すべらない恐怖のバスの話
大学時代、夜8時位に家庭教師を終え、近くの停留所でバスに乗った。そのバスの終点は実家より7km手前の停留所だった。父がオートバイで終点まで迎えに来てくれることになっていた。
いつもとは違う道を通りながらバスは夜道を走っていた。乗客は一人減り二人減り、やがて私ひとりになった。終点が近づいてきた時、突然バスの明かりが消えた。バスが暗闇になると運転手が歌い始めた。私は暗闇の中で恐怖に慄きながら、運転手を見ていた。運転手は歌いながら片手の拳を突き上げていた。運転手の歌声は更に大きくなり、身体の動きも激しくなってきた。
窓の外を見るとオートバイの近くで立つ父が見えた。私はこのままバスで拉致されると絶望した。しかし勇気を振り絞って運転手に「すみません!」と声をかけた。運転手は異常にビックリして「ひゃ〜!」と叫んだ。
運転手は乗客が全員バスを降りたと思って、気持ち良くひとり歌っていたのだ。
無事父のオートバイに乗り家に帰った。その夜はこの話で家族の爆笑をとった。このエピソードは今も私のすべらない話のひとつだ。