餅投げ
新築の家が建つ時、建前という行事がある。田舎の建前では家主が餅投げをすることが多かった。
子供の頃は建前の餅投げに参加するのが好きだった。母や兄、姉と一緒によく餅を拾いに行った。餅は家の2階から投げられる。餅をたくさん拾うコツは「上を見ず下を見ること」餅を投げる人を見ていたら出遅れる、地面に落ちる餅を見てすぐ拾う。母の姿を見てそれを学んだ。餅投げの一番の盛り上がりは隅の餅が投げられる時だ。家の四隅からひときわ大きなお餅すなわち隅の餅が投げられると大人達がそれを奪い合う。時々組み合い砂埃をあげながらゴロゴロ転がりながら殴り合う荒くれた男達を見たこともある。隅の餅を取ると縁起が良いという言い伝えがあるらしい。
小学校高学年の頃、母の実家の建前があり餅投げに参加した。餅投げのハイライト隅の餅が投げられる時が来た。四隅に立った男達が隅の餅を投げた。私はあの恐ろしく荒々しい隅の餅の奪い合いに関わり合いたくなかったので少し離れた場所で立っていた。1個の隅の餅が何かにぶつかって方向を変えコロコロコロコロと私の方に転がってきた。そこには私しかいなかった。転がってきた隅の餅を拾い周りを見渡した。大人達が恐い目で私を見ていた。私は両手で隅の餅を抱きしめた。
母が隅の餅を抱きしめた私を見てにっこり微笑んで言った。「無欲の勝利やな」