自転車とおばはん
自転車で散髪に行った。
中野に住んでいたころ、
友人に紹介された美容院だ。
それ以来、一度も美容院を変えることなく
『行きつけ』と化した。
よく行く定食屋のおばちゃんが
『東京のお母さん』なら
この美容院の僕の担当の人は
『東京のお兄ちゃん』だ。
僕に兄はいないので実際にお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな、と。
よく髪を切ってくれたりするのかな、と。
そんなことないよね。
その美容室は中野にあり、以前は中野近辺に住んでいたので簡単に行くことが出来たが、今はそこからだいぶ遠いところへ越してきてしまい、幾分、遠くなってしまった。
自転車で約1時間かかる道のり。
電車で行っても乗り換え回数が多く、結局同じくらい時間がかかってしまう。
だから運動がてら自転車でいくようにしている。
その日は夜21時からの予約だった。
いつも営業後に切ってもらっているのでそのくらいの時間になる。
余裕をもって19時50分ごろに家をでた。
中野に向かう道中、1本道がある。
そこまで広くないものの自転車が
2台通る分には充分な幅がある道。
前方からママチャリに乗った
おばはんがきた。
お互い自転車のライトはつけている。
『僕はこっちに寄せて通りますよ!』
そんな意味も込めてベルを鳴らす。
お互い意思の疎通は出来たはず。
しかしすれ違う2秒前になっておばはんが
『あら、危ない』と言いながら急に自転車を降りた。
僕は目の前が真っ暗になった。
『ウソやろ?』
僕とおばはんはいま、
意思の疎通が取れてたはずやん。
お互いの心の内をさらけ出したはずやん。
以心伝心ちゃうん?と。
百歩譲ってすれ違うタイミングになっておもったより道幅が狭いなと感じて降りたならわかる。
でもこの場合はお互い様やんな??
どちらか一方が悪いなんてことは無いはず。
でもあろうことかおばはんは
『あら、危ない』と僕に投げかけてきた。
100対0で僕が悪いみたいに言うてきた。
なんやこいつ!!!!!殴ろうか?!
僕は沸点がジエチルエーテルくらい低いのでぶん殴って黙らそうかと思った。
チャゲアスが2人がかりで止めるくらいすぐ殴りに行こうとする。
あかんあかん、
ここでおばはんと争っても仕方ない。
憎しみは新たな憎しみしか生み出さへんってばよ!ってナルトも言うてた。
『あっ、すんません~!』と言いながら
僕も自転車を降りた。
すれ違い様におばはんはむっとした表情で
『気を付けてね』と僕に言い放った。
僕は反射で『お前もな』と言ってしまった。
そう言われたおばはんの背中は
すれ違う前より少し小さく
そして、寂しそうに見えた。
僕はまだまだ小さい男だ。
おばはんに優しくすることも出来ない。
でもこれから先、成長しようという気持ちさえ忘れなければもっと器の大きい男になれるのではないだろうか。大切なのは今、おばはんに優しく出来ているかどうかではなく、おばはんに優しくしてあげよか…という心構えなのではないだろうか?
これからの成長力、それを見越して
共同通信杯の本命を打たせてもらう。
共同通信杯
◎ベラジオボンド