276.彼女はグルメだ。階下に降り、冷蔵庫の前で待つ。男が扉を開けけると、昨夜茹でた鳥のささ身を取り出し、レンジで数秒温めて、手で千切って、小分けして皿に盛る。マドモアゼルだけに許された贅沢な朝だ。男は薬缶で湯を沸かし、朝からカップ麺をすする。彼女が幸福であれさえすればよいのだ。
277.優雅な朝食後、彼女はブラッシングを受ける。専用の櫛で長毛を整えて行く。抜け毛が一玉できる日もある。一通り終わると、彼女は毛繕いする。男の手が伸びる。彼女は愛されるため生まれた。彼女を甘やかし、甘やかし、甘やかす。猫は人類が経験している病だ。宿痾だ。決して癒される事はない。