残照小説 2024/09/20捕獲 仮題:金平糖が降る ぽつ、ぽつ、と降っているのは、雨とばかり思っていたが、見ればそれは金平糖だった。
残照小説 2024/07/24捕獲 仮題:冬蝉 朝、目覚めると蝉の声がした。 布団に包まりながら(ああ、蝉が元気だなあ)と考え、遅れて気付く。 おい、今は真冬だぞ。
残照小説 2024/04/14捕獲 仮題:瞳孔の鯨 瞳孔の中で、鯨が泳いでいる。
残照小説 2024/02/07捕獲 仮題:心からの忘れ物 駅に着いたところで、ふと、心臓を忘れてきたのに気付いた。
残照小説 2023/11/24捕獲 仮題:多分博士が何かやらかした ぽん、と軽い音を立て、僕の家は空の彼方へ吹き飛んでいった。 「博士ー! 絶対失敗しないって言いましたよね博士ー!」
残照小説 2023/12/6捕獲 仮題:キナギ様と母と父 コンコン、ガタガタ。 扉は叩かれ、窓は揺れる。キナギ様がやってきた合図です。私は庭にいる母に声をかけました。 「ねえ、お母さんも早く家に入らないとダメだよ」 「わかってるけど、まだお父さんを埋め終わってないのよ」
残照小説 2023/11/20捕獲 仮題:林檎を孕む そうですね、そもそもの始まりは、あの女が林檎を孕んだ事でした。人名じゃありませんよ、果物の、スーパーだとか八百屋なんかで売られているような食べ物の林檎ですよ。
残照小説 2023/11/14捕獲 仮題:観覧車に乗って 「あら、電車じゃ駄目よ。あの街に行くんなら、観覧車に乗らなくちゃ」
残照小説 2023/11/02捕獲 仮題:隕石の如く まるで地球に衝突せんとする隕石の如く、竜太の巨大なしっぽが勢いよく僕へと向かってくる。避けなきゃ死ぬ。わかっているのに足が動かない。 衝撃。 地面に倒れる。しっぽじゃない、誰かの手が僕を突き飛ばしたのだと気付いた。
残照小説 2023/11/01捕獲 仮題:歌と風 歌声が響いていく。 廃墟に、草原に、大空に。 風とともに。
残照小説 2023/10/26捕獲 仮題:手 地面がぼこぼこと膨れ上がり、たくさんの手が生えてきます。 そのたくさんの中に、叔父さんの手があるのを、私は見つけました。間違いありません。あれは叔父さんです。
残照小説 2023/10/28捕獲 仮題:失われた本 彼は、ぽつり、ぽつりと語りだした。 「取り戻し、たかったんだ。彼女の著作を。……彼女が、死ななかったら、もしも今も生きていたら、書いていただろう、世に出ていただろう彼女の本を。この世から、失われた、彼女の物語の続きを」
残照小説 2023/10/25捕獲 仮題:■■様 「どうして」 ■■様が、父を、母を、食べていく。悲鳴を上げていた両親の顔が、■■様の口に押し込まれて見えなくなる。 どうして。 どうして、■■様は暴れるの。 どうして、私は喜んでいるの。
残照小説 2023/10/18捕獲 仮題:非クラムボン 「かぷかぷ笑うのってなんだっけ」 「クラムボンでしょ」 「それだ」 私達の学校を破壊した怪物は、口のような穴を歪ませ、かぷかぷかぷと笑っている。 「あれが……クラムボン……?」 「違うと思うよ」
残照小説 2023/10/14捕獲 仮題:麦わら帽子と入道雲 麦わら帽子飛んでった。 お婆様の後を追うように。 私はそれを見送った。 入道雲だけが後に残った。
残照小説 2023/10/05捕獲 仮題:白 白かった。 ただただ、白かった。
残照小説 2023/09/30捕獲 仮題:出会い けれど、その缶コーヒーは、まだ冷たかった。 「いや、嘘じゃないですか。買ったばかりですよね、これ」 「ほら、やっぱり君は気付く人だ」 本日出会ったばかりの筈の先輩は、あなたのすべてを知っている、みたいな瞳で私を見る。
残照小説 2024/09/15捕獲 仮題:配線と男性 ジャングルみたく鬱蒼とした配線の中を掻き分け掻き分け進んでいくと、見えてきたのは、まだ稼働しているらしき大型の機械。……そして、その機械に繋がれた男性の上半身だった。
残照小説 2024/09/07捕獲 仮題:信号を出す 信号を出していたのは、この廃墟自身である、と。 そう、キュウミは語る。
残照小説 2024/07/10捕獲 仮題:点滅 チカ、チカ、チカ、チカ。 彼女の瞳は点滅していた。
残照小説 2024/07/01捕獲 仮題:神の最期 ああ、燃えていく燃えていく。 我らが神が燃えていく。
残照小説 2024/06/08捕獲 仮題:いない 「でもねそもそも、あの人には娘なんていなかったんだ」
残照小説 2024/06/02捕獲 仮題:弾けた 弾けていった。 夕焼けも、風船も、私たちも。
残照小説 2024/05/11捕獲 仮題:瓦礫の下から 瓦礫の下から覗く左腕には、見覚えがあった。 あの腕時計は。あの服の色は。あれは。 「なんで、あんたが」 左腕は、ぴくりともしない。 「なんで」 問いを投げかけても、返答はない。
残照小説 2024/04/03捕獲 仮題:汚れた爪 「どこに行っちゃったのかなあ」 そう呟きながら、彼は素手で土を掘り続けている。
