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【デュエプレ元ネタ探訪】偽りの羅刹アガサ・エルキュール

ご挨拶

どうも発声練習と申します。
Nワールド吹き荒ぶ季節、皆様いかがお過ごしでしょうか。
私のような邪神教徒には厳しい季節です。
(まあ自分も使う側に回れば気楽なもんです。へへへ。。)

さて、先日こちらのカードの実装が発表されました。

その名を、アガサ・エルキュール。
こちらのカード、元ネタは「ミステリの女王」アガサ・クリスティーと、彼女の産み出した名探偵エルキュール・ポワロです。
(光デーモンコマンドは、全体的にミステリ関連の命名になってるようで。)

有名とはいっても、「一度も読んだことない。」「そもそもクリスティーもポワロも知らん。」という方も多いのではないでしょうか?
今回は、そんな方々にも興味を持っていただけるよう、記事をしたためてみました。1冊でもクリスティー作品、特にポワロシリーズを読んでみたい、と思っていただければ幸いです。

まずは2人の紹介から入ろうと思いますが、
「とりあえず、オススメの作品だけ教えて!」な、アグロ志向の方は、
「何を読めばいい?」の章からご覧ください。

アガサ・クリスティーって?

親の顔より見た写真

1890年、イギリスに生まれた女性作家です。
1920年に「スタイルズ荘の怪事件」で長編作品デビューします。
数々の名作ミステリ小説を世に送り出し、「ミステリの女王」とも称されます。非常に多作な作家で、ハヤカワ文庫のシリーズではなんと96冊もの文庫本が出版されています。
(これだけ多いと、微妙な作品もまあそれなりにあるのですが。。)
エルキュール・ポワロのほか、もう1人の名探偵ミス・マープルも有名ですが、この2人が登場しない作品も多数です。
(最高傑作と名高い「そして誰もいなくなった」はそのうちの1つ。)
ちなみに本人的には、ポワロはあまり好きではなくて、マープルの方がお気に入りだったご様子。

彼女の作品の最大の魅力は、なんといっても「小説」としての完成度の高さです。ともすると「ミステリ」に偏ってしまうミステリ小説界隈において、終盤に向けて着々と盛り上がっていくストーリー構成、しっかりと彫り込まれた人物描写に、物語作者としての地力の高さが光ります。
ここが、何度読んでも面白い、というクリスティー作品の魅力にもつながっています。もちろん、大胆なトリックや意外な犯人といったミステリ小説の肝についても期待は裏切りません。

突飛な造形の人物や、殺人狂を安易に登場させることはせず、あくまで世俗的な動機(金銭、保身、嫉妬など)を持った犯人が多いです。
このあたりは、クリスティーの現実主義的な目線が伺えます。

名探偵エルキュール・ポワロ


TVドラマ版 デーヴィッド・スーシェ
クリスティーも太鼓判押したハマり役

ベルギー人。よくフランス人に間違われてます。元警察官です。
名前の「エルキュール」は、ギリシャ神話の英雄「ヘラクレス」のフランス語での読みです。(英語だと「ハーキュリー」。)
性格は、謙虚、、どころか、メチャメチャな自信家です。
「世界一の名探偵」を自称して憚りません。
しかしその自信にふさわしい、抜群の観察眼と推理力を発揮します。

代名詞は「灰色の脳細胞」です。這いつくばって足跡を観察したり、タバコの灰を集めたり、といったことはせず、あくまで頭脳を駆使して真相に迫ります。(一般に、「安楽椅子探偵」と言われるスタイルです。)
アガサ・エルキュールも効果発動時のボイスで口にしていますね。(シールド全部捲る総当たりで「灰色の総細胞」もクソもないのでは、というツッコミはさておき。)

非常に会話を重視する探偵で、何気ないやり取りを通じて、関係者や犯人から重要情報を引き出す場面が多々見られます。ただ、推理とは関係ない会話もエンジョイしていて、恋路を行く若人の背中を押したり、からかってみたりと、茶目っ気と愛情に溢れた一面も見せます。
本人的には「心理学の探求」でもあるようです。

極度の整頓好きかつ、潔癖症です。卓上の置物が少しでも不揃いに並べられていると、真っすぐに並べなおし始めます。子供のころに外気は不潔と教え込まれたらしく、部屋を閉めきっている描写なんかも。
甘党で、好物はホットチョコレートです。

ちなみに日本人キャストなら、ぜひ岩松了さんに演じてもらいたいです。
伝われ。
(「きみww灰色の脳細胞を使いたまえよwww」)

何を読めばいいの?ポワロものイチオシ5選

ひと口にポワロものといっても、長編で34冊、短編含むと35冊もあります。
「じゃあ結局何を読めばいいんじゃい!」
ということで、私の独断と偏見の選択(パーフェクト・チョイス)による5つをご紹介します。また、それぞれのイメージにあう、デュエプレのデッキを選んでみましたのでご参考までに。(ふう、強引に関連付けられたぞ。。)

