沖縄特攻みたいな感じになったと思うんですけどもね。
上記は文脈として複雑な時代に事業を進めていく上で、Amazonの例をあげて、Doから始めることが必要と言っているのだが、Co-Active Coaching®︎にも近いと感じる。
まず今にいてその場に必要なことをやるということは、前述の通り。まずはやってみる、要はクライアントに関わる、その全てがクライアントにハマるわけではなく、やってみた様子をみて臨機応変に常に応答する。もっといえば自分のした質問があまりクライアントに効果的でなければ、そこに固執せずに手放して、またその時に必要なことを行うということ。常に今この瞬間に居続けることだ。
違う言い方をすれば、コーチはたくさんの失敗(正確には失敗ではないが、機能しないこともありながらもクライアントの人生が豊かになる方向に向けた関わりを続けること)をしながら、次に必要なことを感じ取って素早く次に必要なことをクライアントと一緒に創り続ける。
よくデモコーチング(参加者の前で実際のコーチングを行うこと)などの後に、コースの参加者に聞かれる質問がある。
「コーチングの時に次の質問はどうやって考えているのですか?」
その答えは「あまり考えていない」ということになる。
(質問した人は一旦がっかりw どうやってPlanしているのか知りたくて聞いたのに、「してない」と言われるから。でもここで前提の違いに気がつく事は大きい from 自分の経験)
目の前のクライアントと今この瞬間にいることに集中していることで、その時に必要な質問が浮かぶのでそれをクライアントに聞いている。全く考える行為がないとは言えないかもしれないが、ほとんどない。少なくとも先回りしてPlanはしていない。
これからコーチング学ぶ人や学びを進める人へ
ここまで書いたけれど、これは本当にトレーニングでできるようになるものなので、これからコーチングを学びたいという人は安心して欲しい。
同時にはじめは少し今までと違うコミュニケーションの筋肉を開発することになるので、うまくいかなかったり、居心地が悪かったりするけれど、それはあなたが自分というリソースの新しい領域を開発している証拠なので成長という観点では素晴らしい感覚だ(Yeah!)。
そして、ほとんどの人が最初はうまくいかない。そう、必要なステップ。心配は必要なし。
この数年マインドフルネスなどの重要性がビジネスの世界でも積極的に取り入れられているが、今にいるという文脈で実際に現場のコミュニケーションにどう現れるかという意味ではコーチングを学ぶことの意味は幅広い。
PDCAが得意でなかった僕のサラリーマン時代、弱みだと思っていたことが、コーチングに活路を見出してくれたのかも。
時代に助けられていると感じる今日この頃です。