残照小説 2024/03/15捕獲 仮題:白のドラゴン そこへゴウッと大きな音が響き、見上げれば、真っ白なドラゴンが空を飛んでいた。 飛行機のようだと思った。
残照小説 2024/03/09捕獲 仮題:脳というものは 「いや、脳が消えても魂は残るよ。脳というものは魂の観測装置であって、魂そのものではないからね」
残照小説 2024/03/03捕獲 仮題:腕 パンッ! という音を残して、僕の腕は飛んでいった。
残照小説 2024/02/26捕獲 仮題:玉葱の種 「玉葱って、中身が出てくるまで剥けばいいんですよね」 「…………表面の皮だけ剥く。わかる?」 「えっ」 こいつホントに料理しねえんだなと思いながら後輩の手元を見ると、玉葱の皮の隙間から桃の種みたいなものが覗いていた。
残照小説 2024/02/23捕獲 仮題:妹の中から どぶり、どぶりと、妹の中から私が醜い音を立ててこぼれ落ちていく。 ああ、失敗したんだと悟った。
残照小説 2024/02/22捕獲 仮題:愛猫と親友の命 死んだ飼い猫が帰ってきた。 親友を殺した甲斐があった。
残照小説 2024/02/15捕獲 仮題:目覚めと廃墟 随分と長く眠っていたような気がする。 重い瞼を開くと目の前に広がるのは廃墟だった。
残照小説 2024/02/14捕獲 仮題:水筒の弟 すると、水筒の中から弟が這い出してきた。
残照小説 2024/02/05捕獲 仮題:通れない 「実はさ俺あそこ通れないんだよね死んでるから」 は。 何を言っているんだ、この人は。 何を、軽い口調で。 だって、ふたりで脱出する為にずっとここまで頑張ってきて。 「な、だから、お前、ひとりで行けよ」
残照小説 2024/01/24捕獲 仮題:地球へ それは、地球であった。 荒廃していない、生きた地球の姿がそこにはあった。私達の、目の前に。
残照小説 2024/01/20捕獲 仮題:おいで おいで、と誰かが僕を呼ぶ。 応えちゃいけない、と、知っている筈なのに僕の足は勝手に動き出し声の方へ進む。
残照小説 2024/01/19捕獲 仮題:腹の中 あぁ。そうか。なるほど。 俺は今、坊主の腹の中にいるのか。
残照小説 2024/01/13捕獲 仮題:埋まる病室 病室を覗くと、そこのベッドで寝ている筈の友人の姿が見えなかった。 「おおい、ここだ、ここ」 彼もベッドも完全に、見舞いの品で埋まっていたのだ。
残照小説 2024/01/08捕獲 仮題:レールが走る そこには、電車のレールが走っていた。 そう、電車ではなく、電車のレールがガタゴトと音を立てながら走っていたのだ。
残照小説 2024/01/05捕獲 仮題:戻す為に 戻す為だったのだ。 館の住人達も、街の人々も皆、ロボットを未来へ戻す為に存在し、行動していたのだ。
残照小説 2023/12/22捕獲 仮題:わからない 「わからない」 その男は、自分自身の事がよくわからないと感じていた。だから、自分をバラバラに分解してみる事にした。まず腕を切り落とし、足を切り落とし、首を切り落とす。それでもまだ男には自分がよくわからなかった。
残照小説 2023/12/21捕獲 仮題:循環と部分 始まりも終わりもないのさ。全ては循環している。我々はその循環の一部分だけを見て、その一部分の端と端を見て、それを始まりと終わりなのだと認識しているだけだったんだ。実際には、それは循環の中の特定の二点に過ぎない。
残照小説 2023/12/19捕獲 仮題:鉄の腕 『あっ、お医者さん? お医者さんだ! 良かったぁ。探してたんだよ、あのね、この人を治してあげてほしくて』 医療スタッフに向かって差し出された、ロボットの太い腕。 そこには、体の半分が潰れた、一人の男の死体が抱えられていた。
残照小説 2023/12/13捕獲 仮題:偽装指紋 包丁に付着した血も、あいつの指紋も、全てがきちんと消えるように念入りに拭いてから、俺の小指の指紋だけをそっと付けた。まるで、俺が“自分の犯行”を隠そうとし、けれど消し損ねた指紋が残ってしまったかのように。 偽装した。
残照小説 2023/11/29捕獲 仮題:向こう側の虚無 「じゃあ、向こう側には何も無いのか?」 男は頷く。……いや。そんな筈ないだろ。あってたまるか。そこに何も無いのだとしたら、俺がこれまでやってきた事には何の意味があったって言うんだ。 何も。 意味も、何も、無いのか。
残照小説 2023/11/12捕獲 仮題:魔女の悲鳴 あの、遠くから聞こえてくる奇怪な音の正体が魔女の悲鳴であるのだと、僕だけは知っているわけです。
残照小説 2023/11/05捕獲 仮題:降る星 流れ星が降ってきた。 僕らの町に降ってきた。 そして全てを潰していった。
残照小説 2023/11/04捕獲 仮題:嗄れた声の少女 「君は誰?」 僕の問いかけに、少女はこてりと首を傾げる。 「おかしな事を言うね。あんたが私を作ったのじゃあないか」 少女の声は、嗄れていた。
残照小説 2023/11/03捕獲 仮題:先 そこには、先輩の上半身だけが転がっていた。