1.ABC殺人事件

圧倒的Tier1。王道を思わせる、NEX、ネクラ超次元、Nエクスなど。
ポワロのもとに「ABC」を名乗る人物から送られた犯行予告。
悪戯の類と思われるなか、頭文字「A」の老女が殺害され。。
大胆不敵な犯行に、ポワロが立ち向かう。

個人的に最初の1冊目には鉄板。
個性的な登場人物が多数、ストーリーにも起伏があって飽きが来ません。
正体不明の犯人に、プロファイリングの手法で迫ろうとするポワロの推理過程も読みごたえがあります。特に解決編の面白さはクリスティー作品でも随一です。

初期の作品に多い、相棒役のヘイスティングズ一人称視点がメインの作品です。
ヘイスティングズは素直な性格の好人物で、
語り口が親しみやすく、彼視点の作品は比較的読みやすいです。
それだけでなく、とある人物にフォーカスした3人称のパートも挿入されるのがこの小説の肝で、非常にドラマチックです。


2.アクロイド殺し

Tier2~3。メカオー、ドロマーエイリアンなど。技巧的。
ABC殺人事件、オリエント急行殺人事件と並び称される、ポワロシリーズの代表作の1つです。

イギリスの田舎、アボット村の名士アクロイドが自身の書斎にて死体で発見される。村で隠居生活を送ろうとしていたポワロだったが、本書の語り部であるシェパード医師とともに事件の捜査に乗り出す。

初期作品ですが、ポワロというキャラクターの独自性がはっきりと確立されてきたのは、この作品からだと思ってます。

登場人物たちの嘘を1つ1つ解き明かし真相に迫っていく。地味めですが探偵小説の基本的な面白さがしっかり押さえられています。
ヘイスティングスとはまた違ったシェパード医師の語り口、ミスマープルの原型となった彼の姉キャロラインなど、本作ならではの魅力も満載。なお発表当時は激しく賛否が分かれ、ある意味問題作です。

3.ナイルに死す

Tier2。連ドラ、ライゾウなどの派手なデッキが好きな方に。

エジプト、ナイル川を旅する旅客船が舞台。
資産家リネット・リッジウェイとその夫サイモン。2人を執拗に付け狙うサイモンの元恋人、ジャクリーン。緊張が高まるなか、ある日ついに事件が起きるー。
居合わせたポワロが、事件の謎を解明すべく行動を開始する。

クリスティーはいくつか中東を舞台とした作品を書いていますが、もっとも代表的な作品の1つです。ポワロものでは最長で、ハヤカワ文庫版で実に580ページの大長編です。ややスロースタートな印象もありますが、客船という舞台を最大限に活用し、長さに見合った二転三転する展開が魅力の華やかな作品です。

「映える」舞台設定のためか、2回も映画になってます。
どちらも面白いので小説を読む時間が惜しい方は映画から入ってみてはいかがでしょうか?(ギフトライゾウ)

4.エッジウェア卿の死

Tier2~3。 ガントラビート、リース超次元ビートなど、王道戦術。

驚くべきエゴイストの女優、ジェーン・ウィルキンスン。離婚を渋る夫のエッジウェア卿を「殺す」と放言して憚らない。そんななかエッジウェア卿殺害事件が発生。しかし、彼女にはアリバイがあり、真っ先に容疑者から外れ、事件は混迷を深める。

上流階級の殺人を取り上げた、華麗な作品です。上述のジェーンをはじめ、アクの強い登場人物たちを相手取り、ポワロ殺人が殺人事件の謎に迫ります。冒頭にて紹介される、ポワロの犯した「失敗」とは?

ABCやアクロイド程の迫力はないですが、well-madeな良作です。
完成度の凸凹はあれ、安打率が高いのもクリスティーの魅力です。
この作品、ポワロシリーズでは、比較的犯人当てがしやすい(と思う)ので、そういった意味でも入門向けかもしれません。

5.五匹の子豚

Tier2。ドロマー超次元、トリーヴァグライフなど。渋好み。
「母は無実でした。」
16年前、画家の夫を殺害した罪で逮捕され獄中で亡くなったキャロライン。
その娘がポワロに真相究明を依頼した。しかし事件の当事者たちに、キャロラインの犯行を疑うものは誰一人としていない。
果たしてキャロラインは犯人だったのか?それとも?

