見出し画像

午前10時。訪問看護師さんが来る

前略

シミ……。otemoyan55さんのお父さまにしてみたら、いつの間にか大きくなっていく様は不安に感じられたでしょうね。私もふと自分の手の甲を見た時に「おお、こんなとこにもか」と若干、脈が速くなりますが、それなりに生きてきたんだからと(棒読みで)自分に言い聞かせています。ああ、今年ももうそろそろ日傘を準備する時期ですね。

―― 我が家ではそうこうしているうちに、父はすっかり歩けなくなり、意識も朦朧、寝た切りになった。いわゆる、がんの終末期だ。2月末に発熱し、救急車で運ばれて緊急入院。PCR検査は陰性だったけれど、軽い肺炎を起こしていたため1週間ほど入院することに。とはいえ、このコロナ禍。ベッドは満床。状態が落ち着いたところで退院を促され、在宅介護が始まった。

医師からは「明日の朝には息を引き取っているかもしれないし、1ヵ月がんばるかもしれない」と曖昧なことを言われたが、それ以上言えることはないのもまた真実なのだろう。介護保険でレンタルしたベッドに、同じくレンタルのエアマットを乗せ、そこに父が横たわる。このエアマットはタイマー制御で片側が膨らんで自動的に体位変換を促し、褥瘡(床ずれ)を予防するという。ケアマネジャーからそんな説明を受け、そんなものがあるのかと驚いた。

それからの数日間は、訪問看護師、訪問ヘルパー、訪問リハビリ、訪問入浴のそれぞれの担当の方々がやって来て、説明を受け、契約……というなかなかの慌ただしさ。リモートワークの時期でよかった。それぞれ専門の方がケアをしてくれることで大いに助けられているが、それでも家族の負担がゼロになるわけではない。家族が見守り、ケアする時間のほうがはるかに長いし、父も家族にはワガママを好き放題言う。母は身体的・精神的にも相当疲れているようだし、私もそれなりにクタクタだ。

こんなに専門家の助けを受け、さらに母と私(と、たまに弟や私の夫)という複数の介護者がいても、これほど大変だとは。いったい、ワンオペで介護している方々、単身の高齢者や身寄りのない方々、ヤングケアラーと呼ばれる10代で家族の介護を担っている若い方々の大変さはいかほどなのか。これまで”想像”していた(つもりになっていた)こういった方々の大変さは、“想像”と言える域のものではなかったのだと、頭をガツンと殴られた気持ちになった。

午前10時過ぎ、家のチャイムがなる。訪問看護師さんが我が家を訪れてくれる時間が、こんなに母と私を安堵させてくれるものだとは。そして、ワンオペ介護やヤングケアラーの方々は、ひとときでも息をつける時間はあるのだろうか、そんなことが頭の中をぐるぐる回り出す。

草々

matsuon



いいなと思ったら応援しよう!