コーヒーチケット
前略
2021年が幕を開けて、およそひと月。『われらが走り書きの日々』もそろりと幕を開けようと思う。それでは、私matsuonより……。
喫茶店に行くことが増えた。我が家から自転車なら3分ほどのところだ。向かいには小さな神社がある。存在は知っていたが入ったことはなかったその昭和レトロな喫茶店へ、軽自動車に乗って向かう。父が「コーヒーを飲みに行きたい」と言うからだ。父は末期がんの闘病中。もう一人では歩いて出掛けられなくなった父の唯一の楽しみが、この喫茶店でモーニングを頼み、置いてあるスポーツ新聞を黙々と読むことなのだ。
店内にはギターからピアノまで、マスターの趣味だという楽器がたくさん並ぶ。月に一度はミニライブも行われいてるという。壁がやや黄ばんでいるのは長く喫煙OKだからだ。行き場が減ってしまった喫煙者が集まってくるため、時に相当煙たい。しかしコロナ禍。ドアや窓は開け放たれ、換気もされていることで、たいていなんとか留まれる。また、時間を少々ずらせば、父と私以外、ほぼ誰も訪れない時間帯もある。今ではモーニングの時間切れとなる11時前、ほぼ貸し切りとなるその時間帯を狙って、二人で家を出る。マスターもはにかんだ笑顔で迎えてくれる。
そんなこんなで、父との喫茶店通いは昨秋から週1~2のペースで続いている。1冊11枚綴りのコーヒーチケットを買うのももう何度目だろうか。11枚目を使う時は、1冊を使い切れたことにホッとするのだ。
草草