中期以降のクリスティーが取り上げた「回想の殺人」(過去の事件の謎解き)のテーマの作品の1つです。16年前の事件ということで、物的な証拠はほとんど残っていません。ポワロは当時の関係者(被害者の親友、浮気相手、家庭教師など)からの証言を頼りに、事件の真相に迫ります。
ポワロが彼らから情報を引き出す手練手管や、各人の勘違い・嘘から真実をあぶりだすさまに、彼のキャラクターとしての持ち味が凝縮されています。

全体にノスタルジックな雰囲気をたたえた名作で、私のイチオシです。

一見の価値あり!?作品群

ここからは、オススメ、というよりは個性的な作品群のご紹介です。
前章のような代表的作品の後に読むと、味わい深い作品群です。

1.オリエント急行の殺人

超有名作ですが、個人的にはそこまで入門としてはオススメしません。
タイトルの通り、列車「オリエント急行」車中でストーリーが進行するのですが、意外と展開が平板な印象で、盛り上がりに欠けるからです。(この点は、作品のオチに由来するものでもありそうですが。)
とはいえ、大胆過ぎるラストは一見の価値ありです。

最近映画化された「オリエント急行殺人事件」は、うまくドラマの盛り上がりを補強した良作ですので、そちらをオススメします。

2.スタイルズ荘の怪事件

クリスティ―の長編デビュー作。
友人の招きでスタイルズ荘を訪れたヘイスティングスは、屋敷の主人、ミセス・イングルソープの毒殺事件に出くわす。ベルギーから亡命し、村に滞在していたポワロが調査を開始する。

さすがに第1作ということで、ちょっと粗削りな印象ですが、最有力容疑者が二転三転して、読者の鼻面を引き回す展開の面白さはすでに十分です。

ポワロが普通に物的証拠の収集に勤しんでいて、その後の作品での「証拠収集は警察に任せておけばよろしい!」的なスタンスとはズレがあったりします。まだポワロのキャラが固まらず、シャーロック・ホームズなどの影響下にあることが伺えて、興味深いところです。

3.ビッグ4

問題作その1。
クリスティーはデビュー後、夫の浮気のショックで失踪、離婚にいたるという人生最大の苦難に直面しますが、その時期の作品です。
まだショックの残るなかだったということで、以前に書いた短編群を集めて改作する、というスタイルで執筆されています。

そういった経緯もあってか、国際犯罪組織「ビッグ4」が登場してポワロに立ちはだかる、というコナンめいた超展開を見せます。
冒険小説テイストが色濃く、ポワロシリーズでは相当異質な作品です。
が、このトンデモ感も味わいだったり。。

4.杉の棺

個人的に好きな作品。
幼馴染で婚約者であったロデリックとエリノア。ところがロデリックは実家の門番の娘、メアリィに一目惚れし、婚約は解消されてしまう。そんな中、エリノアと食事を同席したメアリィが毒殺され。。といったあらすじです。メロドラマ色の強いストーリーですね。

ミステリとしてはトリック部分が弱い感もありますが、登場人物の揺れ動く心情描写、ガッツリ入る法廷パートの新鮮さなど、小説としての読み所が多い作品です。

以下は本文からの抜粋ですが、クリスティーの、短文で最大の効果を上げる筆力の高さが感じられます。
※エリノアがロデリックに、自身からもメアリィからも一度距離を置いて冷静になろう、と提案してロデリックに感激されたシーンの直後です。

衝動的にすばやく接吻をすると、彼(註:ロデリック)は出ていった。
彼は振りむきもしないで行ってしまったが、そのほうがたぶんよかったのだ。

「杉の棺」

5.カーテン

問題作その2。
時系列的にはポワロシリーズ最終作です。長編第1作の「スタイルズ荘」を舞台に、最晩年のポワロがこれまでにない異質な犯人に向き合います。中期以降の作品では出番のない、ヘイスティングズが語り部を務めます。

カラッとした雰囲気の作品が多いクリスティーですが、全体に重く陰鬱な雰囲気が立ち込める異例の作品です。1975年に発表された作品ですが、実際に執筆されたのは1940年ごろです。個人的に、晩年の作品はさすがに御歳を感じさせるものが多いですが、この作品はまだ勢いのある時期に書かれているため、文章・構成ともに緊張感があり、非常に読ませる作品になっています。

なかなか衝撃的なラストを迎えるので、ポワロシリーズ遍歴の果てに読むことを強くオススメします。近年のミステリ界隈で見られるセンセーショナルな要素を先取りし、かつ重厚な作品に仕上げているあたりは、まさに「女王」の風格を感じます。

最後に

いかがだったでしょうか?
今回はポワロシリーズに焦点を絞りましたが、クリスティー作品にはこの他にも様々な名作が存在します。直近だと、以下のような名探偵の登場しない作品たちも、続々ドラマ化されています。この辺りからクリスティーに触れてみるのも、全然あり、です!
(かなりアク強めのアレンジがされてますが、私は大好きです。)

最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。
それでは、よきクリスティー・ライフを!


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