よく知らないTV番組を、見るというよりはただつけていて。戸棚にある物を確認もせずに食べた。明日も仕事あるし早く寝なきゃとか、せめてちゃんとご飯食べなきゃと思うんだけど。袋の中身が無くなって、食べカスと口の中の醤油の香りで煎餅を食べてたんだと気がついた。ああ、田舎にかえりたいなぁ。
彼を鍛え上げたのは、100℃をゆうに超える高温の鉄板。やわなもち米だった彼は灼熱の洗礼を受け、その肉体に鋼鉄のごとき強靭をまとう。生白かった肌さえもたくましい褐色に変じ、すあまやようかんやきんぎょくがこぞって秋波を送る偉丈夫へと成長した。和菓子界随一の硬派、その名はおせんべい。
やわな口溶けに戦慄する。これは何だ。せんべいといっていいのか。まるでチャラ男のような軟派な感触に僕は違和感を抱く。でもうまい。せんべいは硬いという常識を超えた柔らかさに感動すら覚える。たっぷりと染みた醤油の味はまろやかでいて濃い。口の中に広がるその味は僕の常識を塗り替えた。