庭に置かれた洗面器
小さな頃は瞬間湯沸かし器も給湯器もなかった。水道からは冷たい水だけしか出なかった。私が育った村は冬凄く寒かった。朝冷たい水で顔を洗うのが大嫌いだった。
ある朝起きて庭に出た。庭に湯気の立った洗面器が見えた。母が顔を洗う用に洗面器にお湯を入れてくれていた。冷え切った手を洗面器のお湯に浸けるとじんわり暖かく幸せな気持ちになった。そしてその暖かいお湯で顔を洗った。
私が頼んだのか母が気を利かせて洗面器にお湯を入れてくれたのか覚えてない。ただポツンと庭に置かれた湯気の立った洗面器の光景は鮮明に覚えている。
そんな母の優しさに毎日包まれながら子ども時代を過ごせたことは私の一番の財産だ。